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第二章──勝ち取れ栄光、英級昇格争奪戦
ディザスター・エンカウント
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「よう」
「おお、シエラちゃんか。噂は聞いてるぞ」
「あのシエラっちが『嵐』とは、出世したもんアル」
「……がんばってる。偉い」
二時間も前に来たというのに、見慣れた先客がいた。
ダゴマ達【開けゴマ】のメンバーだ。
褒められるだろうことは予測していたし、テルの厨二妄想の産物の一つでもある光景だが。
実際に起こるとこう、むず痒いものがある。
「まぁ魔法が使えるようになったおかげだよ」
「凄い。魔力量、僕より上。……でも、負けない」
「忘れがちアルが、今は全員ライバルアル。……もちろん勝つのはうちアル」
「あぁそうだ。なんせ今月ァ一人しか英級に行けねえからな。……負けねぇぞ」
皆明らかに以前より強くなっているのを肌で感じた。
この日に向けて死にものぐるいで努力してきたのはテルだけではないのだ。
だがそれ以前に、何か別種の気迫をダゴマ達から感じてテルは一歩退く。
「(……それでも、勝つのは俺たちだ」
続々と部屋に飛び込んでくる冒険者たち。
その総数は優に三十を超えるだろう。
これだけの人数が、英級を目指して一斉に飛びかかるのだ。
それでも不思議と、負ける気は微塵もしない。
復活まで十秒。
各々がそれぞれの武器をかまえ、戦闘態勢へと入る。
五秒。
皆一様に集中している。武器の擦れる音と息を呑む音だけが、鮮明に聞こえる。
四、三、二、一、─────。
凄まじい轟音と、目を細めずにはいられないほどの眩い閃光を伴って現れた、阿修羅を思わせるその魔物は。
──同時に現れた、言い表しようのない不定形に呑まれて木っ端微塵に消えた。
「絶。───第一対象ノ絶命ヲ確認。続。───蛮勇ナル者共ヨ、愚カヲ悔イヨ」
「…………は?」
悪夢が、始まった。
「おい!! 何かおかしいぞ、待て!!」
冒険者たちが次々に飛び込み、テルの制止は間に合わない。
否、間に合ったていたとしても、彼らは聞き入れてくれなかっただろう。
競争なのだから。
「いよっしゃァ! 一番ノr────ォ」
あまりにも短すぎる、簡単すぎる断末魔が。
これが一体どのような悪夢であるのかを、強く物語っていた。
首だけになって転がる冒険者は、既に十名を超える。
あれだけの人数で斬りかかったというのに、たかだか数秒で。しかも敵は無傷で。
──得体の知れぬ悪夢が、全てを破壊し尽くしていく。
テルは頭を抱えて座り込んだ。
「……嘘だろ。おいシエラ、どうなってる。八十層のゲートモンスター……じゃねえよなアレ」
『……ごめん、わかんない……。ただ、ゲートモンスターの光にカモフラージュされてたけど、少しだけ転移光が見えたよ。……誰かが、何かしらの目的で送り込んできた魔物かも、しれない』
「……俺たち英級冒険者が、この層にこの時間に集まってることは誰でも知ってるよな……クソ、嵌められたか……ッ!!」
新聞で話題になっていた。誰でも知っている。
…………いや、そもそも。
──誰が新聞にあの情報を持ち込んだ?
もし、この悪夢が完全に意図的に作られたものだったとしたら。
誰が─────と、ふと見渡して。
気づいた。気づいてしまった。感覚が、鋭敏になっていたからかもしれない。もしくは、先日話したばかりで記憶に鮮明に残っていたから?
ともかく、気づいた。
「フリード、あいつ……っ!!」
絶対にいるはずのフリード・アドバンが、この場のどこにもいないことに。
『……! でも、今はそんなこと言ってられないよ。アイツを、どうにかしないと……!』
「あぁ、分かってる。……まだ、まだ俺は死なねえぞ」
生きる尊さを学んだ。
生き方を学んだ。
強くなった。
こんな所で、やられてやる訳にはいかない。
「全員、聞け────!!!」
そのためにまず、テルは【増幅陣】の魔法陣を使って大声を張り上げた。
混乱に陥っていた冒険者たちの耳に、テルの年相応に可愛らしく──それでいて、年不相応に凛々しい声が届く。
「こいつはどうやら第八十層のゲートモンスターじゃあない!! 全員でガッチリ守って陣形を組まないと、勝てる相手じゃないぞ!! ……だが、安心しろ!! 俺が先導して指示を出すッ!! 俺が───」
続いて、テルは四つの魔法陣を展開した。
一つは、致命傷を受けないようにするための【守護結界陣】。
一つは、素早く立ち回るための【韋駄天陣】。
残り二つは先制攻撃のために起動した、火と光の属性陣だ。
「こいつを、倒してやるッ!!」
裁きの炎が、無貌を焼いた。
それ自体は、大したダメージは与えられなかったが。
冒険者たちの心に火を灯すには、充分すぎる明かりだった。
「「「「うぉおおおおおおぉおおお!!!!!」」」」
混乱し逃げ惑っていた彼らはここに、真の強さを見せつけるべく団結する。
煌々と輝く明かりの元に。
「そりゃ痛いやつから順に狙ってくるよな……っ、と!」
悪夢が放った黒い閃光はテルが先程までいた位置を穿ち、そこにあった全てを消滅させた。
そして、更なる追撃は──テルが避ける方向を考慮に入れた、偏差撃ち。
「嘘だろ……っ!?」
覚悟して【守護結界陣】の魔力消費を増やすと、ギリギリのところで閃光は両断され、辺りへと散っていく。
───ムルだ。
「シエラっち、強くなったアルね──お供するアル」
散っていった閃光はダゴマによって撃ち落とされ、後方の冒険者たちに被害はない。
「シエラちゃん、ムル、お前らの後ろは俺に任せろッ!! 全部捌く必要なんてねぇからな!!」
「サポート、僕に任せて。陣は全て、攻撃に」
つまりこれは、テルが全力全開、攻撃だけのことを考えて動けるということだ。
後方の冒険者たちの攻撃も加えれば、充分な負荷をアレにかけることが出来るだろう。
「…………あぁ、頼む!!」
『ホント、頼りになりすぎて驚いちゃうね』
「よっしゃあお前ら気合い入れろよォッ!! 冒険者パーティ【開けゴマ】……再結成だッ!!」
「おう!!「アル!!「ん」」」
補助魔法の陣を解き、属性魔法陣に全ての魔力を費やす。
次から次へ撃ち出される黒い閃光を避けながら迎撃する。
『埒があかないね……』
「【居合陣】……チッ、斬っても斬ってもすぐ生えてくるアル」
これが経験の違い、というやつなのだろう。
ムルは最善、最高効率の動作で閃光を凌ぎ、本体に直接斬りかかっている。
だが、その攻撃のおかげでヤツに隙が出来た。
畳み掛けるは今だろう。
「【輝炎斬】ッッ!!」
全力の一撃はレンリィによって最大限に増幅、強化されて襲いかかる。
正に最大出力、これで効かないならば最早打つ手はない。
「効いてくれよ……ッ!!」
ごっそり魔力を消費してよろけるが、それでも魔力は底を見せない。
とはいえ魔力回路を扱い慣れていないから、まだこの出力が限界なのだ。
何度でも、何回でも撃ってみせるが、一発一発がまるで効かないのなら意味が無い。
後方からさらに魔法が飛び、追い打ちをかける。一発一発はテルのそれに及ばないものの、全体で考えれば目を見張る威力がある。
「よしっ!!」
一斉攻撃によって与えたダメージが有効であることは、火を見るより明らかだった。
その不定形のボディの体積は、半分辺りまで減っているから。
────だが。
「撤。───蛮勇トノ罵リヲ謝罪シ、汝達ノ武勇ヲ認メル。反。───ダガ我ハ決シテ沈マヌ」
機械音声を彷彿とさせる耳障りな声が、テル達の顔色を変えた。
削がれたはずの不定形は膨張し、貌を変えて。
全くダメージを受けていないことを、高々と主張した。
「埒が明かないアル……」
「全部、一気に……か」
今のテルには無理だ。
全力全開の一撃と皆の支援を合わせて、ようやく半分なのだ。
『ひとつだけ』
絶望しかけたテルを照らしたのは、やはりシエラだった。
『ひとつだけ、策があるよ』
「……お前は、本当に頼りになるやつだな」
二人でひとつだ。
テルの力はシエラの力で、シエラの知識はテルの知識。
二人で困難を打ち砕いていくのは、最早当然のことだった。
『──────』
「──分かった、やってみる」
常軌を逸したシエラの策に、テルは覚悟を決めて頬を叩く。
さぁ、正真正銘のラストチャンスだ。
「おお、シエラちゃんか。噂は聞いてるぞ」
「あのシエラっちが『嵐』とは、出世したもんアル」
「……がんばってる。偉い」
二時間も前に来たというのに、見慣れた先客がいた。
ダゴマ達【開けゴマ】のメンバーだ。
褒められるだろうことは予測していたし、テルの厨二妄想の産物の一つでもある光景だが。
実際に起こるとこう、むず痒いものがある。
「まぁ魔法が使えるようになったおかげだよ」
「凄い。魔力量、僕より上。……でも、負けない」
「忘れがちアルが、今は全員ライバルアル。……もちろん勝つのはうちアル」
「あぁそうだ。なんせ今月ァ一人しか英級に行けねえからな。……負けねぇぞ」
皆明らかに以前より強くなっているのを肌で感じた。
この日に向けて死にものぐるいで努力してきたのはテルだけではないのだ。
だがそれ以前に、何か別種の気迫をダゴマ達から感じてテルは一歩退く。
「(……それでも、勝つのは俺たちだ」
続々と部屋に飛び込んでくる冒険者たち。
その総数は優に三十を超えるだろう。
これだけの人数が、英級を目指して一斉に飛びかかるのだ。
それでも不思議と、負ける気は微塵もしない。
復活まで十秒。
各々がそれぞれの武器をかまえ、戦闘態勢へと入る。
五秒。
皆一様に集中している。武器の擦れる音と息を呑む音だけが、鮮明に聞こえる。
四、三、二、一、─────。
凄まじい轟音と、目を細めずにはいられないほどの眩い閃光を伴って現れた、阿修羅を思わせるその魔物は。
──同時に現れた、言い表しようのない不定形に呑まれて木っ端微塵に消えた。
「絶。───第一対象ノ絶命ヲ確認。続。───蛮勇ナル者共ヨ、愚カヲ悔イヨ」
「…………は?」
悪夢が、始まった。
「おい!! 何かおかしいぞ、待て!!」
冒険者たちが次々に飛び込み、テルの制止は間に合わない。
否、間に合ったていたとしても、彼らは聞き入れてくれなかっただろう。
競争なのだから。
「いよっしゃァ! 一番ノr────ォ」
あまりにも短すぎる、簡単すぎる断末魔が。
これが一体どのような悪夢であるのかを、強く物語っていた。
首だけになって転がる冒険者は、既に十名を超える。
あれだけの人数で斬りかかったというのに、たかだか数秒で。しかも敵は無傷で。
──得体の知れぬ悪夢が、全てを破壊し尽くしていく。
テルは頭を抱えて座り込んだ。
「……嘘だろ。おいシエラ、どうなってる。八十層のゲートモンスター……じゃねえよなアレ」
『……ごめん、わかんない……。ただ、ゲートモンスターの光にカモフラージュされてたけど、少しだけ転移光が見えたよ。……誰かが、何かしらの目的で送り込んできた魔物かも、しれない』
「……俺たち英級冒険者が、この層にこの時間に集まってることは誰でも知ってるよな……クソ、嵌められたか……ッ!!」
新聞で話題になっていた。誰でも知っている。
…………いや、そもそも。
──誰が新聞にあの情報を持ち込んだ?
もし、この悪夢が完全に意図的に作られたものだったとしたら。
誰が─────と、ふと見渡して。
気づいた。気づいてしまった。感覚が、鋭敏になっていたからかもしれない。もしくは、先日話したばかりで記憶に鮮明に残っていたから?
ともかく、気づいた。
「フリード、あいつ……っ!!」
絶対にいるはずのフリード・アドバンが、この場のどこにもいないことに。
『……! でも、今はそんなこと言ってられないよ。アイツを、どうにかしないと……!』
「あぁ、分かってる。……まだ、まだ俺は死なねえぞ」
生きる尊さを学んだ。
生き方を学んだ。
強くなった。
こんな所で、やられてやる訳にはいかない。
「全員、聞け────!!!」
そのためにまず、テルは【増幅陣】の魔法陣を使って大声を張り上げた。
混乱に陥っていた冒険者たちの耳に、テルの年相応に可愛らしく──それでいて、年不相応に凛々しい声が届く。
「こいつはどうやら第八十層のゲートモンスターじゃあない!! 全員でガッチリ守って陣形を組まないと、勝てる相手じゃないぞ!! ……だが、安心しろ!! 俺が先導して指示を出すッ!! 俺が───」
続いて、テルは四つの魔法陣を展開した。
一つは、致命傷を受けないようにするための【守護結界陣】。
一つは、素早く立ち回るための【韋駄天陣】。
残り二つは先制攻撃のために起動した、火と光の属性陣だ。
「こいつを、倒してやるッ!!」
裁きの炎が、無貌を焼いた。
それ自体は、大したダメージは与えられなかったが。
冒険者たちの心に火を灯すには、充分すぎる明かりだった。
「「「「うぉおおおおおおぉおおお!!!!!」」」」
混乱し逃げ惑っていた彼らはここに、真の強さを見せつけるべく団結する。
煌々と輝く明かりの元に。
「そりゃ痛いやつから順に狙ってくるよな……っ、と!」
悪夢が放った黒い閃光はテルが先程までいた位置を穿ち、そこにあった全てを消滅させた。
そして、更なる追撃は──テルが避ける方向を考慮に入れた、偏差撃ち。
「嘘だろ……っ!?」
覚悟して【守護結界陣】の魔力消費を増やすと、ギリギリのところで閃光は両断され、辺りへと散っていく。
───ムルだ。
「シエラっち、強くなったアルね──お供するアル」
散っていった閃光はダゴマによって撃ち落とされ、後方の冒険者たちに被害はない。
「シエラちゃん、ムル、お前らの後ろは俺に任せろッ!! 全部捌く必要なんてねぇからな!!」
「サポート、僕に任せて。陣は全て、攻撃に」
つまりこれは、テルが全力全開、攻撃だけのことを考えて動けるということだ。
後方の冒険者たちの攻撃も加えれば、充分な負荷をアレにかけることが出来るだろう。
「…………あぁ、頼む!!」
『ホント、頼りになりすぎて驚いちゃうね』
「よっしゃあお前ら気合い入れろよォッ!! 冒険者パーティ【開けゴマ】……再結成だッ!!」
「おう!!「アル!!「ん」」」
補助魔法の陣を解き、属性魔法陣に全ての魔力を費やす。
次から次へ撃ち出される黒い閃光を避けながら迎撃する。
『埒があかないね……』
「【居合陣】……チッ、斬っても斬ってもすぐ生えてくるアル」
これが経験の違い、というやつなのだろう。
ムルは最善、最高効率の動作で閃光を凌ぎ、本体に直接斬りかかっている。
だが、その攻撃のおかげでヤツに隙が出来た。
畳み掛けるは今だろう。
「【輝炎斬】ッッ!!」
全力の一撃はレンリィによって最大限に増幅、強化されて襲いかかる。
正に最大出力、これで効かないならば最早打つ手はない。
「効いてくれよ……ッ!!」
ごっそり魔力を消費してよろけるが、それでも魔力は底を見せない。
とはいえ魔力回路を扱い慣れていないから、まだこの出力が限界なのだ。
何度でも、何回でも撃ってみせるが、一発一発がまるで効かないのなら意味が無い。
後方からさらに魔法が飛び、追い打ちをかける。一発一発はテルのそれに及ばないものの、全体で考えれば目を見張る威力がある。
「よしっ!!」
一斉攻撃によって与えたダメージが有効であることは、火を見るより明らかだった。
その不定形のボディの体積は、半分辺りまで減っているから。
────だが。
「撤。───蛮勇トノ罵リヲ謝罪シ、汝達ノ武勇ヲ認メル。反。───ダガ我ハ決シテ沈マヌ」
機械音声を彷彿とさせる耳障りな声が、テル達の顔色を変えた。
削がれたはずの不定形は膨張し、貌を変えて。
全くダメージを受けていないことを、高々と主張した。
「埒が明かないアル……」
「全部、一気に……か」
今のテルには無理だ。
全力全開の一撃と皆の支援を合わせて、ようやく半分なのだ。
『ひとつだけ』
絶望しかけたテルを照らしたのは、やはりシエラだった。
『ひとつだけ、策があるよ』
「……お前は、本当に頼りになるやつだな」
二人でひとつだ。
テルの力はシエラの力で、シエラの知識はテルの知識。
二人で困難を打ち砕いていくのは、最早当然のことだった。
『──────』
「──分かった、やってみる」
常軌を逸したシエラの策に、テルは覚悟を決めて頬を叩く。
さぁ、正真正銘のラストチャンスだ。
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