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第一部 現代編――。

第三話 ハウスキーパー。

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 さて。嫌がる美幼女に、何故にこんな鬼畜紛いの所業をしているか。


 写真を売って生活費を捻出する――ま、お金の為だね。


 風呂もない六畳一間のボロアパートに住まねばならないほどに貧乏なんですよ。
 昼は自転車店、夜はコンビニのアルバイトを掛け持ちして日銭を稼ぎ、廃棄弁当などを頂戴して、日々、食い繫いでいる現状だ。

 中身はアレな性格でも、美幼女の姿をしたマリアンヌ嬢――マリーの容姿は凄く可愛い。
 たった一枚の写真が明日を生きる糧になるかもしれないのなら、それを利用しない手はないでしょう?


 そう、全ては貧乏なのがいけないのだよ。


「ほらほら、香ばしいポーズよろ。俺達が明日も生き残れるかは、マリーの働きにかかっているんだから」

「とても甘美な笑顔に御座います、マリアお嬢様っ! もっと悔し涙で媚びて下さいませっ! エロティックさは不要っ! 必要なのは苦悶に満ちた人を呪うが如くの純真無垢な笑顔に御座いますっ! 大きなその筋のお友達と紳士な皆様の庇護欲を掻き立てるようにっ!」

 ツルペタな胸元に『まりあんぬ』と書かれたスクール水着に身を包んだマリーが、女の子座りでしな垂れ、上目遣いで見上げる有様を、これみよがしに容赦なく撮影していく下衆徒ゲスト君。

「中々にドSだな、下衆徒君も」

「お褒めに与り、光栄に御座います……マイロード」

「お主ら息ピッタリじゃのっ⁉︎ 煌びやかに過ごしたわらわが、何故にこんな悪辣な目に……。こんな惨めったらしい生活なぞ、あってはならん、ありえんのだっ! 屈辱じゃっ!」

「最早、黒歴史だからね、それ。今はただの美幼女。働けない。お金もない。巫山戯ふざけるっなって感じ」

「くっ……言わせておけば……。妾がこのような辱めを受ける羽目になろうとは……この人でなしめっ!」

「マリーがそれを言っちゃう? 泣こうが喚こうが容赦なく謂れのない拷問にかけては惨殺してきた悪虐? 悪役? そんな令嬢とは、到底、思えない台詞だよな?」

「くっ……それは……。ええいっ、主めっ! 覚えておれよ――」

 そう。忘れてはいけないのは、マリーに下衆徒君は、所謂、追放された罪人。
 この六畳一間から出ることも許されず、何処かに逃げようとも必ずここに戻される誓約で、最早、監禁に等しい厳しい規制を受けている。
 必然的に働くなんてことはできやしません。
 それは風呂もなく便所も共有なこのボロアパートでは、牢獄以下の劣悪な環境を意味する訳で。


 たらいとおまるを用意するの?
 誰が片付けるの? 俺、嫌だよ?


 と言うことで、俺の部屋は牢獄じゃないからと訴えた結果、働く許可は得られなかったものの、例外措置として銭湯の往復と個人の尊厳便所の自由だけは、なんとか譲歩してもらったけど。


 それを成しえた者は、実は俺ではなくってですね――。


、ぼちぼち夜勤に行くから、マリーを銭湯に連れて行ってやって」

 貧乏な六畳一間には場違いな格好で、俺の後方に気配を消して優雅に佇んでいた、ハウスキーパー家政婦に声を掛ける。

『――畏まりました』

 由緒正しき英国様式のヴィクトリア朝・使用人の作業着スタイルのメイド服に身を包むハウスキーパーが静かに動き出し、アヒルの玩具が入った魅惑のお風呂セットと着替えを用意し始めた。


 厳しい異界での冒険時代に、俺と共に戦った親密なお友達でもあるミサである。


 実は液状魔法生物スライムと同一の基礎理論で造られたホムンクルスで、容姿も俺好みに自由自在に変えられる、とんでもない仕様。
 魔素の代わりに電気で動く仕様に変えられた為、毎月の電気代が馬鹿にならないってことが、唯一の欠点。
 異界では当たり前に存在していた魔素や魔力なる謎な物質なんてのは、こっちの世界にはないので。

 俺にしても本来ならば、マリー達二人のように、現代には何一つ持ち帰ることはできない。

 だがしかし。異界の窮地を救ったその功績を称えられ、有事の際の異界との連絡係を担う誓約をさせられた上で、特例としてお持ち帰りすることを認められた――認めさせた訳で。

 そう言う訳で、この六畳一間の管理とマリーの面倒見係も今は兼任してる重要人物で、文字通りのハウスキーパー牢獄管理人となる。

『ご用意が整いました。マリー様、早速、銭湯へと向かうことと致しましょう』

 顔色一つ変えず、抑揚なくそう告げると容赦なくマリーを抱きかかえるミサ。

「――ちょっと待つが良い、ミサ。妾にこのような薄く卑猥な下賤の者が纏う衣を着せたままで、まさか外に連れ出そうと言うのではあるまいな?」

『サバト様のご指示は、銭湯へ連れて行け。に御座います。お召替えは含まれてはおりませんゆえ』

「謀ったな、主っ⁉︎ どうあっても妾を痛ぶるのじゃなっ⁉︎ この外道っ! 鬼畜めがっ!」

「流石はマイロードっ! 素晴らしい鬼畜振りに御座いますっ!」

「――くっ。ならば風呂上がりにいちご牛乳を所望するっ! 妾は辱めに耐えて頑張ったし頑張るのじゃっ! 僅かな褒美を所望するぐらい良いであろうっ!」

 半ベソで手を出して強請ねだるマリー。

「銭湯に行けるのも三日に一度な貧乏暮らしだぞ? そんな余分なお金はないっ! コンビニの廃棄の中にスイーツが残ってたら持って帰ってやるからそれで我慢しろ――それよりも弁当が残ってくれるかが問題だけど。飯抜きはキツい」

『サバト様、行ってらっしゃませ』

「行ってらっしゃいませ、マイロード」

「ぬぅ――妾がひもじい想いをせぬようたんと稼いで参れっ! スイーツとやらも期待しておるでのっ!」

「――貧乏は罪だよなぁ。追放先の俺に面倒見させるんなら、養育費と言うか生活費くらいは寄越せっての。はぁ――辛い……」

 玄関に置いてある安物のママチャリに跨がり、鬱な気分で愚痴りながら仕事へと出掛けるのだった――。

 

 ――――――――――
 悪戯はまだまだ続く。(笑)
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