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第五章──死の先までも輝らす光
今を輝らして生きていく
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「シエラ「っち」「ちゃん」!!」
飛び込んでくる【開けゴマ】のメンバーに、シエラは困惑する。
「よ、皆、ただいま」
にかっと笑ってシエラの隣で男が挨拶する。
シエラがもみくちゃにされながら事情を説明すると、三人は声を合わせて驚愕した。
「え、つまりこっちがシエラっち……?」
「なンだ、話してなかッたのか」
「あぁ、お前だけとの秘密だったんだよ。……と、まぁ名前はテルだけどな、中身は俺だったよ。騙してたみたいで悪いな三人とも」
「別にんな事きにしないアルけど、単純に驚きアル」
「え、つまりなんだ? 二人は恋人同士なのか?」
かなり迫った部分に触れてくるダゴマにむせかえるテル。
「あ、まぁ、うん。そう……だな?」
「…………そう、だねぇ……」
お互いの顔を見るのも恥ずかしい。
二人だけで言っているのならいいのだが、他人が絡むと気恥しさが尋常ではなかった。
「人の前でイチャイチャすンな」
「「してないっ!!」」
「無自覚はタチわりィぞ……」
げんなりとするテンキの横で、ダゴマがとんでもない発言をした。
「んじゃ結婚式やっちまおうぜ、俺らと一緒にさ」──と。
「名案アル!!」
テルとシエラはその発言にぴったり十秒硬直し────。
「「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!?」」
二人の叫びが森中にこだました。
■ ■ ■
結婚式というのは神の名の下で行われる行事。
大魔法陣【祝言】によって、式は進行していく。
『新郎──テル、貴方はここにおられる新婦シエラを──いや、聞くまでも、ありませんね』
紛れもなく、あの時少しだけ話した神の声だった。
テルはなんの躊躇いもなく答える。
「あぁ、誓うよ。勿論だ」
「私も、いつだってテルと一緒。もう体は別々だけど、それでも私たちはずっとお互い様なの」
『──それでは、誓いのキスを』
シエラの唇に、テルのそれが触れる。
お互いの心臓が鳴り響いて、最早どちらがどちらなのか分からないほど一体化していた。
──二人は、ずっとそうだった。
出会った時から二人は、二人で一人だった。
どちらが欠けても、もう務まらない。
「シエラ、愛してる」
「私も」
二人はここに、ついに結ばれた。
『おめでとうございます。そして──ありがとうございます』
神も彼らを祝福し──そして、世界を救った彼らに感謝していた。
■ ■ ■
「じゃじゃーんっ!! 夢のマイホームだ」
「やったぁ~!!」
帝級冒険者の特権でこんなものは御茶の子さいさいだ。
シエラとテルは喜びにハイタッチする。
さあいざ扉を開け、平和な生活の第一歩を──。
「いい家じゃない」
「お姉様!! じゃなかった、お兄様おかえりなさい!!」
「──は?」
白いソファの上で足を組んで寛ぐ少女。
魔法で家の中の掃除をする少女。
その二人に、テルは目をぱちぱちとしばたく。
幻覚ではないと確認してから、息を吸い込んで叫んだ。
「なんでお前らがいるんだよっっ!?」
「住む場所がないのよ、家事はやるから居候させてちょうだい」
「きっとみなさんお片付け苦手ですから、時々来て掃除することにしたのです」
まるでそれが当たり前かのように言い放つディアボロとフィーネにテルがわなわなしていると、シエラが手を叩いて喜ばしそうに言う。
「へー! いいじゃん、ディアちゃんと同居かあ、楽しそう!」
「ディアちゃ……って、お前らいつの間にそんな仲良く……あ、フィーネ、片付けはよろしく頼む」
「任されました!」
突っ込みきれず歯切れの悪くなるテルの肩に、思い切りのしかかってくるのは。
「シエラっち、テルっち~、お祝いに来たアルよー!!」
シャン・ムル改めムル・ゴドマ。
……重い。
「ムル、はしゃぎすぎだ。テルくんが困ってるだろう」
その頭をこつんと叩くダゴマだが──いや、やめろ待てとテルは騒ぐ。
「謝謝アル」
結果バランスを崩して倒れたテルに、ムルは片手を上げて謝ったが──。
いやその前に助けろ、とテルは喚く。
「はは……」
それを見て、レンリィとリオ、そしてアルカが乾いた笑いを漏らした。
「若者は元気じゃのう」
「幼女がそれ言うかァ……?」
「がっつり三十超えとる」
「オバサンじゃねェか……って怖い怖い怖い!!!」
テルと同じ過ちを繰り返すテンキに、アルカの怒気が襲うその傍ら。
「もーテル、大丈夫?」
「お兄様、大丈夫ですか?」
シエラとフィーネの手をとって立ち上がり、テルは頭を掻いた。
「あぁ……助かる。ったく、お前らなぁ……」
とんでもないカオスだ。
人が入り乱れて何がなにやら。
「そういや俺たちの家、お前らの隣に作るからよろしくな」
更にそんな事を宣うダゴマに、テルはまたしても叫んだ。
「聞いてねぇぞ!!?」
「いいじゃない、その方が楽しそうだわ」
「あっはははは……っ」
あまりのおかしさに涙を浮かべて笑うシエラに釣られて、テルも笑った。
そして、ほかの皆も。
シエラと二人で静かに平和な生活を送るつもりだったが──。
どうやら、かなり賑やかになってしまいそうだった。
■ ■ ■
起きてしまった過去は変えられない。
人が変えられるのは、今とそれに繋がる未来だけ。
彼らは過去を覆い尽くす闇を払い、そして乗り越えた。
窓から差し込む光に目を細めて、彼はつぶやく。
「シエラ、俺たち……幸せだな」
「うん、すっごい幸せ。生きててよかったって、今なら大声で言えるもん」
生きててよかった──そんな言葉が自分たちから飛び出ることを、果たして出会う前の自分たちは予測できただろうかと彼らは思う。
否、出来なかっただろう。
生きる意味なぞ分からず、自分の命に価値など見出していなかった彼らには。
──だからこれは、本当に奇跡だ。
心配も、不安も、後悔も消えた訳では無い。
だが、影があれば光がある。
それがあるからこそ、前へと進む理由がある。
彼らはそんな光の中で。
自分たちが幸せであると断言出来る、その幸せを噛み締めて。
今を輝らして、生きていく。
~Fin~
飛び込んでくる【開けゴマ】のメンバーに、シエラは困惑する。
「よ、皆、ただいま」
にかっと笑ってシエラの隣で男が挨拶する。
シエラがもみくちゃにされながら事情を説明すると、三人は声を合わせて驚愕した。
「え、つまりこっちがシエラっち……?」
「なンだ、話してなかッたのか」
「あぁ、お前だけとの秘密だったんだよ。……と、まぁ名前はテルだけどな、中身は俺だったよ。騙してたみたいで悪いな三人とも」
「別にんな事きにしないアルけど、単純に驚きアル」
「え、つまりなんだ? 二人は恋人同士なのか?」
かなり迫った部分に触れてくるダゴマにむせかえるテル。
「あ、まぁ、うん。そう……だな?」
「…………そう、だねぇ……」
お互いの顔を見るのも恥ずかしい。
二人だけで言っているのならいいのだが、他人が絡むと気恥しさが尋常ではなかった。
「人の前でイチャイチャすンな」
「「してないっ!!」」
「無自覚はタチわりィぞ……」
げんなりとするテンキの横で、ダゴマがとんでもない発言をした。
「んじゃ結婚式やっちまおうぜ、俺らと一緒にさ」──と。
「名案アル!!」
テルとシエラはその発言にぴったり十秒硬直し────。
「「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!?」」
二人の叫びが森中にこだました。
■ ■ ■
結婚式というのは神の名の下で行われる行事。
大魔法陣【祝言】によって、式は進行していく。
『新郎──テル、貴方はここにおられる新婦シエラを──いや、聞くまでも、ありませんね』
紛れもなく、あの時少しだけ話した神の声だった。
テルはなんの躊躇いもなく答える。
「あぁ、誓うよ。勿論だ」
「私も、いつだってテルと一緒。もう体は別々だけど、それでも私たちはずっとお互い様なの」
『──それでは、誓いのキスを』
シエラの唇に、テルのそれが触れる。
お互いの心臓が鳴り響いて、最早どちらがどちらなのか分からないほど一体化していた。
──二人は、ずっとそうだった。
出会った時から二人は、二人で一人だった。
どちらが欠けても、もう務まらない。
「シエラ、愛してる」
「私も」
二人はここに、ついに結ばれた。
『おめでとうございます。そして──ありがとうございます』
神も彼らを祝福し──そして、世界を救った彼らに感謝していた。
■ ■ ■
「じゃじゃーんっ!! 夢のマイホームだ」
「やったぁ~!!」
帝級冒険者の特権でこんなものは御茶の子さいさいだ。
シエラとテルは喜びにハイタッチする。
さあいざ扉を開け、平和な生活の第一歩を──。
「いい家じゃない」
「お姉様!! じゃなかった、お兄様おかえりなさい!!」
「──は?」
白いソファの上で足を組んで寛ぐ少女。
魔法で家の中の掃除をする少女。
その二人に、テルは目をぱちぱちとしばたく。
幻覚ではないと確認してから、息を吸い込んで叫んだ。
「なんでお前らがいるんだよっっ!?」
「住む場所がないのよ、家事はやるから居候させてちょうだい」
「きっとみなさんお片付け苦手ですから、時々来て掃除することにしたのです」
まるでそれが当たり前かのように言い放つディアボロとフィーネにテルがわなわなしていると、シエラが手を叩いて喜ばしそうに言う。
「へー! いいじゃん、ディアちゃんと同居かあ、楽しそう!」
「ディアちゃ……って、お前らいつの間にそんな仲良く……あ、フィーネ、片付けはよろしく頼む」
「任されました!」
突っ込みきれず歯切れの悪くなるテルの肩に、思い切りのしかかってくるのは。
「シエラっち、テルっち~、お祝いに来たアルよー!!」
シャン・ムル改めムル・ゴドマ。
……重い。
「ムル、はしゃぎすぎだ。テルくんが困ってるだろう」
その頭をこつんと叩くダゴマだが──いや、やめろ待てとテルは騒ぐ。
「謝謝アル」
結果バランスを崩して倒れたテルに、ムルは片手を上げて謝ったが──。
いやその前に助けろ、とテルは喚く。
「はは……」
それを見て、レンリィとリオ、そしてアルカが乾いた笑いを漏らした。
「若者は元気じゃのう」
「幼女がそれ言うかァ……?」
「がっつり三十超えとる」
「オバサンじゃねェか……って怖い怖い怖い!!!」
テルと同じ過ちを繰り返すテンキに、アルカの怒気が襲うその傍ら。
「もーテル、大丈夫?」
「お兄様、大丈夫ですか?」
シエラとフィーネの手をとって立ち上がり、テルは頭を掻いた。
「あぁ……助かる。ったく、お前らなぁ……」
とんでもないカオスだ。
人が入り乱れて何がなにやら。
「そういや俺たちの家、お前らの隣に作るからよろしくな」
更にそんな事を宣うダゴマに、テルはまたしても叫んだ。
「聞いてねぇぞ!!?」
「いいじゃない、その方が楽しそうだわ」
「あっはははは……っ」
あまりのおかしさに涙を浮かべて笑うシエラに釣られて、テルも笑った。
そして、ほかの皆も。
シエラと二人で静かに平和な生活を送るつもりだったが──。
どうやら、かなり賑やかになってしまいそうだった。
■ ■ ■
起きてしまった過去は変えられない。
人が変えられるのは、今とそれに繋がる未来だけ。
彼らは過去を覆い尽くす闇を払い、そして乗り越えた。
窓から差し込む光に目を細めて、彼はつぶやく。
「シエラ、俺たち……幸せだな」
「うん、すっごい幸せ。生きててよかったって、今なら大声で言えるもん」
生きててよかった──そんな言葉が自分たちから飛び出ることを、果たして出会う前の自分たちは予測できただろうかと彼らは思う。
否、出来なかっただろう。
生きる意味なぞ分からず、自分の命に価値など見出していなかった彼らには。
──だからこれは、本当に奇跡だ。
心配も、不安も、後悔も消えた訳では無い。
だが、影があれば光がある。
それがあるからこそ、前へと進む理由がある。
彼らはそんな光の中で。
自分たちが幸せであると断言出来る、その幸せを噛み締めて。
今を輝らして、生きていく。
~Fin~
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