2人ではじめる異世界無双~無限の魔力と最強知識のコンビは異世界をマッハで成り上がります〜

こんぺいとー

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第五章──死の先までも輝らす光

お母さん

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「さぁディアボロ、勇者を仕留めr───がっ、ァ、は───?」

「……っ!!」

哄笑する男に、ディアボロは躊躇なく闇を時はなった。
そして未だに状況をつかめないでいるテンキに一言──。

「あなたを倒したらいけないんでしょ。とりあえず協力してあげる」

「……!! あァ、分かッた」

何があったのかは分からない。
だが、テルは何かしらの方法でこの魔王を味方につけたのだ。

「くっ……まさか、裏切るとは……ッ!! だが、俺にはまだ───が、ァっ!?」

「テルを吸収するつもりか? させねェよ」

走り出した男にすぐさま追いついたテンキは、そのまま腹を蹴りあげる。

そしてその先には──魔王ディアボロ。

「少なくとも、あなたに従う理由はなくなったわ。目障りだし消えてちょうだい」

闇の一閃が、男の両腕を裂いた。

「がァァぁ……クソォッ!! ここまで、ここまで来て……ッ!! 【瞑目陣フラッシュ】!!」

「ま、眩しっ……!?」

「二度と食らうかァ!!」

視力だけを攻撃するそれを、テンキは先程も受けた。
目を瞑り、テンキはある一方向へと跳躍する。

すなわち──テルが横たわる、そこへと。
もし男がこの間に移動するとしたら、そこしかないから。

そしてそれは──ビンゴだった。

だが、影は嗤う。

「二度と食らわないだと? ほんとにそうかなッ!! くはははは……ッ!! 時限式──【衝撃陣クラッシュ】!!」

「な───ぐ、ぁあ……っ!?」

後方へと吹っ飛ばされたテンキはそこでようやく理解する。
先程男が発動した陣は、一つではなかったのだ。

二つ、完全に重ねて──見せないように、していたのだ。

「クソっ!! テル、逃げろォオ!!!」

「ははっ、ははははははは───ッ!!」

紛糾虚しく、影はテルを飲み込んでいった。

「やめろォオオオオ!!!」

「もう遅い、終わりだ」

叫び、飛びかかったテンキを男はいとも容易く押し返す。

「俺は神を超えた。……素晴らしい、はは、はははは──ッ!! これだけ力があればお前らなんぞ最早要らん、ひねり潰してくれる」

「畜生ォ……ッ!!」

「……まずいことになったわね」

男はテルの抜け殻を、ゴミのように投げ捨てた。



■ ■ ■

「輝、輝。起きなさいったら。もう一時よ」

「ん、んーー……もうちょっと、お布団……」

「だーめ!」

恋しいお布団から引き剥がされて、輝は仕方なく起き上がる。

「……おはよ」

「うん、おはよお輝」

母によって開けられたカーテンの奥、窓の外はもう明るく。
日が昇って、こちらを優しく照りつけていた。

「……もう朝かぁ」

「いや昼ッ!!」

母の盛大なツッコミにあぁ昼か、とテルは思い直す。

「昨日お風呂入ったっけ」

曖昧な記憶を辿りつつ、そんなことを口にすると母は呆れたように輝に答えた。

「……入ってないわよ、今から入る?」

「うん」

何かがおかしい。
そんな感覚がする。

昨日のことをぼんやりとしか覚えていないのはいつものことだが──。

それでも、抜け落ちたような寂しさがあった。
シャワーを止めて輝は濡れた頭を振る。

それでもこのモヤモヤは消えず──引っかかって取れない。

「なんなんだ……」

体を拭いてからリビングに行くと、やたら豪華な昼食がテルを待ち受けていた。

「今日は朝食抜きになっちゃうから」との事らしい。
食欲があるわけでもないわけでもないから、しっかりと食べる。

テルは母の笑顔は好きなのだ。

「ねぇ輝、浮かない顔してるけど大丈夫?」

「ん、うん……なんか引っかかるんだよな、こう……」

流石自分の母親だ、と輝は思う。
輝の小さい頃から、母は輝の異変には人一倍敏感なのだ。
心配させまいとしても気づいてしまうのが厄介なところだ。

「好きな人でも出来たの?」

「ま、まさか─────え?」

好きな人、と言われて反射的に否定したその時、脳裏に少女の顔が浮かぶ。

金髪と、青い目の美少女だ。
こっちに手を振って何やら叫んでいる。

「────シエラ」

箸を取り落として、テルは呟く。

引っかかりが──取れた。
記憶の奔流が脳内を駆け巡り、テルは立った。

「え、なに、ほんとに好きな子が出来ちゃったの!? 輝に!?」

盛大に驚く母に、テルは。

「あぁ、出来たんだ。凄い良い子なんだよ。良い子すぎるから、俺が支えてやらなきゃダメなんだ」

「───そう……輝はその子のこと、好き?」

「すきだ。いやだいすきだ……ちょーすきだ。もうこう、現世の言葉では表せねえよ」

「なら、良かった」

母親の笑顔に──テルは、気づいた。

「──お母さん」

「なあに?」

「二度と、会えないのかな」

「─────」

今この場にいる母が、全てを知っていることに。
そもそもどうして母がここにいるのか、どうしてテルがここにいるのか、まるで分からないが──。

ただ、それだけは言わないといけないと思った。

母は返事をすることなく、ただにこやかに笑ってみせた。

「ごめんなさい……っ、お母さん、ほんとに、ごめん──! 俺は、とんでもない親不孝だ……!!」

「いいの、いいのよ輝。貴方は貴方の進むべき道を行きなさい。待ってる子が──いるんでしょ?」

涙がぼろぼろと出た。
いやだ、母と別れたくはないと、テルは母に縋る。
もう、母の温もりを感じるのはいつぶりだろうか。

そして──次は、ないのだ。

分かっている。あの世界からこちらへ戻ってくることが叶わないことくらい。

分かっている。もうテルが転生してから百年が過ぎてしまっているから。

たとえ戻れたとしても、母はもう───。

「いや、だ……よ゛……っ!! おかぁ゛ざん゛……っ!!」

縋りつくテルを、母はそっと抱きしめ──そして、突き放した。

「行きなさい」

残酷なまでに、母は優しかった。

「輝にはまだ、やることがあるんでしょ」

そうだ。テルにはまだ守るべきものがある。

シエラが、ダゴマが、ムルが、レンリィが。

テンキが、フィーネが、アルカが、チェネラが。

「過去はやり直せないから。振り返らないで前を見て」

そうだ。どう足掻いたって過去はやり直すことが出来ない。

それでも、テルは───。

「それでも……悲しい゛よ゛……っ!!、やだよぉ゛……、おかぁ゛さん゛……っ」

「……ほんとに、輝は子供なんだから──。でもね、輝、どんなに嫌でも、どんなに辛くてもきっとあなたを支えてくれる人がいるわ。私がいなくても、もうあなたは大丈夫」

優しく諭す母に、テルはハッとする。
──右も左も分からぬ異世界で、どれだけの人に支えられたか。
テルとシエラは、支え合って支えられて、そうやって生き抜いてきたのだ。

テルは溢れる涙を拭って、震える口を動かした。

「……分かっ、た、俺、頑張る、よ。……頑張ってくる、よ」

支えられた分を、お返ししなくてはならない。
あの世界を覆う闇をテルが払うのだ。

──脳の奥底で、だれかが呼んでいる。
だれかが、手招きをしている。
だれかの手を───。

テルは取って、そして。

「……お母さん、行ってきます。……今までこんな俺を、産んで、育ててくれて──本当に、ありがとう」

「行ってらっしゃい、どういたしまして」

母の眩しい笑顔が、とても嬉しくて。
……そして暖かな光が、全てを包んだ。
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