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第二章──勝ち取れ栄光、英級昇格争奪戦
全てを輝らして進むヒカリ
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「ムル!! 一分だけ耐えてくれ!!」
「何か策があるアルね? ……ゴマ野郎! 前衛に来るアル!!」
「! おう、分かった!!」
「なら。僕も」
「レンリィは絶対来るな!! お前の支援が途切れたら、全部丸ごと水の泡だろうが!!」
その通りだ。レンリィの補助をなくしてしまっては、シエラの計画もどうしようもなくなってしまう。
レンリィは絶対に失ってはいけない、要だ。
前に出してはいけない。
「…………分かった」
『60.59.58.57……』
シエラのタイムカウントは、実際に声を発している訳では無いから時差がない。
それに従いながらテルは魔力を捻り出す。
時折肌や衣服をヤツの攻撃が掠めるが、どうってことはない。すぐにレンリィが回復してくれる。
───だが。
「(まずいな……)」
触肢と光線による攻撃の密度は、最早目で追いきれるレベルではなかった。
今は何とかなっているが、ダゴマもムルも、見るからに疲労が蓄積してきている。
テルとは違って魔力にも限りがあるだろう。
とはいえ、他に適任もいない。
後方の冒険者たちは遠距離攻撃でヤツの攻撃を妨害してくれているが───あれでは、殆ど効果はないだろう。
改めて【開けゴマ】のメンバーの強さを実感する。
勇級冒険者とは本来、あの程度なのだ。
───このままでは到底、一分も持たない。
それを裏付けるように、後二十五秒のところで、ダゴマの片腕がヤツの触肢にもがれて地に落ちた。
「ガぁぁァあああッッ……!!」
「ダゴマ!! クソ、ちきしょぉ……ッ!!」
『……ダメだよテル。集中して』
「……っ、あぁ、分かってる……! 分かってる、クソ!!!」
「くっ……が、ァッ、バケモノ、め……っ!!」
一秒のズレも、1ミリのズレも許されない。
仲間の傷をいたわっている時間など、一切ないのだ。
それでもテルは、自責の念に胸が切り裂かれそうになる。
自分が、もっと、もっと強ければ、こんなことには。
「く、っ、ぁ!?」
続いて、ムルの青龍刀が根元からポッキリと折れた。魔力の枯渇で、硬化が間に合わなかったのだ。
──あと、十秒。
「ムル!!!」
「……どうやら、ここまでみたいアルね」
「何を馬鹿なこと言ってんだ!! 避けろ
、避けろよ……っ!!」
「ムルは、ムルはやらせねェぞ怪物がァァ!!!」
諦めたように目を伏せるムルの前に、片腕から大量の血を流し続けるダゴマが立つ。
「……ゴマ野郎────お前、ホントにバカアル──なんで」
「バカはお互い様だろう──決まっている、お前だからだ」
ムルは、目を見開いた。
無慈悲な光線が、ダゴマを襲って───。
──あと、八秒。
二人の目の前に一人、飛び出るものがいた。
「俺だって、俺だってなァ!!! やりゃあ……出来んだ!! 出来んだよォッッ!!」
片手に、あの光線を防ぐにはあまりにも頼りのない盾を携えて。
ヴェインが、二人の前へと躍り出た。
「アンタらは、死ぬべきじゃねェだろうが!! アンタらにはまだ、守るべきヤツがいるんだろうが!!」
ヴェインの絶叫は、二人に対する説教だった。
ここで諦めるな、こんなところで死んではいけないだろう、と。
まだ、お前らにはシエラがいるだろう、と。
「「な─────」」
つまり。
死ぬのは俺だけで、充分だと。
ヴェインは、そう叫んだ。
──あと、五秒。
ヴェインの掲げた盾へと光線は直撃し、いとも容易くヴェイン本体を焼く。
「……か、はっ、ごふっ」
喉を焼かれ、悲鳴をあげることすら出来ずに。
ヴェインは血を吐いて地に倒れ伏した。
「ヴェイン───!? てめ、ぇ、何を───!!」
「…………ッ、なんて、なんてことを…………!!」
「そんな」
あと、三秒。ダメだ。まだ三秒、耐えねばならない。
死ぬな、死ぬな、死なないでくれ。
自分のせいで、自分の弱さのせいで人が死ぬだなんて、そんなのは耐えられない。
「絶。───絶、絶、絶ッッ!!」
ここで無貌はシエラとテルの企みに気づいたのか、それとも直感なのか。
「……ッ、嘘、だろ」
不意に繰り出された光の刃が、レンリィの【守護結界陣】を超えてテルの腹部を裂いた。
「絶。───タダヒトツ絶望ヲモッテ汝ヲ抹殺スル」
「やって、みやがれ」
血の味がする、灼熱が体を支配している。
だが───大丈夫だ。生きている。
当然だ、まだ生きなければならない。
いくら絶望が、闇が、未来を覆い隠そうとしたとしても。
その全てを払って、輝らして進むのだ。
腹から大量に零れる血など、些細なことだ。
無視しろ。無視して前を真っ直ぐ睨め。
ダゴマはもっと痛いはずだ。ヴェインは痛みすら感じられないほどなはずだ。
ここで、ここで全てを託されたこの自分が、倒れていい理由がどこにあるっ!!?
───ゼロ秒。
遠ざかる意識を必死で手繰り寄せて、テルは魔力を解放した。
瞬間、起こったことを理解出来たモノは───。
その事態を引き起こした本人である、テルとシエラだけだった。
それは、あるいは爆発。あるいは轟雷。あるいは暴風。あるいは────。
あらゆる属性の、テルの最大出力魔法が。
一斉に、三十重にもなって襲いかかった。
その正体は──時間差で起動する、魔法陣。
それも、無陣と同様の魔力によって描かれた魔法陣。
シエラによる正確な秒数カウントと、極限の集中力によってなし得た、テルの0.0001ミリのズレも許されない魔力コントロール。
あらゆる極限が引き起こしたそれは、正しく神の鉄槌と呼べよう。
──無貌の悪魔は、跡形もなく消し飛んだ。
「は、ァ、はぁ…………よ、し……ッ」
『…………勝った』
緊張の糸がプツリと切れたテルは、そのまま意識を飛ばした。
後には、静寂だけが残った。
「何か策があるアルね? ……ゴマ野郎! 前衛に来るアル!!」
「! おう、分かった!!」
「なら。僕も」
「レンリィは絶対来るな!! お前の支援が途切れたら、全部丸ごと水の泡だろうが!!」
その通りだ。レンリィの補助をなくしてしまっては、シエラの計画もどうしようもなくなってしまう。
レンリィは絶対に失ってはいけない、要だ。
前に出してはいけない。
「…………分かった」
『60.59.58.57……』
シエラのタイムカウントは、実際に声を発している訳では無いから時差がない。
それに従いながらテルは魔力を捻り出す。
時折肌や衣服をヤツの攻撃が掠めるが、どうってことはない。すぐにレンリィが回復してくれる。
───だが。
「(まずいな……)」
触肢と光線による攻撃の密度は、最早目で追いきれるレベルではなかった。
今は何とかなっているが、ダゴマもムルも、見るからに疲労が蓄積してきている。
テルとは違って魔力にも限りがあるだろう。
とはいえ、他に適任もいない。
後方の冒険者たちは遠距離攻撃でヤツの攻撃を妨害してくれているが───あれでは、殆ど効果はないだろう。
改めて【開けゴマ】のメンバーの強さを実感する。
勇級冒険者とは本来、あの程度なのだ。
───このままでは到底、一分も持たない。
それを裏付けるように、後二十五秒のところで、ダゴマの片腕がヤツの触肢にもがれて地に落ちた。
「ガぁぁァあああッッ……!!」
「ダゴマ!! クソ、ちきしょぉ……ッ!!」
『……ダメだよテル。集中して』
「……っ、あぁ、分かってる……! 分かってる、クソ!!!」
「くっ……が、ァッ、バケモノ、め……っ!!」
一秒のズレも、1ミリのズレも許されない。
仲間の傷をいたわっている時間など、一切ないのだ。
それでもテルは、自責の念に胸が切り裂かれそうになる。
自分が、もっと、もっと強ければ、こんなことには。
「く、っ、ぁ!?」
続いて、ムルの青龍刀が根元からポッキリと折れた。魔力の枯渇で、硬化が間に合わなかったのだ。
──あと、十秒。
「ムル!!!」
「……どうやら、ここまでみたいアルね」
「何を馬鹿なこと言ってんだ!! 避けろ
、避けろよ……っ!!」
「ムルは、ムルはやらせねェぞ怪物がァァ!!!」
諦めたように目を伏せるムルの前に、片腕から大量の血を流し続けるダゴマが立つ。
「……ゴマ野郎────お前、ホントにバカアル──なんで」
「バカはお互い様だろう──決まっている、お前だからだ」
ムルは、目を見開いた。
無慈悲な光線が、ダゴマを襲って───。
──あと、八秒。
二人の目の前に一人、飛び出るものがいた。
「俺だって、俺だってなァ!!! やりゃあ……出来んだ!! 出来んだよォッッ!!」
片手に、あの光線を防ぐにはあまりにも頼りのない盾を携えて。
ヴェインが、二人の前へと躍り出た。
「アンタらは、死ぬべきじゃねェだろうが!! アンタらにはまだ、守るべきヤツがいるんだろうが!!」
ヴェインの絶叫は、二人に対する説教だった。
ここで諦めるな、こんなところで死んではいけないだろう、と。
まだ、お前らにはシエラがいるだろう、と。
「「な─────」」
つまり。
死ぬのは俺だけで、充分だと。
ヴェインは、そう叫んだ。
──あと、五秒。
ヴェインの掲げた盾へと光線は直撃し、いとも容易くヴェイン本体を焼く。
「……か、はっ、ごふっ」
喉を焼かれ、悲鳴をあげることすら出来ずに。
ヴェインは血を吐いて地に倒れ伏した。
「ヴェイン───!? てめ、ぇ、何を───!!」
「…………ッ、なんて、なんてことを…………!!」
「そんな」
あと、三秒。ダメだ。まだ三秒、耐えねばならない。
死ぬな、死ぬな、死なないでくれ。
自分のせいで、自分の弱さのせいで人が死ぬだなんて、そんなのは耐えられない。
「絶。───絶、絶、絶ッッ!!」
ここで無貌はシエラとテルの企みに気づいたのか、それとも直感なのか。
「……ッ、嘘、だろ」
不意に繰り出された光の刃が、レンリィの【守護結界陣】を超えてテルの腹部を裂いた。
「絶。───タダヒトツ絶望ヲモッテ汝ヲ抹殺スル」
「やって、みやがれ」
血の味がする、灼熱が体を支配している。
だが───大丈夫だ。生きている。
当然だ、まだ生きなければならない。
いくら絶望が、闇が、未来を覆い隠そうとしたとしても。
その全てを払って、輝らして進むのだ。
腹から大量に零れる血など、些細なことだ。
無視しろ。無視して前を真っ直ぐ睨め。
ダゴマはもっと痛いはずだ。ヴェインは痛みすら感じられないほどなはずだ。
ここで、ここで全てを託されたこの自分が、倒れていい理由がどこにあるっ!!?
───ゼロ秒。
遠ざかる意識を必死で手繰り寄せて、テルは魔力を解放した。
瞬間、起こったことを理解出来たモノは───。
その事態を引き起こした本人である、テルとシエラだけだった。
それは、あるいは爆発。あるいは轟雷。あるいは暴風。あるいは────。
あらゆる属性の、テルの最大出力魔法が。
一斉に、三十重にもなって襲いかかった。
その正体は──時間差で起動する、魔法陣。
それも、無陣と同様の魔力によって描かれた魔法陣。
シエラによる正確な秒数カウントと、極限の集中力によってなし得た、テルの0.0001ミリのズレも許されない魔力コントロール。
あらゆる極限が引き起こしたそれは、正しく神の鉄槌と呼べよう。
──無貌の悪魔は、跡形もなく消し飛んだ。
「は、ァ、はぁ…………よ、し……ッ」
『…………勝った』
緊張の糸がプツリと切れたテルは、そのまま意識を飛ばした。
後には、静寂だけが残った。
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