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第四章──暴かれ出した真実
魔王ディアボロ誕生
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「……事情はだいたい分かった。言いたいこと全部我慢してとりあえずテメェに協力してやる。あのエセ神公の顔面ぶッとばさなきャオレの筋が通らねェ」
『話が早いなぁ……』
「そうか……ありがとう、テンキ」
拳を合わせてそう言うテンキ。
エセ神公、とはよく言ったモノだ。
「定食一週間奢りな。そンでチャラだ」
「随分お安い勇者様だな、いいのか?」
「お友達価格ッつーことだ」
軽口の応酬に顔を見合わせて吹き出す。
どんなに真面目にしていても、テンキとはこういうノリになってしまうのだ。
「お姉様……いえ、頑張ってきてくださいね。絶対、帰ってこられるって信じてます」
再会したばかりで送り出すなぞ、心が痛いというレベルではないだろうに。
フィーネは、わがままの全てを飲み込んでテルにそう告げた。
「ありがとうな、フィーネ。ほんとにありがとう。絶対帰ってくるからな……いってきます」
「──いってらっしゃい」
フィーネは笑顔を浮かべていたが、その目尻に浮かぶ涙をテルは見逃さなかった。
本当はぐちゃぐちゃに泣いてすがって止めたいのだろう。
その心を、彼女は必死に押しとどめている。
──それでも、行かなくてはいけない。
テルはテンキの手を取って陣を起動する。
「あ、え、オイ……」
「ドギマギすんな、きしょい」
【超転移陣】で、いつかの迷宮第八十層へと。
■ ■ ■
つい最近まで潜っていたように思えるその迷宮は、今や静寂に包まれており───。
ということは、全然なく。
「ちっ、やっぱもう復活してるか」
テルは悪態をつきながら、火属性の陣で丸ごと群れを焼き払う。
一瞬で全滅した群れを前に、テルは自分も強くなったもんだなぁと頭を掻いた。
「──なァ、目的地は下なんだよな?」
質問の意図が見えかねて、テルは首を傾げる。
『テンキは迷宮に来たことがないはずだから……』
補足するシエラに「(あぁ、そっか)」と答えつつ、テンキに教える。
「あぁ、でも下に行くには階段を探さなきゃいけなくて────」
「そんなルール、守ッてやる義理はねェだろ?」
「守るって、え……?」
テルがその意味を頭で考えるより先に、テンキは地に聖光を放った。
魔力ではない、別のエネルギー。
いわゆる勇者の加護だとか言われるアレだ。
ともかくそれは地を穿つに留まらず、その下、その下へとドリルのようにどんどん突き進んで行き───。
ついには、どこまで貫いたのかが分からなくなった。
「【俺最強な一撃】ッてな。うッし、これで下まで一直線だ」
「───はぁ……?」
『えぇ……』
勇者の最早張り合うのが阿呆らしいレベルのデタラメ加減に、二人して絶句したのだった。
■ ■ ■
黒い光が辺りを照らしている。
魔王誕生の魔法陣の光だ。
影の男はその魔法陣のフチで、哄笑を上げている。
「成功したぞ……ッ!! いや、当然だがこれで──これで、俺の勝利は揺るがない」
ぶっちゃけ、男は焦っていた。
まさかあの英雄殺しがやられてしまうとは。
しかも、村はエルフによって守護されていて安易に手出しが出来ない。
いくら男が強いと言っても多勢に無勢。
少しでもリスクの高い行動は取りたくない。
計画を実行する前に輝を取り込む目論見は、完全に途絶えていた。
しかし、これで最早男の勝利は確実のものとなる。
──陣の真ん中で、モヤが胎児の形となって沈殿しているのを男は見た。
モヤは蠢きながら、たどたどしく言葉を発する。
「────おな、か、すいた」
濃密な魔力を吸い込み、モヤは膨らんでいく。
そして、等身大の人間の少女の形を取った所で、その成長は止まった。
魔王がついに生まれたのだ。
銀髪の長い髪に、血の色をした目。
偶然か、それとも影の男が意図的にそうしたのか。
彼女の容貌は、テルを──いや、シエラをそのまま反転したようなモノだった。
そしてその魔力も、到底推し量れるようなものではない。
生まれたばかりの魔王は、視界に入ってきた光に目を細める。
眩しい、という感覚を覚えた。
己を作ったであろう者の声が聞こえる。
興奮しきった悦びの声だ。
その方を見遣れば、一人の男が見えた。
「魔王が!! 魔王ディアボロが!! ついに誕生したぞ……これで、世界は!!」
「───私の、もの……?」
男はディアボロを肯定する。
「あぁその通りだ魔王ディアボロよ、お前がこの世界を手に入れるんだ」
「あなたは?」
「俺は神だ。お前を作った父だ。……さぁ、共に世界をどん底に陥れよう」
こくり、とディアボロは頷く。
成程自分を作ったものならば、自分が支配する絶望の世界を一緒に眺めるくらいの権利はある。
神だというなら尚更だ。
そうでなければ今ここで殺していた。
なるべく疲れることはしたくないから、都合が良かった。
──なぜ生まれたか、なんのために生まれたか。
そんなやわな思考は、既になかった。
──魔王は魔王であり、自分こそが世界を支配する最強にして最高の生命体であり。
その使命こそ、自分が生まれた意味だと確信していた。
その全てが、この神を名乗る者に利用されることなど───。
一切、知らずに。
『話が早いなぁ……』
「そうか……ありがとう、テンキ」
拳を合わせてそう言うテンキ。
エセ神公、とはよく言ったモノだ。
「定食一週間奢りな。そンでチャラだ」
「随分お安い勇者様だな、いいのか?」
「お友達価格ッつーことだ」
軽口の応酬に顔を見合わせて吹き出す。
どんなに真面目にしていても、テンキとはこういうノリになってしまうのだ。
「お姉様……いえ、頑張ってきてくださいね。絶対、帰ってこられるって信じてます」
再会したばかりで送り出すなぞ、心が痛いというレベルではないだろうに。
フィーネは、わがままの全てを飲み込んでテルにそう告げた。
「ありがとうな、フィーネ。ほんとにありがとう。絶対帰ってくるからな……いってきます」
「──いってらっしゃい」
フィーネは笑顔を浮かべていたが、その目尻に浮かぶ涙をテルは見逃さなかった。
本当はぐちゃぐちゃに泣いてすがって止めたいのだろう。
その心を、彼女は必死に押しとどめている。
──それでも、行かなくてはいけない。
テルはテンキの手を取って陣を起動する。
「あ、え、オイ……」
「ドギマギすんな、きしょい」
【超転移陣】で、いつかの迷宮第八十層へと。
■ ■ ■
つい最近まで潜っていたように思えるその迷宮は、今や静寂に包まれており───。
ということは、全然なく。
「ちっ、やっぱもう復活してるか」
テルは悪態をつきながら、火属性の陣で丸ごと群れを焼き払う。
一瞬で全滅した群れを前に、テルは自分も強くなったもんだなぁと頭を掻いた。
「──なァ、目的地は下なんだよな?」
質問の意図が見えかねて、テルは首を傾げる。
『テンキは迷宮に来たことがないはずだから……』
補足するシエラに「(あぁ、そっか)」と答えつつ、テンキに教える。
「あぁ、でも下に行くには階段を探さなきゃいけなくて────」
「そんなルール、守ッてやる義理はねェだろ?」
「守るって、え……?」
テルがその意味を頭で考えるより先に、テンキは地に聖光を放った。
魔力ではない、別のエネルギー。
いわゆる勇者の加護だとか言われるアレだ。
ともかくそれは地を穿つに留まらず、その下、その下へとドリルのようにどんどん突き進んで行き───。
ついには、どこまで貫いたのかが分からなくなった。
「【俺最強な一撃】ッてな。うッし、これで下まで一直線だ」
「───はぁ……?」
『えぇ……』
勇者の最早張り合うのが阿呆らしいレベルのデタラメ加減に、二人して絶句したのだった。
■ ■ ■
黒い光が辺りを照らしている。
魔王誕生の魔法陣の光だ。
影の男はその魔法陣のフチで、哄笑を上げている。
「成功したぞ……ッ!! いや、当然だがこれで──これで、俺の勝利は揺るがない」
ぶっちゃけ、男は焦っていた。
まさかあの英雄殺しがやられてしまうとは。
しかも、村はエルフによって守護されていて安易に手出しが出来ない。
いくら男が強いと言っても多勢に無勢。
少しでもリスクの高い行動は取りたくない。
計画を実行する前に輝を取り込む目論見は、完全に途絶えていた。
しかし、これで最早男の勝利は確実のものとなる。
──陣の真ん中で、モヤが胎児の形となって沈殿しているのを男は見た。
モヤは蠢きながら、たどたどしく言葉を発する。
「────おな、か、すいた」
濃密な魔力を吸い込み、モヤは膨らんでいく。
そして、等身大の人間の少女の形を取った所で、その成長は止まった。
魔王がついに生まれたのだ。
銀髪の長い髪に、血の色をした目。
偶然か、それとも影の男が意図的にそうしたのか。
彼女の容貌は、テルを──いや、シエラをそのまま反転したようなモノだった。
そしてその魔力も、到底推し量れるようなものではない。
生まれたばかりの魔王は、視界に入ってきた光に目を細める。
眩しい、という感覚を覚えた。
己を作ったであろう者の声が聞こえる。
興奮しきった悦びの声だ。
その方を見遣れば、一人の男が見えた。
「魔王が!! 魔王ディアボロが!! ついに誕生したぞ……これで、世界は!!」
「───私の、もの……?」
男はディアボロを肯定する。
「あぁその通りだ魔王ディアボロよ、お前がこの世界を手に入れるんだ」
「あなたは?」
「俺は神だ。お前を作った父だ。……さぁ、共に世界をどん底に陥れよう」
こくり、とディアボロは頷く。
成程自分を作ったものならば、自分が支配する絶望の世界を一緒に眺めるくらいの権利はある。
神だというなら尚更だ。
そうでなければ今ここで殺していた。
なるべく疲れることはしたくないから、都合が良かった。
──なぜ生まれたか、なんのために生まれたか。
そんなやわな思考は、既になかった。
──魔王は魔王であり、自分こそが世界を支配する最強にして最高の生命体であり。
その使命こそ、自分が生まれた意味だと確信していた。
その全てが、この神を名乗る者に利用されることなど───。
一切、知らずに。
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