2人ではじめる異世界無双~無限の魔力と最強知識のコンビは異世界をマッハで成り上がります〜

こんぺいとー

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第三章──光の勇者と学院生活

お互い様

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曰く、あらゆる災害を起こせるらしい、と。

あるいは曰く、その美しい容貌に欠落は一切なく、彫刻よりも素晴らしい造形美を備えている、と。

はたまた曰く、その懐の深さは天を突き抜け神界に届くほどで、いやむしろシエラ様こそ女神────!!

「なんでこうなった」

『知らない』

あの戦いから、テルを訪ねてくる者が多くなった。

「お姉様~!! 夕食をお持ちしました~!!」

何やらお姉様~お姉様~と呼んで来ては付きまとう彼女、フィーネもその一人だ。
やたらと気が利く上に可愛いので、寄り付くままに傍に置いている。
フィーネかわいいよフィーネ。

だが男共、お前らはいらない……とテルはため息をつく。
彼女にわざわざ夕食を持ってこさせたのも、男どもが湧いて湧いてウザったいったらありゃしないからだ。
全く、飯が不味くなる。

「サインください」だの「握手してください」だのはまだしも、「踏んでください」とか「撫でてください」はもう訳がわからない。犯罪だろう。

「それだけお姉様は素晴らしいのです」と言うが、ほぼデマだろうに。

呼び方もシエラ様だのシエラお姉様だの果てには女神と来たものだ。
呆れて声も出ない。

「ま、嫌われるよりかはマシか……」

『う、うん、そうだね……』

なるだけ好意的に解釈することに努めつつ、テルは夕食のオークの唐揚げにかぶりついた。



■ ■ ■

「そしてお姉様は仰ったのです、「ありがとな」と──!! 心臓が止まるかと思いました!!」

「クッソオオオ羨ましいぞフィーネ!! お前らっっかりいい思いしやがってえ!」

「ありがとな、か……あの可愛さからそんな垢抜けた口調……なんか、エロいな」

「分かるか同士よ!! シエラ様の可愛らしさは正にそこにあるんだよ!! 俺っ娘って素晴らしい……ッ!!」

「馬鹿野郎!! シエラ様だから許されるんだ、シエラ様だから素晴らしいんだッ! ただの俺っ娘なんぞは足元にも及ばん!!」

ここまで、ツッコミ皆無である。

……否。

これからも、ツッコミ皆無である。

彼らはシエラFCファンクラブの幹部。
会長はお姉様~でお馴染みのフィーネだ。
当然だがテルはこのクラブの存在を知らない。

「更にお姉様はそこで「フィーネはかわいいなぁ」と……!! 名前を呼んでいただけるに留まらず、か、か、か、可愛いと!!! 私あまりの感動に気絶してしまいました……」

「ふおおおおおおお!!! 羨ま死しそうだ……ッ!!」

「フィーネ様さすがですぞ!!! 完全にシエラ様の公式妹分ですな」

こんな感じで、日夜シエラの魅力とかけられたお言葉の自慢大会が繰り広げられる。

……そして。

「あーやだやだ、あなた達口を開けばシエラ様シエラ様って。一緒の空気吸ってるとバカが伝染るわ」

「何を言うのですかな!! お主だって日頃からテンキ殿テンキ殿とやかましいのではないですかな!!?」

「テンキはいいのよ!! だって勇者様だもの……あぁ、テンキ、今頃何をしているのかしら」

と、テンキにも当然だがFCがあった。
……当然とは?????

「シエラ様の方が「テンキ様の方が」」

「「なんばーーーいも素晴らしい」のよ!!!」のですかな!!」んだよ!!」んだから!!」

というように、シエラFCとテンキFCは激烈な派閥争いを繰り広げている。

主にモブ男子とお姉様派の女子がシエラFCに、親友枠男子とハーレムメンバー女子がテンキFCにいる。

「くッだらねェ……」

……シオンに会いに来たつもりだったが、変な所に出くわしたテンキ。
見なかったことにしてその場を立ち去る以外に手段がないのは、勇者人生史上初であった。



■ ■ ■

「お姉様、魔導祭は明後日ですよ」

「ああ分かってる。テンキほど強いやつは他にいないんだよな? それなら大丈夫だろ」

勇者であるテンキは魔導祭には参加しない。
あの化け物さえいなければ、勝利はこのテルのものである。

「流石はお姉様です」

……何が??? と聞いても、まともな答えが帰ってこないのは知っている。
フィーネはテルのなす事全肯定なのだ、全くむず痒い。

「お姉様は、何故国家公認魔導士に?」

「約束したからだ」

「約束ですか、素敵ですね」

「あぁ。んじゃ寝るから……おやすみ、また明日な」

「はい、消灯しておきますね。おやすみなさい」

静寂の暗闇の中、ベッドに潜ってテルは思う。

最初こそ自分の体を手に入れるためだったが──今は違う、と。

シエラがいなくては、自分はここまで成長出来なかった。
たとえウィンウィンの関係でなくなったとしても、今の自分はシエラに尽くすだろう。

……そして、それはシエラも同様に。

歪な関係だと思うかもしれない。もう二人にとっては、お互いがなくてはならない存在になった。

例え新しい体を手にしたとしても、テルは一生をシエラと共に過ごすだろう。
それほどにテルはもう、シエラが好きなのだ。

新しい体を手に入れる動機も、少し変わってしまった。

シエラに体を返してやりたい。
感覚を共有しているとはいえ、自らの意志で動けないのがどれほど苦痛か。

そして、ちゃんとシエラを愛してやりたい。
やましい動機だが、本音だ。

そのために、テルはテルにならなくてはならない。

不思議なものだ。
テルはテルのため、シエラはシエラのために動いていたはずだったのに。

今となっては相手のことしか考えていない。
自らを大事にするのも、相手を悲しませないため、という理由になってしまっている。

『テル』

「(あぁ、頑張るよ)」

まずは魔導祭優勝。
それに向けて、テルは気合いを入れ直した──が、シエラは『違うの』と神妙に呟く。

「(……? どうした?)」

『あのね、テル。ずっと聞きたかったけど、怖くて聞けなかったことがあるの』

「(怖くて……か? 別に今更、何を言ったって……)」

『……テルは、私の事……恨んでない?』

「(恨んでるわけないだろ、むしろ感謝してるよ)」

何を当たり前なことを、とテルは即答した。

『だって、私のせいで……テルは……』

「(怒るぞシエラ。俺はお前と過ごすこの時間が楽しいんだ)」

確かに、失ったものはある。
優しい母親、恋しい我が家の布団。
楽しいゲームと、それを一緒に遊ぶネット友達。

確かに、数え切れないほどのものを失った。
今ここで、涙を流しきっても足りないほどの悲しみが確かにある。

だがそれは、決してシエラのせいではないし──。

何より、それを差し引いても今この瞬間は充実している。

テルはそう思えている。
シエラのおかげで。

『……ごめんね、私、怖くて』

罪悪感に埋もれるシエラに、テルは優しく諭す。

「(逆に言えば、俺はお前の体を奪ってる。……シエラは態度に出さないけどさ、自分で体を動かせないのは死ぬほど苦痛だろ? お互い様なんだ、俺たちは)」

吊り橋効果というやつかもしれない。
だが、どんな理由があれテルはシエラが好きで、だからもうなんだってやる気になれる。

『……ありが、とう、大好き。変な事言ってごめんね』

「(俺も大好き……いや、超好きだよ。もう言葉で表せないほど好きだ。それにむしろ、思い悩んでるって気づいてあげられなくてごめん──って、ほらな、お互い様だろ)」

『ふふ、ほんとだ──お互い様、だね』

シエラは自分の感情を隠すのが上手すぎる。

だが今日、こうして信用して話してくれた。
テルを信用して、寄りかかってくれた。

その事が嬉しくて、テルは寝つけなかった。



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