2人ではじめる異世界無双~無限の魔力と最強知識のコンビは異世界をマッハで成り上がります〜

こんぺいとー

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第二章──勝ち取れ栄光、英級昇格争奪戦

吹き始めた嵐

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『魔力を扱えるようになったのはいいけど、魔法の方はまだまだなんだから。調子に乗ってると痛い目見るよー?』

「へいへい分かってるよ、なんで異世界に来てまで勉強なんざしなきゃなんないんだ……」

ノートに書かれた魔法陣を恨めしげに睨みながら呟くと、シエラが呆れたように肩をすくめる。

「てかさ、この魔法陣書かないと魔力の直接放出以外は魔法使えないんだよな? 前も俺はわざわざ手の甲に魔法陣書いてたけど、あいつらはどうやって魔法使ってんだ?」

あいつらとは当然ダゴマやムルのことである。

『大抵は武器とか衣服に魔法陣仕込んでるよ。次迷宮行く時はそうしてみよっか』

「おー楽しみ……ってさ、前から思ってたんだがそれならなんでこんな勉強する必要あるんだよ! 完全カンニングOKで暗記不要じゃねーか!」

カンニングどころか、参考書持ち込みOKくらいの勢いだ。勉強の必要など全くないのではないか。

『最終的には無陣を極めてもらいたいんだよー私は。衣服に仕込める魔法陣には限界があるし』

「無陣……?」

『放出した魔力の形は自在に変えられるでしょ? それで直接魔法陣を作って魔法を使うの。その場で使う魔法を決められるし、咄嗟に取れる行動も増える……まぁ、出来る人は一人も見たことないけど』

「…………それ、ホントにやれるのか」

魔力というのは意外と頑固な代物で、流れに沿って変形していかないと言うことを聞かない。
複雑なものになればなるほど難しくなり、しかもそれが少しの造形のミスの許されない魔法陣となれば──。

『だから出来る人一人も見たことないって言ってるでしょ。そもそも誰もやろうとしないし、だからこそできた時のアドバンテージは凄まじいんだよ』

「はぁ……それで今は、魔法陣の構築を覚えろ、ってか……」

『そゆこと!』

筋の通った理由を突きつけられたテルは机に向き直った。

「今のはメラゾーマではない……メラだ……ふふ……」

異世界ならではの魔法無双に憧れる、再点火した男子心が彼の動力になっていた。



■ ■ ■

『えーっと、四十層のゲートモンスターだから……貢献値は1370だね。でも他のパーティが先行してるし、もうすぐ倒されちゃうよアレ』

「任せろ、横から入って一撃で仕留めてやる」

昼間の時間帯は魔物の取り合いが特に激しい。
ギルドからは禁止されているが、冒険者同士の決闘なんてものまで。
とはいえそんなイザコザはレアで、大抵はそれなりに名の通っている者が占領。
平凡な者はビビって何も言えないという、厳しい上下関係が構築されている。

そんな中でぽっと出のテルが貢献値を勝ち取るには、一撃必殺の横入りが必須だった。

「ちょっと失礼、いただきまーーっす!!」

「な、オイ!?」

コートに仕込んだ魔法陣のひとつ、【韋駄天陣ミーティア】を起動し、音速……ほどでは無いが。
凡人には見えないくらいの速度でゲートモンスターの目の前へと体を踊らせる。

そして、ゲートモンスターがこちらに視線を移す、その瞬間に二つ目、そして三つ目の魔法陣を同時に起動。

火属性魔法陣フレイム】【冥属性魔法陣ダクネス】───。

『属性魔法陣は同時に使うことで融合、性質を併せ持つ第二段階に移行するの』とはシエラの談。
三種の魔法陣の同時起動自体が相応の難易度を誇るのだが、そこはテルだ。
圧倒的な魔力量という力技でカバーしている。

ようやく少しは異世界チートらしくなってきたかな、とテルは思いつつ。

「【禍炎刃ヘル・ラーヴァ】ッ!!」

一日かけて悩んだ末に導き出された、最もカッコイイ魔法名を叫んだ。

「ゲホッ……ゲホッ……な、なんだ、誰だお前は!? 何が起こった!!」

「あぁごめん、君らがちんたらやってたから取っちゃった。まぁ競走だから恨みっこなしってことで頼むよ」

片手で謝罪するポーズを取るものの、そんな気は一切ない。
むしろ煽るようなテルの口調だったが、年端のいかない少女がゲートモンスターを一撃で倒してしまった事実に、その場に居合わせた八名全員が萎縮した。

「そんじゃな! お互い英級目指して頑張ろう!!」

『……奪ったやつの言うセリフじゃないよね』

細かいことを気にすんな、と笑うテルにシエラはひとつの杞憂を捨てる。

優しすぎる面のあるテルのことだから、自分が上がるために人を踏み台にしてしまう、そのジレンマに悩むのではないかと思っていたのだ。

だが実際はそんなことはなかった。ちゃんと割り切って考えることが出来ている。
もしくは、何も考えていないのか。

───そして、テルが下の層へと降りていった後。
その場に残された者の一人が、こう呟いた。

「……まるで嵐だ」

台風の過ぎ去ったあとのように、辺りを静寂が包む。
それほどに、少女の一撃のインパクトというのは拭いがたいものだった。

テル──シエラが【嵐】の異名を世に知らしめるのはまだまだ先の話だが。

確かに風は、吹き始めていた。
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