23 / 38
第三章──光の勇者と学院生活
シノサキ・テルの学院生活
しおりを挟む
まず──起床。シエラの目覚ましによって叩き起こされるテルは、ひとまず【浄化】の魔法を自らにかける。
そしてそのままの勢いで、全属性の陣の調子を確認していくのだ。
「──やっぱ、土は苦手だなぁ」
『全然使わないもんね、便利なのに』
他の魔法陣の起動よりも約0.2秒ほど差がある。
シエラの言う通り、テルの戦い方ではあまり使う陣ではないのだ。
そして【守護結界陣】、【韋駄天陣】、【増幅】、【超増幅】の調子を確認して──伸びをひとつ。
「シエラー、どんくらい縮まってる?」
『一週間前に比べたら0.1秒くらいだね、結構劇的だよ』
そう、結局の所無陣というのは反復練習がものを言うテクニックなのだ。
針の穴を通すように緻密な作業も、何千回何万回とやっていればだんだん慣れてくる。
毎日よく使う陣を百回無陣で描く。それがテルが自分に課したノルマだった。
「お姉様~、起きてらっしゃいますか~?」
そしていつもの通り、フィーネが扉をノックする。
「起きてるよー、すぐ行く」
こうして朝食に連れていってくれるから、熱中して遅れてしまうようなこともない。
……フィーネと知り合う前は、よく朝食を抜いてしまったものだが。
「今日のこれ、美味いな」
卵の乗ったトーストらしきものを指しながら上機嫌にテルが言うと、フィーネが嬉しそうに答える。
「なんでも隣国で黄金のカルタリが大量発生したそうで、卵の値段が急降下しているのです。……そのおかげですね」
カルタリ──というのは、確かあれだ、とテルは必死で記憶を辿る。
だが、シエラはその努力を無慈悲に一蹴して答えを言ってしまった。
『三十二層にいた鳥だよ』
「……ああ、うん」
そうだ、鶏みたいなやつだ。
とはいえ──卵なぞ、どうやって。
『隣国じゃ迷宮なんてないからね、普通に地上に魔物が発生してるんだよ』
「(それは危なそうだな……)」
『こっちが平和すぎるだけだけどね。魔物の肉とかそういうの、全部輸入なんだよこの国』
どっかで聞いたような話だ。
先進的になりすぎて第一次産業が怠る的な。
ともあれ、地上に魔物が出てくるような修羅の国よりかはマシだ。
来た国がここで良かったと、テルはトースト(らしきもの)にかぶりついた。
そして、朝食後。
寮へと戻ったテルがするのは──筋トレだ。
いくら魔力によって増強ができるとはいえ、運動に慣れていなければそれだけ体への負担は大きい。
「四十八、四十九、五十…………っと」
『はいお疲れ様、次腕立て伏せね』
柔らかな美少女の体を改造するのは少し気が引けたが、どうもその心配はないらしく。
筋肉がついてもまるでそのしなやかさに変わりがないのは、なんというか流石だ。
「シエラって見た目無茶苦茶いいよな」
『……魔導保育器の中で育てられたからかも』
「まど、ほい……? なんじゃそりゃ」
困惑するテルに、シエラはぽつりぽつりと話し出す。
『私、すごい早産でね。……魔法が使えない原因もそれにあるんだけど、とにかくそのままじゃ勝手に死んじゃうくらいだったの。だこら魔導保育器で育てられたんだけど──そんな不安定な時期に魔法で最適化されて育ったら、見た目も最適化されるんじゃないかなって。私お母様にもお父様にも似てないし』
──初めて聞いた話だった。
「早産、か……それで見た目がいいってんなら、ある意味呪いなのかな」
別にこうなりたくてこうなったわけじゃない、というシエラの主張を予測したテルはそう呟いたが──。
『ん、いや、この外見にはかなり助けられたし……別に思うとこはないよ。テルは心配症だなぁ』
「……なんだよ」
そうだ、シエラはテルが思うよりずっと自分の体と付き合ってきている。
──杞憂だった。
それで済んでよかった、とテルは内心ほっとした。
「……さて、それでは今日のアルティメットタイム……」
ごくり、とテルは喉を鳴らして──。
そして、ベッドへと勢いよくダイブする。
「おやすみぃ……」
そう。
これは遂になしえた、最大にして最強の娯楽。
───お昼寝ッ!!!!
ここから約三時間、テルは寝るのである。
先にやることを済ませてからのお昼寝というのは別格で、疲れた体はいとも容易く眠りへと吸い込まれていく。
起床
運動(魔法)
食事
運動
睡眠
この一連の流れは、テルの習慣となっている。
そしてこの後は──テンキにちょっかいを出しに行ったり、校内をブラブラさまよったり、図書館で本を読んだり、フィーネと昼食夕食──と様々。
テンキとバカをやるのも楽しいし、何より前世について語り合えるのは安心感が違う。
フランドル学院はそもそもが私立だからか、かなり設備が優秀だ。魔法薬学や錬金術などの別分野を覗きに行くのも新鮮で楽しい。
図書館で本──は、主にシエラのためだ。
かなり積み上げていたもののあれは厳選していて、まだ読んでない本はいくらでもあるらしい。
フィーネは……とにかく癒される。
全肯定というのは時折突っ込みたくなるが、気持ちの良いものだ。
ともあれテルは、この学院生活を思う存分満喫していた。
──それも、明日で最後。
起き上がったテルは、魔導祭に向けて拳を握りしめた。
そしてそのままの勢いで、全属性の陣の調子を確認していくのだ。
「──やっぱ、土は苦手だなぁ」
『全然使わないもんね、便利なのに』
他の魔法陣の起動よりも約0.2秒ほど差がある。
シエラの言う通り、テルの戦い方ではあまり使う陣ではないのだ。
そして【守護結界陣】、【韋駄天陣】、【増幅】、【超増幅】の調子を確認して──伸びをひとつ。
「シエラー、どんくらい縮まってる?」
『一週間前に比べたら0.1秒くらいだね、結構劇的だよ』
そう、結局の所無陣というのは反復練習がものを言うテクニックなのだ。
針の穴を通すように緻密な作業も、何千回何万回とやっていればだんだん慣れてくる。
毎日よく使う陣を百回無陣で描く。それがテルが自分に課したノルマだった。
「お姉様~、起きてらっしゃいますか~?」
そしていつもの通り、フィーネが扉をノックする。
「起きてるよー、すぐ行く」
こうして朝食に連れていってくれるから、熱中して遅れてしまうようなこともない。
……フィーネと知り合う前は、よく朝食を抜いてしまったものだが。
「今日のこれ、美味いな」
卵の乗ったトーストらしきものを指しながら上機嫌にテルが言うと、フィーネが嬉しそうに答える。
「なんでも隣国で黄金のカルタリが大量発生したそうで、卵の値段が急降下しているのです。……そのおかげですね」
カルタリ──というのは、確かあれだ、とテルは必死で記憶を辿る。
だが、シエラはその努力を無慈悲に一蹴して答えを言ってしまった。
『三十二層にいた鳥だよ』
「……ああ、うん」
そうだ、鶏みたいなやつだ。
とはいえ──卵なぞ、どうやって。
『隣国じゃ迷宮なんてないからね、普通に地上に魔物が発生してるんだよ』
「(それは危なそうだな……)」
『こっちが平和すぎるだけだけどね。魔物の肉とかそういうの、全部輸入なんだよこの国』
どっかで聞いたような話だ。
先進的になりすぎて第一次産業が怠る的な。
ともあれ、地上に魔物が出てくるような修羅の国よりかはマシだ。
来た国がここで良かったと、テルはトースト(らしきもの)にかぶりついた。
そして、朝食後。
寮へと戻ったテルがするのは──筋トレだ。
いくら魔力によって増強ができるとはいえ、運動に慣れていなければそれだけ体への負担は大きい。
「四十八、四十九、五十…………っと」
『はいお疲れ様、次腕立て伏せね』
柔らかな美少女の体を改造するのは少し気が引けたが、どうもその心配はないらしく。
筋肉がついてもまるでそのしなやかさに変わりがないのは、なんというか流石だ。
「シエラって見た目無茶苦茶いいよな」
『……魔導保育器の中で育てられたからかも』
「まど、ほい……? なんじゃそりゃ」
困惑するテルに、シエラはぽつりぽつりと話し出す。
『私、すごい早産でね。……魔法が使えない原因もそれにあるんだけど、とにかくそのままじゃ勝手に死んじゃうくらいだったの。だこら魔導保育器で育てられたんだけど──そんな不安定な時期に魔法で最適化されて育ったら、見た目も最適化されるんじゃないかなって。私お母様にもお父様にも似てないし』
──初めて聞いた話だった。
「早産、か……それで見た目がいいってんなら、ある意味呪いなのかな」
別にこうなりたくてこうなったわけじゃない、というシエラの主張を予測したテルはそう呟いたが──。
『ん、いや、この外見にはかなり助けられたし……別に思うとこはないよ。テルは心配症だなぁ』
「……なんだよ」
そうだ、シエラはテルが思うよりずっと自分の体と付き合ってきている。
──杞憂だった。
それで済んでよかった、とテルは内心ほっとした。
「……さて、それでは今日のアルティメットタイム……」
ごくり、とテルは喉を鳴らして──。
そして、ベッドへと勢いよくダイブする。
「おやすみぃ……」
そう。
これは遂になしえた、最大にして最強の娯楽。
───お昼寝ッ!!!!
ここから約三時間、テルは寝るのである。
先にやることを済ませてからのお昼寝というのは別格で、疲れた体はいとも容易く眠りへと吸い込まれていく。
起床
運動(魔法)
食事
運動
睡眠
この一連の流れは、テルの習慣となっている。
そしてこの後は──テンキにちょっかいを出しに行ったり、校内をブラブラさまよったり、図書館で本を読んだり、フィーネと昼食夕食──と様々。
テンキとバカをやるのも楽しいし、何より前世について語り合えるのは安心感が違う。
フランドル学院はそもそもが私立だからか、かなり設備が優秀だ。魔法薬学や錬金術などの別分野を覗きに行くのも新鮮で楽しい。
図書館で本──は、主にシエラのためだ。
かなり積み上げていたもののあれは厳選していて、まだ読んでない本はいくらでもあるらしい。
フィーネは……とにかく癒される。
全肯定というのは時折突っ込みたくなるが、気持ちの良いものだ。
ともあれテルは、この学院生活を思う存分満喫していた。
──それも、明日で最後。
起き上がったテルは、魔導祭に向けて拳を握りしめた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜
星影 迅
ファンタジー
およそ30年前、地球にはダンジョンが出現した。それは人々に希望や憧れを与え、そして同時に、絶望と恐怖も与えた──。
最弱探索者高校の底辺である宝晶千縁は今日もスライムのみを狩る生活をしていた。夏休みが迫る中、千縁はこのままじゃ“目的”を達成できる日は来ない、と命をかける覚悟をする。
千縁が心から強くなりたいと、そう願った時──自宅のリビングにダンジョンが出現していた!
そこでスキルに目覚めた千縁は、自らの目標のため、我が道を歩き出す……!
7つの人格を宿し、7つの性格を操る主人公の1読で7回楽しめる現代ファンタジー、開幕!
コメントでキャラを呼ぶと返事をくれるかも!(,,> <,,)
カクヨムにて先行連載中!
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる