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第三章──光の勇者と学院生活
渦巻く悪意
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「──何から話せばいいアルかね──そう、まずうちの兄の名前はシャン・リオと言うアル」
「お兄ちゃんがいたのか」
ダゴマに連れられて来た、いつもの食堂だ。
しかしその雰囲気はいつもとは程遠く、一言で言うならばシリアスだった。
「兄は指名手配された犯罪者アル。巷では有名アルが──まぁ、シエラっちは世間に疎いアルから、知らなくても無理はないアル」
「──指名手配、か」
穏やかな話ではない。
ダゴマが話を引き継ぐ。
「俺の子はそいつに殺された」
「な、こ、ころっ……!?」
『そんな……』
テルはお茶を吹き出し、盛大にむせ返った。
「僕の故郷も、襲撃受けてる」
「俺の子は殺され、レンリィの村は焼かれ、ムルは名誉に傷を負った。俺たちのパーティはいわば、シャン・リオ被害者の会なのさ」
「……そんな、ことが───でも、なんでそれを俺に」
テルとシエラはただ困惑した。
そんな話したくもないはずの過去を、何故テルに伝えるのか。
「シャン・リオの通り名は【英雄殺し】ってんだ。未来が約束された若者、あるいは現在伝説を残しつつある者、その全員が奴の殺害対象なんだ」
「僕達は、シエラに狙われて欲しくないから。……だから、英級昇格を阻止しようとした」
「……そんな背景が……」
つまり英級なんぞを飛び越えていまや帝級となったテルは、第一優先の殺害対象というわけだ。
「どこに行って何しようと、シエラちゃん、お前の人生だ。止めはしねぇ。……だが、奴にだけは殺されないでくれ、絶対だ」
『ダゴマさん……』
テルなんぞには想像も出来ないくらい、ひどい過去を背負っているのだろう。
ダゴマの握った拳からは、血が流れていた。
「──分かった、気をつける。三人とも、守ってくれてありがとう」
だがダゴマが案じた通り、テル達は歩みを止めるわけには行かない。
どんな苦難だろうと打ち破って前に進む。
そんな覚悟は、もうとっくに出来ていた。
テルはダゴマ達に別れを告げると、食堂を出てギルド本部へ向かう。
そして、そこでシズルから聞いたのは──。
「無期限迷宮侵入禁止ぃ?」
「はい、シエラ様が最下層のゲートモンスターを倒してしまわれたので、迷宮内の魔素がほとんどなくなってしまったのです。まぁなくなって困るものでもありませんが、以前と同様の数値に戻るまで迷宮は封鎖となりました」
『あーそっか……やりすぎた感じだねえ』
「(不可抗力だろ……それにこれ、ちょうどいいんじゃないか?)」
『ちょうどいいって?』
「(学院、入るんだろ?)」
そう、テルは今や冒険者の頂点である帝級となり───。
ついに国家公認魔導士となるための次のステップへと進めるのだ。
■ ■ ■
「それじゃあなダゴマ、ムル、レンリィ。ちょーーぜつ世話になった、いつか恩は絶対返すからな!!」
「元気でなシエラちゃん、頑張れよ」
「シエラっちなら楽勝アル、頑張るまでもないアル」
「…………応援、してる」
「あぁ!!」
『みんな本当に、いい人達だったね』
ダゴマは目頭を抑えていたが、随分スッキリとした別れだった。
二度と会えないわけじゃない。次に会う時までには国家公認魔導士になって、うんと驚かせてやろう。
──そして、出来るなら。
ダゴマ達に暗い影を落とす存在を、葬ってやりたい。
「さ、行くか」
『うん!!』
学院は首都アストレアにあり、かなり遠い。テル達は魔導列車に乗るため、迷宮街アルトリアの路地裏を通って駅に向かう。
その──途中で。
「なん、だよ、これ」
『嘘…………』
まるで待ち構えていたかのように。
お前を見ているぞと言わんばかりに。
女性の無残な死体が、磔にされていた。
それよりも、血で隣に書かれたメッセージがテルの心を抉る。
「なんで、俺の本名を」
シエラ以外は知らないはずだ。
いや、シエラですらこれは知らないはずだ。
赤く、神経を逆撫でるように、黒板をひっかくようにして書かれたその文字は。
確かに、【篠崎 輝】と。
「なんなんだ、なんの冗談だよ…………ッ!!」
『──あ、この子……見たこと、ある……。フリードさんと、一緒にいた───』
「……スー、か。じゃあ、フリードも……」
──英級争奪戦で起きた謎のトラブル。
──そこにいなかったフリード。
──目の前の、スーの死体。
──篠崎 輝を知っている何者か。
「……そういうことか」
冷えきったテルの脳は、その答えに簡単に行き着いた。
強大な深淵が。闇が、テルを覗いていた。
■ ■ ■
冷たい陰の中、神の言葉を待つ。
「ご苦労さま。まぁもう勇者なんぞ生まれる時期は過ぎてるが、念には念を入れたいからな」
──流石は我がマスター。
圧倒的な強さを持つにも関わらず、決して警戒を怠らない。
「んじゃ次の仕事な。狙うのはこいつだ」
金髪に、青色の気だるげな瞳。
シエラ──もとい、篠崎 輝が写し出されていた。
■ ■ ■
「さて、裏に何がいようとまずは学院だよなあ」
『当たり前でしょ、そんなの国家公認魔導士になって、全部片付いてからでも遅くないしね』
「でもなぁ、勉強とか授業とか最高にめんどくせえな……」
魔導列車のグリーン席、リクライニングシートを限界まで倒してそうこぼすテルに、シエラが呆れたように肩を竦める。
『何を聞いてたのテル、私たち授業とか受ける必要ないよ』
「へ?」
『目標を通り越して帝級冒険者になっちゃったからね、学院への編入は特待生って形になるの。受けたい授業だけ受ければいいし、学院内の資料は全部自由だよ』
「なん、だと……、楽園じゃねーか」
『なっといて良かったねえ、帝級』
もしかしたら公認魔導士にならずとも、学院内に自分の体を得る手がかりがあるかもしれない。
そう思うと俄然楽しみになってきた。
「お兄ちゃんがいたのか」
ダゴマに連れられて来た、いつもの食堂だ。
しかしその雰囲気はいつもとは程遠く、一言で言うならばシリアスだった。
「兄は指名手配された犯罪者アル。巷では有名アルが──まぁ、シエラっちは世間に疎いアルから、知らなくても無理はないアル」
「──指名手配、か」
穏やかな話ではない。
ダゴマが話を引き継ぐ。
「俺の子はそいつに殺された」
「な、こ、ころっ……!?」
『そんな……』
テルはお茶を吹き出し、盛大にむせ返った。
「僕の故郷も、襲撃受けてる」
「俺の子は殺され、レンリィの村は焼かれ、ムルは名誉に傷を負った。俺たちのパーティはいわば、シャン・リオ被害者の会なのさ」
「……そんな、ことが───でも、なんでそれを俺に」
テルとシエラはただ困惑した。
そんな話したくもないはずの過去を、何故テルに伝えるのか。
「シャン・リオの通り名は【英雄殺し】ってんだ。未来が約束された若者、あるいは現在伝説を残しつつある者、その全員が奴の殺害対象なんだ」
「僕達は、シエラに狙われて欲しくないから。……だから、英級昇格を阻止しようとした」
「……そんな背景が……」
つまり英級なんぞを飛び越えていまや帝級となったテルは、第一優先の殺害対象というわけだ。
「どこに行って何しようと、シエラちゃん、お前の人生だ。止めはしねぇ。……だが、奴にだけは殺されないでくれ、絶対だ」
『ダゴマさん……』
テルなんぞには想像も出来ないくらい、ひどい過去を背負っているのだろう。
ダゴマの握った拳からは、血が流れていた。
「──分かった、気をつける。三人とも、守ってくれてありがとう」
だがダゴマが案じた通り、テル達は歩みを止めるわけには行かない。
どんな苦難だろうと打ち破って前に進む。
そんな覚悟は、もうとっくに出来ていた。
テルはダゴマ達に別れを告げると、食堂を出てギルド本部へ向かう。
そして、そこでシズルから聞いたのは──。
「無期限迷宮侵入禁止ぃ?」
「はい、シエラ様が最下層のゲートモンスターを倒してしまわれたので、迷宮内の魔素がほとんどなくなってしまったのです。まぁなくなって困るものでもありませんが、以前と同様の数値に戻るまで迷宮は封鎖となりました」
『あーそっか……やりすぎた感じだねえ』
「(不可抗力だろ……それにこれ、ちょうどいいんじゃないか?)」
『ちょうどいいって?』
「(学院、入るんだろ?)」
そう、テルは今や冒険者の頂点である帝級となり───。
ついに国家公認魔導士となるための次のステップへと進めるのだ。
■ ■ ■
「それじゃあなダゴマ、ムル、レンリィ。ちょーーぜつ世話になった、いつか恩は絶対返すからな!!」
「元気でなシエラちゃん、頑張れよ」
「シエラっちなら楽勝アル、頑張るまでもないアル」
「…………応援、してる」
「あぁ!!」
『みんな本当に、いい人達だったね』
ダゴマは目頭を抑えていたが、随分スッキリとした別れだった。
二度と会えないわけじゃない。次に会う時までには国家公認魔導士になって、うんと驚かせてやろう。
──そして、出来るなら。
ダゴマ達に暗い影を落とす存在を、葬ってやりたい。
「さ、行くか」
『うん!!』
学院は首都アストレアにあり、かなり遠い。テル達は魔導列車に乗るため、迷宮街アルトリアの路地裏を通って駅に向かう。
その──途中で。
「なん、だよ、これ」
『嘘…………』
まるで待ち構えていたかのように。
お前を見ているぞと言わんばかりに。
女性の無残な死体が、磔にされていた。
それよりも、血で隣に書かれたメッセージがテルの心を抉る。
「なんで、俺の本名を」
シエラ以外は知らないはずだ。
いや、シエラですらこれは知らないはずだ。
赤く、神経を逆撫でるように、黒板をひっかくようにして書かれたその文字は。
確かに、【篠崎 輝】と。
「なんなんだ、なんの冗談だよ…………ッ!!」
『──あ、この子……見たこと、ある……。フリードさんと、一緒にいた───』
「……スー、か。じゃあ、フリードも……」
──英級争奪戦で起きた謎のトラブル。
──そこにいなかったフリード。
──目の前の、スーの死体。
──篠崎 輝を知っている何者か。
「……そういうことか」
冷えきったテルの脳は、その答えに簡単に行き着いた。
強大な深淵が。闇が、テルを覗いていた。
■ ■ ■
冷たい陰の中、神の言葉を待つ。
「ご苦労さま。まぁもう勇者なんぞ生まれる時期は過ぎてるが、念には念を入れたいからな」
──流石は我がマスター。
圧倒的な強さを持つにも関わらず、決して警戒を怠らない。
「んじゃ次の仕事な。狙うのはこいつだ」
金髪に、青色の気だるげな瞳。
シエラ──もとい、篠崎 輝が写し出されていた。
■ ■ ■
「さて、裏に何がいようとまずは学院だよなあ」
『当たり前でしょ、そんなの国家公認魔導士になって、全部片付いてからでも遅くないしね』
「でもなぁ、勉強とか授業とか最高にめんどくせえな……」
魔導列車のグリーン席、リクライニングシートを限界まで倒してそうこぼすテルに、シエラが呆れたように肩を竦める。
『何を聞いてたのテル、私たち授業とか受ける必要ないよ』
「へ?」
『目標を通り越して帝級冒険者になっちゃったからね、学院への編入は特待生って形になるの。受けたい授業だけ受ければいいし、学院内の資料は全部自由だよ』
「なん、だと……、楽園じゃねーか」
『なっといて良かったねえ、帝級』
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