黄昏の騎士

紫ノ宮風香

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美味しそうな匂いがする。
目を開けたら自分の部屋で、お母さんがご飯の支度をしてくれてる。
ふとそんな気にさせる懐かしい匂い。

目を開けたくても中々開かない。起き上がりたくても全身が痛くて動けない。
眠る前に聞いた話は夢じゃなかった?



「起きたかな?」

男の人の声が聞こえる。

「ああ、目が覚めてるようだね。ちゃんとわかるから大丈夫だよ」

男の人の手の暖かい感触と抱き上げられる感覚。そしてどこかに座らされて、隣で彼が支えてくれてる。
目は相変わらず開かないけど、体の痛みは感じなかった。

「まずは食事にしよう。
といっても、体が弱ってしまっているからお腹に優しいものを少しずつだね。
それから話の続きをしよう」

口許にスプーンの感触と懐かしい匂い。

「こっちだと《おかゆ》だっけ?
慌てなくていいよ。ゆっくり食べて」

口の中に広がるお粥の味は、両親が健在だった時に風邪で熱が出たときに作ってもらった味と同じで。
目は開かないまま、目元が熱くなり涙がこぼれ落ちて止まらなくなった。

止まらない涙を幾度も拭われ、泣きじゃくる私に何も聞かずに寄り添い、落ち着くのに長い時間がかかった気がする。両親の亡き後からずっと、泣くことすら出来なかったから。
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