2人ではじめる異世界無双~無限の魔力と最強知識のコンビは異世界をマッハで成り上がります〜

こんぺいとー

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第二章──勝ち取れ栄光、英級昇格争奪戦

嗤う影には禍がある。

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体が沸騰するように熱い。こんな感覚はあれ以来か。
───だが、ひとつだけ。

明確な違いが、ひとつだけあった。
自分はまだ、動いている。

もうあの時とは違う。

腹から大量に零れる血など、些細なことだ。
無視しろ。無視して前を真っ直ぐ睨め。

「絶。───タダヒトツ絶望ヲモッテ汝ヲ抹殺スル」

「……やってみや、がれ」

未来を、黒い光が照らしていた。



■ ■ ■

──二日が、瞬く間に過ぎた。
これ以上ポイントを稼いでも仕方が無かったから、この日に向けて自室に籠り魔法陣の勉強をしていた。

「……よし、少しはできるようになったな」

『所要時間は一分ってところだね』

「まぁなあ……まだまだ実戦で使える段階じゃないな」

魔力で魔法陣を描き、そこにさらに魔力を通す。
言うだけなら簡単だが、これがアホみたいに難しい。

『そりゃそー簡単に出来るわけないよ』

「だよなぁ。コツコツやるしかないな」

テルが羽織った外套には、当然ながらいくつかの魔法陣が仕込まれている。
それを書くこと専用の、魔法ペンなる代物が雑貨屋で売っており、なんという世の中かと戦慄したものだ。

仕込まれた魔法陣は各属性の魔法陣に加えて身体強化系、回復系の主に三種。

体内に魔力回路を犯す毒を侵入させるという荒療治で無理やり魔力回路を認識したテルには、残念なことに他人を回復することはまだ出来ないが。

『……いよいよ、だね。あーー緊張してきた』

「実際に戦うのは俺だろ。お前が緊張してどーすんだ……」

『テルはしてないの?』

「見ての通り足ガックガクだがそれがどうした?」

シエラは思わず、言葉を零す。

『カッコ悪……ッ!?』……と。

震える足を叩いて迷宮へ向かう。
まだゲートモンスターの出現には時間があるが──噂が爆発的に広まってこの討伐が競争と化した今、その場で待っていた方がいいだろう。

「シエラちゃんじゃないか、今日も迷宮潜りかい? ほんと女の子なのに頑張るねえ」

「えぇ。皆がこうやって毎日応援してくれるからやる気が出ちゃって。ちょっくら頑張って来ますね!」

テルに話しかけるのは、街の掃除をいつもしている通称お掃除おばさん。
誰に言われるわけでもなく、慈善活動でやっているというから驚きだ。

「シエ嬢は早起きですな、元気で実によろしい」

「それが取り柄ですからね~! 今日も頑張ってきます!」

こちらは古本屋の店主だ。好奇心旺盛なシエラのために、時折覗きに来ている。
シエラは難しい本ばかり選ぶため、何やらテルが店主から認められてしまっている。

「シエラー! 聞いたわよ!! 今日とんでもなくでっかい魔物討伐するんだって!? お土産話期待してるね!!」

「あぁ! しっかり写真まで撮っといてやるよ。楽しみに待ってろ~~」

そしてその店主のお子さん。空いた時間で、絵本を読み聞かせたり日本の【むかしばなし】をしたりしてあげていた。お転婆な子だが、優しいいい子だとテルは思う。

──ここはギルドのある中心街から少し離れた、いわば迷宮街とでも呼ぶべき場所。
毎日迷宮に通いつめているテルは、そこらの住民とある程度親しくなっていた。

シエラが目を丸くして『テルって案外人と話せるのね』、などと宣ったのには流石に「どういう意味だ……」と眉間を抑える他なかったが。

「さて、今日も着きましたアルトリア大迷宮」

『うん。…………いよいよ、だね』

「まだ二時間弱あるけどな。…………ボス部屋、もう人いるのかなぁ」

五層ごとに出現するゲートモンスターに合わせて、エントランスと同じ雰囲気の、だだっ広い広間が迷宮には構築されている。
巷では試練の扉などと言われてはいるが、まぁ要するにボス部屋だ。

テルは一万の貢献値を勝ち取るために、その広間で時間を潰すつもりなのである。

「さ、行くか」

第一層への転移結晶に手をかざした。



■ ■ ■

手元には、二つの赤い結晶。
ひとつは、最下層へと転移する結晶。
明らかに違法の産物であるが、そんなことは最早どうでもよかった。

「……ここが、最下層、ですか。ゲホッ、禍々しい、というレベルではありませんね……」

最下層が具体的に何層目であるかは、誰も知らないとされている。
とはいえこの魔力密度は、八十層のそれと比べれば月とスッポンほどの差がある。
現に、魔力を扱う側であるはずのフリードですらも血を吐いている。

───だが、それもどうでもよかった。

「部屋全体が『試練の扉』……ならば、そろそろ出てくるはずです……ですよね、ゲートモンスター!!」

「───問。汝、我ニ挑厶覚悟有リカ」

「あぁある!!! 私を誰だと思っている!! そう……フリード・アドバンだ!! 決して負けてはならない、私はそのために力を得たのです!! くらえ化け物───ッ!!」

現れた、形容しようがないかたちをしたに、フリードは魔水晶を躊躇いなく宙にかざした。

───────刹那。

その魔物であるかすらも怪しい
は、その場から瞬く間に姿を消してしまった。

「は、はは……本当だ、本当だった……勝った、勝ったぞ、私がッ!! 最下層のゲートモンスターに!!! はは、ふはははは──────────は?」

────おかしい。腕時計に、何もカウントされていない。

「どういうことだ、故障か!? いや、まさか、そんな」

あれだけの魔水晶をくらって肉体的に消滅してもなお、命を取り留めているというのか。

「くっくくく……よくぞやってくれた、いやほんとお前、見事だよ」

「お前は───!!」

前と同じくして突如現れた影の男の胸ぐらを掴んで、フリードは怒鳴り散らす。
聞いていた話と違う、と。

「おい!! 確かに奴は消し飛んだが腕時計に加算されてないぞ!! 威力が足りなかったんじゃあないのか!!」

「落ちつけよフリード。普段の冷徹でキザな振る舞いはどこに行ったんだ? まぁあれだ、結晶自体は間違いなくしっかり作動したし、予定通りだよ。テメェは勘違いをしてるのさ」

「…………は?」

勘違い? なんの事だ。サッパリだ、サッパリ分からなかった。

「ありゃ転移結晶だ。分かるだろ? お前はアレを。まぁそりゃ腕時計に加算されるわけ、ないわな」

「……は? 転、移? どこに」

何故。騙された。そこまでは分かった。
なるほど、それは怪しい話に乗った自分が悪いだろう。
美味しい話には裏がある、当然のことだ。

だが何故フリードを騙してまで、最下層のゲートモンスターの転移など行う必要があった?

「頭悪いんだなお前。んやトチってるししゃーないか。まぁ送り先は八十層だ……後はもう、分かるよな?」

────八十層。
────ゲートモンスター。
────最下層。
────転移。

あぁ。全てが繋がってしまった。そして、この影の目論見は。

「─────貴様、正気か」

「オイオイオイオイ、転移させたのはお前だぜ? 正気か聞きたいのは俺の方だよ、なぁ。今からお前、大勢殺すけど───どんな気持ちだ? 聞かせてくれ」

───殺す? コロス? ころ……す?
あぁ、そうか。そうか、自分が、自分がこんな話に引っかからなければ。
自分が引っかかってしまったせいで───。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

違う違うちがうチガウ違うちがうちがう違うチガウ違う違う───ッッ!!!!

喚いた。咆哮した。号哭した。
違う、違うのだ。
こんなのを、こんな、こんな災厄を望んだのではない。
あくまで、自分が勝ち取る、そのため、だけに。

だが、それでも。
そんな身勝手な理由で、フリードは人を大勢殺すのだ。

あのような、幼い女の子でさえも、無慈悲に。

「まぁでも結果オーライじゃねえか? お前が目の敵に思ってた奴さぁ……全員、死ぬぜ」

影が、悪魔がそう囁き嗤う。
まるで、フリードがそれを望んでいるかのように。

「違う!!!! 私は、俺は、断じてそんなことを望んでなんかいないッ!!」

「あ、まぁでも……結局無理か」

涙を流し、鼻水を啜って怒鳴り散らすフリードに

影は嗤うのをやめて冷たく目を逸らした。

「どうせ、死ぬからよ」

体中の穴という穴から、血飛沫が飛び出す。
内部に入り込んだ影が膨張したのだ。

フリードは自らが死んだという認識すら出来ぬまま─────。

絶命した。

最期、フリードが思ったのは──。
スーを連れてこなくて良かった、ということだった。

──そして影の冷徹な、温度を持たない瞳が。

「悪ぃな、生かしちゃおけねえんだ。お前は」

ギラギラと絶望を映し出した。
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