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第一章──冒険者登録が無双の門出
無双して当然の転生者様
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「…………あんなちっこい子供がよ、飯で泣いちゃいけねえだろう……」
ダゴマは憤りを隠せなかった。
他の者も、それは同じだった。
「生活魔法でも驚いてたアル。……街中じゃいくらでも見られるはずアルよ」
それはつまり、シエラがまともな境遇で育って来ていないことを意味していた。
息を呑むほど整った容貌に、輝く金の髪。
宝石のごとく爛々と輝くサファイアの瞳は、どう考えても貴族の娘だ。
過去に、何かがあったに違いなかった。
そして。
そんな彼女が今までどうやって食べてきたのか──決まっている。
ダゴマは怒りを抑えきれず、机に拳を打ち付けた。
どんなに怒っても、どんなに悔やんでも過去は変えられない。
せめてこれからはあの子の笑顔が消えないようにと、願うしかなかった。
■ ■ ■
「うぉおおおファイアーーーッ!!」
ガスバーナーくらいの粗末な火が魔物に襲い掛かり、そして───鼻息で、蹴散らされる。
「………………」
『だっさ』
「し、シエラっち、まだまだ次があるアル、めげずに頑張るアルよ」
無念にもOTZのポーズを取るテルには、ムルのフォローは逆効果だった。
異世界に来てから二週間目だというのに未だにこれだ。
一生まともに魔法が扱える気がしない。
『だからさ、無理やり魔力を押し出したらダメなんだって。何度説明したら分かるかなーー? 流れるままに任せるの、じゃないと威力が殺されちゃう』
「(わぁってるよ……その感覚が掴めねぇから困ってんだよ……)」
流れるまま、流れるまま……と念じながら手をグーパーグーパーさせて歩いていると、急に肩の辺りに衝撃が走って勢いのまますっ転んだ。
「っどわ!? い、いったぁ……っ」
「チンタラ歩いてんじゃねえよクソガキ、てめぇみたいな雑魚が来るとこじゃねえだろうが」
「おいその言い方はないだろう」
迷宮では当然、別のパーティに遭遇することもある。
とはいえ──こんなギスギスした雰囲気ははじめてだった。
ネトゲでの経験からするに、こういう時はサッと謝って立ち去るのが最善だ。
そう判断したテルは言い返すダゴマを制止する。
「い、いえ、俺が悪いんですし……すみません」
「分かりゃいいんだよ。チッ……ちょっと見た目がいいからって乞食しやがって、ムカつくぜ」
後半の言葉が、テルを穿った。
図星、だったから。
テルがずっと心の隅で気にしていたことだ。
シエラのためにと、気にしないようにしていたことだ。
だが──今、現にシエラの評価に繋がってしまった。
自分が無能なせいで、シエラが貶められた。
自分が小説の転生者のごとく無双出来れば、そもそもこんなことは無かった。
自分がシエラのためにと何かをしたところで、それはシエラのためにならないのか。
「……アイツは誰にだってあーいう態度のやつなんだ。結構名の通った嫌われ者だからよ、気にするこたねーぞ」
「……あぁ」
ダゴマの優しい言葉も、今ばかりは耳に入らない。
はやく、はやく役に立てるようにならなくては。
はやく、はやく強く、魔法を扱えるようにならなくては……!!
そうじゃないと、シエラが。シエラが生き辛くなってしまう。
焦燥がどんどんテルを蝕んでいった。
次から次へ来る魔物たちに、魔法をしかけては失敗、しかけては失敗の繰り返しだ。
その尻拭いは当然、ダゴマ達がする。
……足でまといでしかなかった。
「……クソ、なんで、なんで上手くいかねぇんだ!!」
いくらやっても、どれだけやってもまともな魔法が使えない。
『テル……』
「シエラちゃん、焦るな、焦んなよ。アイツはあんな風に言ったがよ、別に俺たちぁ……」
「いやだ」
「シエラっち……」
「嫌なんだよ……っ!! もう、他人のスネ平気で齧って、のうのうと生きるなんて真っ平なんだよ!! なんでだ、なんで俺はこんなにどうしようもねえんだ……」
こうやって態度に出るのも良くない。
こうすることで更にダゴマ達に気を遣わせてしまう。
自制することが出来ない、物理的にも精神的にも弱い自分に反吐が出る。
そして拳を壁に叩きつけようとしたその、瞬間だった。
「うお、眩し……っ!?」
「む」
テル達がいる第十二層全体を転移光が包み───。
第五十七層へと誘った。
「……なんだ!? 何が起きた!?」
「違ぇ……違ぇぞ、俺のせいじゃ、俺のせいじゃねぇ!!!」
困惑するテル達の目の前で叫んだのは、先程の男だった。
「てめぇ……トラップを踏みやがったのか!!」
「違ぇっつってんだろ!! 踏んだのは俺のパーティの馬鹿だ!! クソ、ノルマのためとはいえあんな奴と組むんじゃなかった、クソ……!!」
「ゴマ野郎……責めてる暇はないみたいアルよ」
冷や汗を垂らして苦笑するムルの指さす方には──数十匹もの魔物。
「よりによってモンスターハウスか……!!」
『そんな!? テ、テル、まずいよ……モンスターハウスは……!!』
「……やるしか。ない」
「みんな固まってお互いの背を守るアル! なるべく力を使わないように、効率よく倒すアルよ!!」
足が動かない。死ぬ、死ぬかもしれない。
震えて、思考が凍結して、一ミリも動くことが出来ない。
「あ、あ」
レンリィが撃つのを、ダゴマがなぎ倒すのを、ムルが斬り捨てるのを、テルは見ているしかない。
隣で腰を抜かしている男が、いやに自分そっくりに見えた。
「な、んで、動かないんだ……っ!! 動けよ、俺、動けよ……っ!!」
命が惜しい。死にたくない。
それなら戦え、戦って勝てばいいだろう!?
何故負けて死ぬことを恐れて、死を先延ばしにする。
そんなのは現実逃避だ。
それでは何も、何も転生前の自分と変わっていやしないじゃないか!?
そうやって自分にムチを打っても。
テルは、一歩も動けない。
「ぁ゛……?」
その刹那、後ろから蛇のような魔物に首筋に噛みつかれ───その時に、なって。
ようやく、抗うための力を振り絞ることが叶った。
「うぁあ゛ぁ゛がぁ゛っ!?」
『────ッ!! ぁ゛ぁ゛あ゛!?』
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い血が血が、血が、血が───ッ!!
「シエラっち!!!」
「ウソだろっ!!? クソ、こいつらいつの間にこんなに……っ!! 近づけねぇぞ!!」
いつの間にか蛇の群れは後ろにいたテル達二人を取り囲んでいて、ダゴマ達はまるで近づけない。
──皮肉なものだ。死ぬことを恐れて動けなかった自分が、死ぬ間際になってようやく抗う。
──現実を突きつけられた。
当たり前に生きることの尊さを、あんなに実感することが出来たのに……!!
テルは、テルの力ではこの世界を生き抜くことは出来ない。
きっかけを作ってくれたシエラさえも道連れにして、あぁ──なんと、なんと情けない。
痛みは熱く、とんでもない量の血が次々に溢れ出ていく。
──そしてマグマのように熱い首筋から、全身に何かが浸透していった。
毒──だろうか?
ともかくそれが、テルの全身にゆっくり、ゆっくりと流れて───。
「(なが、れ……?)」
この流れは、どこを通っている──?
明らかに、血ではない。
もっと、奥、奥深く──これは───。
……これ、は。
刹那。
テルの首筋に噛み付いていた大蛇が、むせるような絶叫をあげてのたうち回った。
「はァ…………はァ…………っ、痛ぇ、クソ……ッ!!」
だが、動ける。もう動ける。
流れが分かる。体の、もっと深くを流れる──魔力の流れが!!
ただその魔力を、流れるままに憎き大蛇へとぶつけ──!!!
「思い知ったか、畜生……ッ!! 俺は、無双して当然の転生者様だぞ──ッ!!」
啖呵を切ってそのまま、意識を飛ばした。
ダゴマは憤りを隠せなかった。
他の者も、それは同じだった。
「生活魔法でも驚いてたアル。……街中じゃいくらでも見られるはずアルよ」
それはつまり、シエラがまともな境遇で育って来ていないことを意味していた。
息を呑むほど整った容貌に、輝く金の髪。
宝石のごとく爛々と輝くサファイアの瞳は、どう考えても貴族の娘だ。
過去に、何かがあったに違いなかった。
そして。
そんな彼女が今までどうやって食べてきたのか──決まっている。
ダゴマは怒りを抑えきれず、机に拳を打ち付けた。
どんなに怒っても、どんなに悔やんでも過去は変えられない。
せめてこれからはあの子の笑顔が消えないようにと、願うしかなかった。
■ ■ ■
「うぉおおおファイアーーーッ!!」
ガスバーナーくらいの粗末な火が魔物に襲い掛かり、そして───鼻息で、蹴散らされる。
「………………」
『だっさ』
「し、シエラっち、まだまだ次があるアル、めげずに頑張るアルよ」
無念にもOTZのポーズを取るテルには、ムルのフォローは逆効果だった。
異世界に来てから二週間目だというのに未だにこれだ。
一生まともに魔法が扱える気がしない。
『だからさ、無理やり魔力を押し出したらダメなんだって。何度説明したら分かるかなーー? 流れるままに任せるの、じゃないと威力が殺されちゃう』
「(わぁってるよ……その感覚が掴めねぇから困ってんだよ……)」
流れるまま、流れるまま……と念じながら手をグーパーグーパーさせて歩いていると、急に肩の辺りに衝撃が走って勢いのまますっ転んだ。
「っどわ!? い、いったぁ……っ」
「チンタラ歩いてんじゃねえよクソガキ、てめぇみたいな雑魚が来るとこじゃねえだろうが」
「おいその言い方はないだろう」
迷宮では当然、別のパーティに遭遇することもある。
とはいえ──こんなギスギスした雰囲気ははじめてだった。
ネトゲでの経験からするに、こういう時はサッと謝って立ち去るのが最善だ。
そう判断したテルは言い返すダゴマを制止する。
「い、いえ、俺が悪いんですし……すみません」
「分かりゃいいんだよ。チッ……ちょっと見た目がいいからって乞食しやがって、ムカつくぜ」
後半の言葉が、テルを穿った。
図星、だったから。
テルがずっと心の隅で気にしていたことだ。
シエラのためにと、気にしないようにしていたことだ。
だが──今、現にシエラの評価に繋がってしまった。
自分が無能なせいで、シエラが貶められた。
自分が小説の転生者のごとく無双出来れば、そもそもこんなことは無かった。
自分がシエラのためにと何かをしたところで、それはシエラのためにならないのか。
「……アイツは誰にだってあーいう態度のやつなんだ。結構名の通った嫌われ者だからよ、気にするこたねーぞ」
「……あぁ」
ダゴマの優しい言葉も、今ばかりは耳に入らない。
はやく、はやく役に立てるようにならなくては。
はやく、はやく強く、魔法を扱えるようにならなくては……!!
そうじゃないと、シエラが。シエラが生き辛くなってしまう。
焦燥がどんどんテルを蝕んでいった。
次から次へ来る魔物たちに、魔法をしかけては失敗、しかけては失敗の繰り返しだ。
その尻拭いは当然、ダゴマ達がする。
……足でまといでしかなかった。
「……クソ、なんで、なんで上手くいかねぇんだ!!」
いくらやっても、どれだけやってもまともな魔法が使えない。
『テル……』
「シエラちゃん、焦るな、焦んなよ。アイツはあんな風に言ったがよ、別に俺たちぁ……」
「いやだ」
「シエラっち……」
「嫌なんだよ……っ!! もう、他人のスネ平気で齧って、のうのうと生きるなんて真っ平なんだよ!! なんでだ、なんで俺はこんなにどうしようもねえんだ……」
こうやって態度に出るのも良くない。
こうすることで更にダゴマ達に気を遣わせてしまう。
自制することが出来ない、物理的にも精神的にも弱い自分に反吐が出る。
そして拳を壁に叩きつけようとしたその、瞬間だった。
「うお、眩し……っ!?」
「む」
テル達がいる第十二層全体を転移光が包み───。
第五十七層へと誘った。
「……なんだ!? 何が起きた!?」
「違ぇ……違ぇぞ、俺のせいじゃ、俺のせいじゃねぇ!!!」
困惑するテル達の目の前で叫んだのは、先程の男だった。
「てめぇ……トラップを踏みやがったのか!!」
「違ぇっつってんだろ!! 踏んだのは俺のパーティの馬鹿だ!! クソ、ノルマのためとはいえあんな奴と組むんじゃなかった、クソ……!!」
「ゴマ野郎……責めてる暇はないみたいアルよ」
冷や汗を垂らして苦笑するムルの指さす方には──数十匹もの魔物。
「よりによってモンスターハウスか……!!」
『そんな!? テ、テル、まずいよ……モンスターハウスは……!!』
「……やるしか。ない」
「みんな固まってお互いの背を守るアル! なるべく力を使わないように、効率よく倒すアルよ!!」
足が動かない。死ぬ、死ぬかもしれない。
震えて、思考が凍結して、一ミリも動くことが出来ない。
「あ、あ」
レンリィが撃つのを、ダゴマがなぎ倒すのを、ムルが斬り捨てるのを、テルは見ているしかない。
隣で腰を抜かしている男が、いやに自分そっくりに見えた。
「な、んで、動かないんだ……っ!! 動けよ、俺、動けよ……っ!!」
命が惜しい。死にたくない。
それなら戦え、戦って勝てばいいだろう!?
何故負けて死ぬことを恐れて、死を先延ばしにする。
そんなのは現実逃避だ。
それでは何も、何も転生前の自分と変わっていやしないじゃないか!?
そうやって自分にムチを打っても。
テルは、一歩も動けない。
「ぁ゛……?」
その刹那、後ろから蛇のような魔物に首筋に噛みつかれ───その時に、なって。
ようやく、抗うための力を振り絞ることが叶った。
「うぁあ゛ぁ゛がぁ゛っ!?」
『────ッ!! ぁ゛ぁ゛あ゛!?』
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い血が血が、血が、血が───ッ!!
「シエラっち!!!」
「ウソだろっ!!? クソ、こいつらいつの間にこんなに……っ!! 近づけねぇぞ!!」
いつの間にか蛇の群れは後ろにいたテル達二人を取り囲んでいて、ダゴマ達はまるで近づけない。
──皮肉なものだ。死ぬことを恐れて動けなかった自分が、死ぬ間際になってようやく抗う。
──現実を突きつけられた。
当たり前に生きることの尊さを、あんなに実感することが出来たのに……!!
テルは、テルの力ではこの世界を生き抜くことは出来ない。
きっかけを作ってくれたシエラさえも道連れにして、あぁ──なんと、なんと情けない。
痛みは熱く、とんでもない量の血が次々に溢れ出ていく。
──そしてマグマのように熱い首筋から、全身に何かが浸透していった。
毒──だろうか?
ともかくそれが、テルの全身にゆっくり、ゆっくりと流れて───。
「(なが、れ……?)」
この流れは、どこを通っている──?
明らかに、血ではない。
もっと、奥、奥深く──これは───。
……これ、は。
刹那。
テルの首筋に噛み付いていた大蛇が、むせるような絶叫をあげてのたうち回った。
「はァ…………はァ…………っ、痛ぇ、クソ……ッ!!」
だが、動ける。もう動ける。
流れが分かる。体の、もっと深くを流れる──魔力の流れが!!
ただその魔力を、流れるままに憎き大蛇へとぶつけ──!!!
「思い知ったか、畜生……ッ!! 俺は、無双して当然の転生者様だぞ──ッ!!」
啖呵を切ってそのまま、意識を飛ばした。
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