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第四章──暴かれ出した真実
商人の掟
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「……つまり俺は影と、テンキは魔王と戦ったらまずいから、お互いの標的を入れ替える……ってことか」
そう、実に単純なことだ。
既に勇者ではないテルが魔王を倒そうと、歪みは発生しない。
ターゲットを入れ替えて打倒すれば、影の目論見は完全に途絶えることになるのだ。
「だとしても、どう探すんだよ? 魔王なんて聞いたこともないぞ」
『そのためにもまずは国家公認魔導士にならないと』
国家公認魔導士。テルの体を取り戻すあるいは新たに作るべく、目指してきた道だ。
「王立第三魔導図書館……だったか? そんなに凄いのか、そこの極秘資料ってのは」
『それだけじゃないよ、だって国家公認魔導士ってだけで情報の集めやすさは段違いになるんだから』
「人々の上に立つ憧れの存在……か」
日本でいう医者とか先生……いわゆるエリートと言われる職だろう。
確かにそれだけの肩書きがあれば、ある程度は──。
「……いや、待て。そんな必要、ないんじゃないか……?」
『え?』
「ほら、アレだ、助けただろ? ……そう、アルカ商会だよ」
テルの脳裏に浮かぶのは、魔導列車で助けた赤髪の少女。
シエラは『それだ!!』と叫ぶ。
──というか、使った固定転移陣は確か、アルカ商会のものだ。
あまりの急展開にそれを忘れていた二人は、ぷっと吹き出す。
気づけば、目の前にアルカがいた。
「……よ」
「よ、じゃなかろうがたわけ」
とりあえず、挨拶だけしといた。
■ ■ ■
「なるほど。それで妾に会いに来たということじゃな?」
アルカは紅茶──正確にはそれらしきモノだが──を啜り、そうまとめて正否を問う。
いわゆる大人の味、と言うやつが苦手なテルは紅茶にしかめっ面をしながら首肯した。
全く、コーヒーといいこれといい、好んで飲む者の気持ちは一生分かりそうにない。
「あぁ、かなり最悪の事態で使わざるを得なかった……もしアレまで奪われてたら死んでたな、俺」
「スラれんようになっておるわ。当たり前じゃろうが」
そこは天下のアルカ商会、抜け目などあるはずもなかった。
本当に頼もしい。
『すっごい技術力。……さすが商会のトップだね』
シエラでさえそう言うのだから、相当に凄いシステムなのだろう。
「さて、それで……魔王、じゃったな」
「あぁ、何か知ってることはないか? なんでもいいんだ」
さて、そんな天下の商会のトップなのだ。
きっと耳寄りな情報を持っているに違いないとテルは期待する。
───だが、アルカは首を横に振った。
「残念じゃが妾は何も知らぬ。管轄外というやつじゃな。……じゃが、妾はエルフの一人にちと借りを作っておる。お主が訪ねられるよう、図っておこう。」
……エルフ?
なぜ今ここでエロ同人妖精が?
『えろどうじん? が何かは分からないけど、エルフは魔族とも呼ばれててね。魔王はエルフから生まれるし、魔王の伝承を記録してるって言うけど……でもまさか、エルフと意思疎通できるなんて思いもしなかったよ』
「魔族、か……」
どうやらテルの思っているエルフとは少し違うらしい。
もっとこう、神聖かつエロティックな雰囲気だと思っていたのだが……魔族という字面から受ける印象は真逆だ。
「その言葉はあまり使わん方がいい……差別用語じゃしな。彼らはそう呼ばれることを何よりも嫌う」
「あ、あぁ悪い、気をつけるよ」
テルは顔を引き攣らせる。
現代では、肌の色だけでもあれだけの差別が呪いのように根づいていた。
勇者、魔王、そんな大きなモノが交錯するコチラの世界では尚更だろう。
「村への転移陣は常備しておるが、許可が要る。今から用意させても一日ほどかかるが、それでよいか?」
「一日!? そんな早く行けるのか!! さっすがだなぁ、本当にありがとなアルカ!」
もっと三日、あるいは一週間ほどかかると思っていた。
アルカは礼を聞くと、満足気にない胸を張る。
「うむ、お主は命の恩人じゃからな。借りは返す、それが商人の掟じゃ」
全く、頼りになる幼女──あ、おばさんだったか、とテルは訂正するが。
途端、今まで受けたどんな殺意よりもどす黒いオーラが辺りに充満した。
「ぁ゛?」
「ゴメンナサイ」
『……テル。この世には絶対に言っちゃいけない事って言うのがあるんだよ……』
シエラの呆れた声に、テルは同意し反省せざるをえなかった。
■ ■ ■
一日後。
「ほれ、許可が出たぞ。随分待たせてすまぬな」
「いやクッソはえーよ、現代並だ……そんじゃ、行ってくる」
「うむ、戻ってくる時はまた渡した陣を使うと良い。あぁ、後エルフの名はチェネラという。変わり者じゃが悪い奴ではない、まぁお主とは気が合うじゃろう。……では、達者でな」
魔法陣を起動すると、最早慣れきった転移の光がテルを包んだ。
『ほんと、何から何まで感謝だね』
「あぁ────と、うわぁ!?」
転移の先、地に足をつくと同時に人にぶつかり、テルは大雑把にこけた。
「ご、ごめん。君、大丈夫?」
「あ、いや悪いのはこっちだから、気にすんな──!?」
こちらに駆け寄ってきた男性は、フードを被ってはいないものの。
若葉色の長い髪と真紅の瞳、端正な顔立ち──それをテルは見慣れていて。
また、懐かしいモノであった。
「レンリィ!?」
余りにも、奇妙すぎる再会がここに実現した。
そう、実に単純なことだ。
既に勇者ではないテルが魔王を倒そうと、歪みは発生しない。
ターゲットを入れ替えて打倒すれば、影の目論見は完全に途絶えることになるのだ。
「だとしても、どう探すんだよ? 魔王なんて聞いたこともないぞ」
『そのためにもまずは国家公認魔導士にならないと』
国家公認魔導士。テルの体を取り戻すあるいは新たに作るべく、目指してきた道だ。
「王立第三魔導図書館……だったか? そんなに凄いのか、そこの極秘資料ってのは」
『それだけじゃないよ、だって国家公認魔導士ってだけで情報の集めやすさは段違いになるんだから』
「人々の上に立つ憧れの存在……か」
日本でいう医者とか先生……いわゆるエリートと言われる職だろう。
確かにそれだけの肩書きがあれば、ある程度は──。
「……いや、待て。そんな必要、ないんじゃないか……?」
『え?』
「ほら、アレだ、助けただろ? ……そう、アルカ商会だよ」
テルの脳裏に浮かぶのは、魔導列車で助けた赤髪の少女。
シエラは『それだ!!』と叫ぶ。
──というか、使った固定転移陣は確か、アルカ商会のものだ。
あまりの急展開にそれを忘れていた二人は、ぷっと吹き出す。
気づけば、目の前にアルカがいた。
「……よ」
「よ、じゃなかろうがたわけ」
とりあえず、挨拶だけしといた。
■ ■ ■
「なるほど。それで妾に会いに来たということじゃな?」
アルカは紅茶──正確にはそれらしきモノだが──を啜り、そうまとめて正否を問う。
いわゆる大人の味、と言うやつが苦手なテルは紅茶にしかめっ面をしながら首肯した。
全く、コーヒーといいこれといい、好んで飲む者の気持ちは一生分かりそうにない。
「あぁ、かなり最悪の事態で使わざるを得なかった……もしアレまで奪われてたら死んでたな、俺」
「スラれんようになっておるわ。当たり前じゃろうが」
そこは天下のアルカ商会、抜け目などあるはずもなかった。
本当に頼もしい。
『すっごい技術力。……さすが商会のトップだね』
シエラでさえそう言うのだから、相当に凄いシステムなのだろう。
「さて、それで……魔王、じゃったな」
「あぁ、何か知ってることはないか? なんでもいいんだ」
さて、そんな天下の商会のトップなのだ。
きっと耳寄りな情報を持っているに違いないとテルは期待する。
───だが、アルカは首を横に振った。
「残念じゃが妾は何も知らぬ。管轄外というやつじゃな。……じゃが、妾はエルフの一人にちと借りを作っておる。お主が訪ねられるよう、図っておこう。」
……エルフ?
なぜ今ここでエロ同人妖精が?
『えろどうじん? が何かは分からないけど、エルフは魔族とも呼ばれててね。魔王はエルフから生まれるし、魔王の伝承を記録してるって言うけど……でもまさか、エルフと意思疎通できるなんて思いもしなかったよ』
「魔族、か……」
どうやらテルの思っているエルフとは少し違うらしい。
もっとこう、神聖かつエロティックな雰囲気だと思っていたのだが……魔族という字面から受ける印象は真逆だ。
「その言葉はあまり使わん方がいい……差別用語じゃしな。彼らはそう呼ばれることを何よりも嫌う」
「あ、あぁ悪い、気をつけるよ」
テルは顔を引き攣らせる。
現代では、肌の色だけでもあれだけの差別が呪いのように根づいていた。
勇者、魔王、そんな大きなモノが交錯するコチラの世界では尚更だろう。
「村への転移陣は常備しておるが、許可が要る。今から用意させても一日ほどかかるが、それでよいか?」
「一日!? そんな早く行けるのか!! さっすがだなぁ、本当にありがとなアルカ!」
もっと三日、あるいは一週間ほどかかると思っていた。
アルカは礼を聞くと、満足気にない胸を張る。
「うむ、お主は命の恩人じゃからな。借りは返す、それが商人の掟じゃ」
全く、頼りになる幼女──あ、おばさんだったか、とテルは訂正するが。
途端、今まで受けたどんな殺意よりもどす黒いオーラが辺りに充満した。
「ぁ゛?」
「ゴメンナサイ」
『……テル。この世には絶対に言っちゃいけない事って言うのがあるんだよ……』
シエラの呆れた声に、テルは同意し反省せざるをえなかった。
■ ■ ■
一日後。
「ほれ、許可が出たぞ。随分待たせてすまぬな」
「いやクッソはえーよ、現代並だ……そんじゃ、行ってくる」
「うむ、戻ってくる時はまた渡した陣を使うと良い。あぁ、後エルフの名はチェネラという。変わり者じゃが悪い奴ではない、まぁお主とは気が合うじゃろう。……では、達者でな」
魔法陣を起動すると、最早慣れきった転移の光がテルを包んだ。
『ほんと、何から何まで感謝だね』
「あぁ────と、うわぁ!?」
転移の先、地に足をつくと同時に人にぶつかり、テルは大雑把にこけた。
「ご、ごめん。君、大丈夫?」
「あ、いや悪いのはこっちだから、気にすんな──!?」
こちらに駆け寄ってきた男性は、フードを被ってはいないものの。
若葉色の長い髪と真紅の瞳、端正な顔立ち──それをテルは見慣れていて。
また、懐かしいモノであった。
「レンリィ!?」
余りにも、奇妙すぎる再会がここに実現した。
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