2人ではじめる異世界無双~無限の魔力と最強知識のコンビは異世界をマッハで成り上がります〜

こんぺいとー

文字の大きさ
上 下
36 / 38
第五章──死の先までも輝らす光

シエラ・ノヴ

しおりを挟む
シエラ・ノヴは魔法が使えない。

初めて魔法を知ったあの日、シエラは天を恨んだ。

「ねぇ、おかあさま……どうして、しえらはまほうがつかえないの?」

「……っ、ごめんね、ごめんね、シエラ……普通に産んであげられなくて、ごめんね……っ!!」

シエラは、魔導神経錆朽症という先天性の病気だった。
簡単に言えば、魔力の流れる血管のような目には見えない機関が人間には存在しており──シエラのそれは錆びついてしまっていて、魔力を通さないのだ。

本来はその錆びを子宮の中で落としてから産まれてくるのだが、シエラはかなりの早産だった。

魔法のおかげでこうして生きてさえはいるものの、その魔法がシエラには使えない。
哀れみ、あるいは侮蔑。シエラが受けた周囲の目線はそのどちらかだ。

──現実を否定するようにシエラは魔法の勉強に打ち込んだ。
今は解明出来ていないだけで、きっと自分にも魔法が使える日が来ると。

信じていた。
否、そう信じなければ精神が崩壊してしまうのだ。

そして──シエラが十二歳になった時、家が没落した。
シエラは理由を聞かされてはいないが、自ら以外の血族が助からなかったことだけは知っている。

生きる理由も、生きる活力も、全てを失って。


だが、死ぬ勇気もなく。

「どうして?」

答える者は誰もいなかった。
何の意味もなく、真っ白な人生を三年──。

自分の命に価値など、意味など何一つないのだとシエラは悟った。


だからシエラは教会で魔王を見に宿すべく魔法陣を起動したその時、狂ったような歓喜に満ち溢れていた。

ひとつは──魔力が元々通っていたとはいえ、自分が初めて魔法を使ったことへの歓喜。

そして、もうひとつは。

自分の死に、意味が与えられたことへの歓喜だった。

「シエラ」

そして今。

「───シエラ」

自分を呼ぶ声が聞こえる。

こんな自分に、頼ってくれる。

こんな自分を、支えてくれる。

こんな自分を、好いてくれる。

こんな自分と、誓ってくれる。

最初は利用することだけを考えていた。
こいつを上手く使って人生様をギャフンと言わせてやる、と。

だが今は、違う。

頼られたい。頼りたい。支えたい。支えて欲しい。
好きだ、大好きだ。

───愛している。

『─────輝』

生きたいと思える。死にたくないと思える。
テルのおかげで、シエラの命は価値を持った。

テルのためなら、シエラはなんだってやれる。

そしてシエラは──その目を、覚ました。

「クソッタレが……ッ!!」

シガ・テンキの声だ。

「……はぁ、はぁ……っ。やっぱり、アイツ、殺しとくべき、だったわ……っ!!」

魔王ディアボロの声だ。

「ふははははッッ!!! 素晴らしい、素晴らしい力だッッ!! 俺は完全体の勇者シノサキ・テルと同等の力を手に入れたぞッ!!」

「勇者同士ッてのに……!! なンでてめェのが強ェんだよ……ッ!!」

「神から召喚されたホンモノと俺が召喚した紛い物で勝負になるわけないだろうが、ふはははッ!!」

───そうだ。
ディアボロに負けて──何故、生きている?

「……!?」

指が、シエラの意思で動く。

──シエラの体に、テルがいない。

「クソッ!! テル、戻ッて来やがれェ!!」

「無駄だ無駄。完全に吸収したんだ、意識が残ってるはずないだろう」

──吸、収───?

ここで、ようやくシエラは事態を理解した。
ディアボロがテンキの味方をしている所を見るに──あの時のテルの行動が、彼女の意志に影響したのだろう。

そして、追い詰められた男はテルを吸収した。
そこから形勢逆転で今に至る──そんな所だろう、とシエラは頭をフル回転させる。

「(───これは───?)」

体から湧き上がる、不思議な力にシエラは困惑する。
力は入らない。起き上がれそうにもない。
なのに、別の不思議な力が、シエラの中で循環している。

「(───まさか──魔力!?)」

そしてコンマ数秒後、シエラは自分が魔法を使える理由を突き止めた。

治っているのだ。テルが魔法を使っていた影響で、魔力回路がテルのものとすげ変わっている。

ヤツはテルの精神とその魔力を吸収したに過ぎないから、回路本体はそのまま残る。

そして──テルの、無尽蔵の魔力を生み出す魔臓も、残っている。

まさかこんな形でシエラが魔法を使えるようになるとは思わなかったが──何はともあれ、これはチャンスだ。

シエラはバレないように地面へと手を当てる。
魔法陣は視認可能だから、床に書いては不意打ちが出来ない。

それならば最下層の更に下の天井に、魔力を集めれば良い。

死ぬほど本を読んだ。死ぬほどコツを学んだ。
魔力の扱いに関しては、シエラのそれはテルを遥かに追い越す。

「ぐぁァァ……ッ!!」

「が、はっ、……!? は……ぁ、はぁ……っ」

「はっははははは!! 無様だなぁ勇者も魔王もッ!! 俺の傀儡でいれば楽だったものを、歯向かうからこういう目になるんだよッ!!」

「……はぁ……どの道、殺すつもり、だったくせに……はぁ……よく、言うわね」

シエラは急げ、急げと焦りつつも──冷静に、バレないように陣を組み立てていく。

「哀れだよなぁ二人とも、お前らは死ぬために生まれて来たのさ、同情を禁じ得ないなくはははッ!!!!! ───じゃあ、死ね」

そして、光とも闇ともつかぬ、黒く、あるいは白く、眩く、あるいは暗い閃光を──男が放ったその刹那。

「──間に、合った──」

禁止結界陣フォービドゥン】が、起動した。
所要時間二分。……あまりにも難度の高いその陣は、発動範囲内における全ての魔法を禁止する。

「────は?」

男は、固まった。
男は勇者の力を奪っただけで──勇者ではない。
【聖光】は使えない彼はたった今をもって無力と化した。
そして、対照的にただ一人だけ。
この状況で、まだ戦える者がいる。

「おね、がい───テンキ……!! はやく、トドメを──ッ!!」

喉から声を絞り出すシエラに、テンキもまた叫んで答える。

「任せろォォオオオッ!!」

テンキの【聖光】が、男の闇を払い始める。

「バカな、こんな、嘘だッ!! 俺は、神にさえ、勝てる力を────」

「奪っただけの紛い物が、ホンモノに勝てると思うなァッッ!! なァ、そうだろ──テル!! さっさと起きろォ!!!」

「テル、戻ってきて────ッ!!」

「────あぁ!!」

テンキの咆哮を受けて、男の声色が明るいそれへと変わる。
篠崎 輝が、復活した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅
ファンタジー
およそ30年前、地球にはダンジョンが出現した。それは人々に希望や憧れを与え、そして同時に、絶望と恐怖も与えた──。 最弱探索者高校の底辺である宝晶千縁は今日もスライムのみを狩る生活をしていた。夏休みが迫る中、千縁はこのままじゃ“目的”を達成できる日は来ない、と命をかける覚悟をする。 千縁が心から強くなりたいと、そう願った時──自宅のリビングにダンジョンが出現していた! そこでスキルに目覚めた千縁は、自らの目標のため、我が道を歩き出す……! 7つの人格を宿し、7つの性格を操る主人公の1読で7回楽しめる現代ファンタジー、開幕! コメントでキャラを呼ぶと返事をくれるかも!(,,> <,,) カクヨムにて先行連載中!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

処理中です...