2人ではじめる異世界無双~無限の魔力と最強知識のコンビは異世界をマッハで成り上がります〜

こんぺいとー

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第三章──光の勇者と学院生活

アルカ・クライネ

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列車の中で静かに眠るテルを、突如振動が襲う。

「どわっ!? な、何だよ一体……」

魔導列車のウリは揺れなどない快適な旅のはずだ。これでは詐欺ではないか!!

『テル、なんか様子がおかしいよ。列車、動いてないみたい』

「あぁ……? なんかトラブルか?」

何かしらの魔導装置が、誤作動を起こしたのかもしれない。

「ったく、なんで俺ん時に限って……」

『そんなこと言ってたって始まんないよ、私たちが手伝ったらすぐ復帰できるはずだし行こうよ』

シエラの提案通り、眠気をうち払って体を起こすと、車内に大声が響いた。

『この列車は我々が掌握した、民間人はただちに全ての荷物をその場において列車から降りよ』

車内アナウンスを使っている。
列車がジャックされたというのは間違いなさそうだが───。

『テル、やっちゃえ』

「あぁ、丁度イラついてたとこだしな」

安眠を妨害した元凶を仕留めてやろう、とテルは気合を入れた。

『人質を取られてるかもだし、正面から行くと危険だよ』

「んじゃどっから行くんだよ……って、え、まさか」

シエラの指は、上を指している。
そう、上だ。

「天才か?」

いやテルの発想力が足りないだけだろう、とシエラは呆れた。



■ ■ ■

「ふはっはは、チョロいもんだな護衛さんよ。アルカ商会秘蔵の秘宝ッ!! 列車ごとオレのもんだ」

豪快に笑う男の周りには、護衛の傭兵が転がっている。列車を運転していた、車掌もだ。
まさかこの男、不意打ちとはいえあれだけのレベルを三人相手に無傷とは。

「くっ……何故じゃ、何故妾がここにいると分かったのじゃ」

縄で体を拘束された赤毛の美少女は、見た目年齢大体十七歳程度か。
この少女が国全土へ名を轟かすアルカ商会のトップなどと、誰が信じるだろう?

だが、それが真実だった。
アルカ・クライネ三十八歳──彼女こそが、アルカ商会の創設者にしてトップなのだ。

しかし、バレないように情報を工作していたはずだ。
特に今回のモノは、自分が直接運ぶほどに重大な案件だというのに──何故、バレたのか。

「あぁん? そりゃ秘密だ秘密。んでよぉ、アルカ様自ら持ち運んでた大事な秘宝とやらはどこにあんだ? とっとと吐いちまえよ」

「言うわけなかろうダボが……!! とっとと殺すがいい」

つんと顔を逸らすアルカに、男は魔法陣を起動する。

「ぐっ、がふ、っ!? ぁが、おげェ……ッ!!」

直後、植物のツタのようなモノに打たれて壁に叩きつけられたアルカは、胃の中身を全てぶちまけた。
血と酸が混ざりあって、地獄のような味が口の中を支配する。

「立場分かってんのかクソアマがよォ!!! さっさと言わねェとガチで殺すぞ!!」

最早ここまでか。
商会を立ち上げ早数十年、幾度となくピンチを経験した彼女であったが、ここまで希望のない事態は初めてだった。

口を閉じて瞑目し、暗にと告げると同時、死を覚悟した。

───そして。

「てめぇか畜生が!!」

「うがっぁ!? い、痛ェッ!! な、な、なんだテメェはァァ!!?」

自分と身長はさほど変わらない、思わず嘆息するほどの容貌を備えた金髪の美少女。
それが、見た目に似合わぬ罵詈雑言と共に窓を割って飛び込んできた。

更に、同時に男は後方へと吹っ飛び悲鳴をあげている。
──この少女が、やったのか!?

「……は?」

そう、言うしかなかった。
あまりにも突然だった。

「俺の安眠を邪魔しやがってコンチキショウ、しかもこんなちっちゃい女の子虐めて楽しんでやがったのか!!」

……ちっちゃい女の子。はぁ、見た目で判断するにしても同じくらいだろう、と突っこむほどの体力はさすがに残っていない。
アルカはただ呆然と、巻き起こる事態を眺めることしか出来なかった。

「許さねぇぞ下衆が!! お前みたいなやつは……丸焼きの刑だ!!!」

そこから起こったのは、長年冒険者というものを見てきたアルカにとっても一二を争うほど衝撃的な戦闘。
金髪の少女は片手を上げ、あろうことか魔力のみで魔法陣を書き上げると───。

男の服がとんでもない勢いで燃え始める。

「無陣……!?」

それ自体の理論は聞いたことがある。
だがその実現は実質不可能な領域にあるとして、今ではどこの学院でも教えていない。
一部の卓越した国家公認魔導士が使えるという噂話のみが、ただ残っている。

その半分ほどがデマであり、実際に無陣が使えるものは片手で数えられるほどしかいないこともアルカは知っていた。

──何故、この少女がそれを。

「うん、火属性はバッチリだな」

「あぢぃィイイ!! クソ、魔法陣が燃えちまったァ! な、なんなんだよテメェは……バケモンじゃねェかァア!!!」

「この美少女様にバケモンたぁ目がイカレちまったか? 俺は───」

───待て。
輝く金髪に、突き抜けるような青色の瞳。
生きている人間であることを疑うほどの端正な顔つきと、凄まじいまでに卓越した魔法。
まさか、まさかこの少女は──。

『嵐』───!!

「『嵐』のシエラ様だ覚えとけクソ野郎ッッ!!!」

男は腹部に強烈なパンチを食らい、泡を吹いて気絶した。

「ふぅ~~スッキリ……と、お前大丈夫か!? 意識はあるな……ひっでぇ……なんてことをするんだ全く……」

こちらに駆け寄る【嵐】に、どうやら助かったらしい、と少女は安堵し気絶した。



■ ■ ■

「お、起きたか。……全く災難だったな、大丈夫か?」

意識が浮上し目を開けると、こちらを見下ろす【嵐】の顔があった。その背景には列車の天井があり、そして妙に後頭部が柔らかく温かかい。

───膝枕か。なるほど気が利く。

「礼を言うのじゃ【嵐】のシエラ……。おっと、先に自己紹介じゃな。妾はアルカ商会の長、アルカ・クライネである」

「ほー、あるかしょーかい…………ぇ!? そんな凄い組織なのか、それ」

「まぁ、凄いと言えば凄いんじゃろうな。妾じゃからな」

「……の割にお前小さくないか」

「お主とそう変わらんじゃろうが!! それに妾はこんなナリじゃが三十八歳じゃぞ!!」

続いて口を開いたシエラは、あろうことか──。

アルカの、触れてはならない逆鱗に触れた。

「おばさんじゃん……」と。

だが、命の恩人である。
商会丸ごと救ってもらっている。
アルカは握りこぶしを振るうのを、ギリギリのところで抑えて言った。

「……ごほん、お主には本当に感謝しておる。商会存亡の危機を救ってもらった礼は必ずする。何か困ったことがあったらいつでもアルカ商会を尋ねてくるといい、味方するぞ」

「ん? あぁ、ありがとう」

この言葉の価値が、シエラには分からないようであった。
あれ程の実力を備えておきながら……なんという残念な少女だろうか。

いや具体的にはテルが分かっていないだけで、シエラはその隣でわなわなと震えているのだが───。

アルカには、それを知る由もなかった。

「こほん、ではこれを渡しておこう。使えば我がアルカ商会の本拠地に飛ぶようになっておる」

渡された名刺には微かに魔法陣が描かれている。
固定転移陣ポート】だ。

「へぇ……こりゃ凄いな、ありがとう。困ったら尋ねてみるよ」

「うむ、いつでも来るといい」

テルはいずれ、この少女に命を助けられることになるのだが──。

それはまだ、先の話。

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