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第四章──暴かれ出した真実

エキセイッッ!!

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「驚いた、レンリィがエルフだったなんて」

『フードは耳を隠すためだったんだね』

フードを外したレンリィには、エルフ特有の長い耳がついていた。

「ごめん。いつか、話すつもりだった」

『エルフの差別って結構あるからね。私だってエルフと初対面とか怖いし……そりゃ隠すよ』

「(そういうもんなんだなぁ)」

テルは異世界の常識にはてんで疎い。
転生者故の弊害だが、大体はこのようなシエラの解説のおかげで助かっている。
シエラ様々だ。

「俺達も最初見た時はビビったもんだ、なぁムル」

「うちは気づいてたアルよ」

エルフの村の中、木の上のレンリィの家で雑談を交わすのは【開けゴマ】の懐かしの面々。
といっても、会ってないのは一ヶ月ほどだが──。

その一ヶ月が、余りにも濃すぎた。
学院に、勇者に、大会に、影の男に……神様。
寿命が十年は縮まったと思う。

「にしても驚いたな、まさかこんな所でシエラちゃんとまた会えるなんてよ」

「俺は二人が結婚したって方が驚きだよ……」

ムルとダゴマがエルフの村にいる理由がそれだ。
なんでも結婚の記念としてレンリィに招待されたらしい。

「まぁゴマ野郎がどうしてもって言うアルからな」

「プロポーズした時泣いてたくせによく言うぜ」

「それは言わない約束アル!!!」

『……口の中が甘くなってきた』

「(俺もだ)」

しかしムルの泣き顔など、想像もできない。
相当に嬉しかったのだろうとテルは思う。

「そういやシエラちゃん、国家公認試験の方はどうなんだ?」

「受験資格は取ったよ、あとは受けるだけ……なんだけど、先にやらなきゃいけないことがあってさ」

「先にやらなきゃいけないこと……アルか?」

きょとんとするダゴマ達。
当然だろう、国家公認試験よりも優先されることなんて中々ない。

「───会ったんだ。英雄殺しに」

「な───!!」

絶句する三人に、テルは捲し立てる。

「アイツの背後にはもっとドス黒い奴がいた。勇者とか魔王とか、とんでもない話になってるんだ。……頼む、英雄殺しについて詳しく聞かせてくれ。何があったんだ」

知る必要がある──全て。
英雄殺しの行動は、全て奴の指示に違いないから。

「──分かった、話そう……全て。いいよな、二人とも」

「異論はないアル」

「僕は元々、隠す気ない」



■ ■ ■

今ダゴマ達が住む国の隣に、チェンという国がある。
シャン・ムルは他でもない、その国の出身だ。

──ムルが稽古を終えて家に帰ってくると、既に全てが終わっていた。

「綺麗だろうムル。これが俺たちの両親だったモノだなんて信じられない」

「兄、さん……?」

狂った目で両親を串刺しにする兄の姿は、何かの間違いだとムルは思った。
これは、悪い夢なのだと。

ムルの兄、シャン・リオは優しい人格者だった。
剣の腕も一流で、ムルはついぞ勝てたことがない。
彼は将来を期待されていた。
そんな兄をムルは誰よりも尊敬していた。

──その兄が、豹変した。

家を出て隣の国へと渡ったリオは、【英雄殺し】としての活動を始めた。
ムルはそんな兄を追って国を渡り───そして。

子供さえも、犠牲になったことを知った。
ダゴマとの出会いは、そんな最悪なものだった。

これ以上被害者を出さないように、二人は【英雄殺し】を追ったが──。

「才能のないお前らを殺す価値なぞそもそもないが──任務の邪魔だ。二度と私の前に現れるな。次は殺す」

全く敵わなかった。
レンリィの住むエルフの村は焼かれ、悲劇を回避することは出来なかった。

「───と、こんな所アルね。兄は強い資質を持つ者を殺すことに執着してるアル」

『……勇者を、生み出さないため……?』

シエラの呟きにテルは同意する。

「エルフの村を襲ったのも魔王の伝承を絶やすためか……」

「結局奴はチェネラっていうとんでもないエルフとの決着が着かずに逃げ出していったがな」

「今ではこの村には認可された者以外の転移を禁止する結界が貼られてるアル」

アルカが言っていた許可というのはそういうことか、とテルは一人納得する。
そして、アルカが言っていたエルフの名もチェネラだ。
まずはそのチェネラとやらを尋ねる必要がありそうだった。



■ ■ ■

「アルカさんカラ話は聞いているヨ、ミーは考古学者のチェネラ。この村の中でハ一番伝承に詳しいジーニアスサ。まァ、座っテ座っテ」

「ありがとうございます。シエラです」

見渡す限り本、本、本。
本で埋め尽くされた部屋に、ほぅとため息が出る。
ここまで来ると壮観だ。

「さて、シエラ。ユーの聞きたいことっていうのハなんだったカナ?」

流石にそこまでは話が行ってないようで、チェネラは興味津々にこっちを見ている。
もっとこう、荘厳な感じの人が来るのかと思っていたが──。

カタコトな日本語といいこの態度といい、どちらかと言うと残念な感じを受ける。

「魔王について、です。いつ復活するのか、もしくはもう復活しているのか、どこにいるのか? どうしても知りたいのですが、まるで分からなくて」

「……魔王、ネェ。どうシテそれを知りたいと思ったノ?」

メガネの奥、チェネラの瞳が真面目に光る。
心の奥底まで見通すように、真っ直ぐに。

「もういるとしたら、どうしても倒さなきゃいけないんだ」

「……魔王ノ復活は千年周期だヨ、後900年は心配ないのサ。だからどこの国も魔王だなんテモノは全く気にしてナイ。……君はどうシテ魔王ヲ?」

「な、900年、だと……!? それじゃあ、アイツの計画が成立しないぞ……!!」

勇者テンキと魔王を争わせて、百年前を再現するのがヤツの計画のはずだ。
魔王がいなくては成り立たない。

「……計画? ヤツ? ……あのネ、ユーからすっごイ未知の香りがシテ、ミーは今チョットエキセイしてるんだよネ。全部包み隠さズ教えてくれタラ、なんでも協力するヨ」

『……テル、話そう。私たちが魔王についてもっと知らないと、アイツの計画を崩すなんて出来ないよ。……この人の協力は必須だと思うな』

「(……分かった)」

自分が百年前に転生した勇者であること。
この体の持ち主は別におり、今現在会話も出来ること。
百年前に起きた事件のこと。
神にそれを教えられたこと。

──そしてそこから導き出される、影の男の計画のこと。

全て、話した。

「ふぉぉぉぉぉオォオオエキセイッ! エキセイッ!! エキセイッッ!! エキサイティンッッ!!? そんな話ガ、本当だとするナラ……!! アァ興味ガッ!! 研究欲ガッッッ!!!!」

全てを話して一息つくと、それまで無言で話を聞いていたチェネラがいきなりスタンドアップ。
……ヘドバンしながら、叫び散らし出した。

「……え、いや、落ち着いてくr「無理無理無理!!! 興奮ガ、あァエキセイッ!!」」

『……え、なにこれ……!?』

「(話せっつったのお前だぞ!? 責任取れよ!?)」

『いやいやいやいや!?』

流石のシエラも、まさか相手が興奮のあまりに理性を失うとは思っていなかったのだろう。

……本当に、この人物を信用して良かったのかとテルは頭を抱えた。

『う、うん……。研究職だもんね、仕方ないよ!! いやきっと、だからこそ信用出来るよ……!!』

シエラのフォローもかなり苦しい。
理性を切らしてロックにヘドバンするカタコト考古学者を、どう信じろというのか。

「エキセイッ!! エキセイッッ!!!」

結局チェネラのヘドバンが止むまで、軽く三十分ほどかかった。
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