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第一章──冒険者登録が無双の門出
他の誰でもない自分のために
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『とりあえず冒険者登録しよっか』
「転生っぽいのキタァァァァア!!! って、待て待て。嬉しいけどそもそも、何で?」
もっと別にやらなきゃいけないことがあるのではないかと、厨二男子の思考を打ち払って冷静に返す。奇妙に慎重な生き物であった。
『お金ないの。少しでも魔法が使えるなら登録くらいはできるからさっさとしちゃおう』
お金が無い。なるほど、最悪だ!!
今日の宿代すらないと。なるほど、終わりだ!!
うんしよう、是非しよう冒険者登録ッ!!
「……今までなんでしてなかったのか、一応聞いても?」
『無能だから。魔法使えるようになったらしたいことランキング堂々の三位だよ』
「お、おう……そりゃよかったな……」
理にはかなっているし、それが最善ではあるものの。
割とシエラの私情的にも最優先事項のようだった。
■ ■ ■
「もっとこう……ないのか、ステータスとか、こう……なんて凄い資質なんだ! 君は最初っからS級! みたいな……」
『訳分からんぽっと出の馬の骨にそう易々と権利渡すわけないじゃん……てか、すてーたす? って何?』
どうやら、テルが想像しているゲームチックな異世界とはかなり異なるらしい。
あくまで現実は現実。そう突きつけられた気がしてしょぼくれる。
『ともあれこれで冒険者登録完了だね。清級だから月給は十一万ジスト……私にとっちゃ夢のような大金だよ』
「でも確か、ノルマこなさないと下の階級に落とされるんだっけか」
『そ。キャリアがない場合最初は清級で、下から順番に辱級、劣級、廉級、清級、勇級、英級、帝級。下がるのは簡単だけど上がるのは難しいよ』
「明らかに侮辱的な名前が使われてんのがいやらしいな……」
『一番下なんてむしろ冒険者解約に多額の借金を背負わされてその後は奴隷扱い……絶対になりたくないし、魔法の使えない私じゃそこに行くのがオチだからやめといたんだよ』
「なるほどな。まぁ今ならそんな心配はないわけだ」
『そうとも限らなーい、君がさっさと魔法制御できるようにならなきゃ意味がなーい』
「……あぁ、頑張るよ」
魔力制御というのをシエラから教わってはいるものの、どうにもこれが難しい。
今までなかった感覚だけに、おそるおそる一歩ずつ進んでいくしかないのだ。
「お嬢ちゃん、さっき見てたんだが……冒険者登録したのか? その年齢で」
ふとテルは辺りを見回す。
お嬢ちゃん、と呼ばれたのが自分であることに気づかなかったのだ。
「お嬢ちゃんってお嬢ちゃんしかいないだろう」
苦笑しながらそう言うのはやたらめったらデカい巨漢だ。前の輝の体だったとしても見上げる形になるだろう。
「……ん、あぁ俺? まぁ金がなくてさ」
「そりゃ、大変だな……親御さんは?」
「いない。身寄りなんてどこにもない……(よな?)」
『うん。うちは没落貴族だからね、戸籍を抹消してもらって逃げおおせた私以外は皆もう……』
「そうか、そうか……大変だなぁお嬢ちゃん……大変だなぁ……」
目頭を抑える巨漢に、テルは罪悪感を募らせた。
確かに周りから見ればテルは背伸びする少女にしか見えないが、テル自身はもう働くべきいい大人なのだから当然だ。
そのチグハグで、自分がズルをしているような気になってしまう。良心が痛む。
「そんな、大袈裟な……俺より辛い思いしてる人なんて、きっともっと、たくさんいますよ」
「んなこた関係ねェぞお嬢ちゃん。自分より辛い奴がいるからって、お前さんが辛くないわけじゃなかろうに。……! そうだ、うちのパーティに来ないか。勇級の集まりだからよ、きっと楽させてやれる」
「いや、そんな、さすがに足引っ張るし悪いですって……」
「いいや、子供には子供のやるべきことってのがあるんだよお嬢ちゃん。君はきっとそれを出来てねぇから、今ここで俺らとやるんだ」
「出来て……ないこと?」
「パーッと遊んでパーッと大声出して笑うんだよ。楽しいぜ? せっかく可愛い顔してんだからよ、眉間に皺寄せてちゃ台無しだ」
『…………』
テルとしては罪悪感しかなかった。
だが、黙りこくるシエラを見てふと気づいた。
───これは、シエラの人生だ。
巨漢の言うことは的を得ていて、シエラは実際そうするべきだった。
周りの環境が、今までそれを許さなかったのだ。
「……シエラ」
「ん?」
「お嬢ちゃん、じゃなくてシエラです。……よろしくお願いします」
そう、これはシエラの人生だった。
シエラの人生を手伝った先に、テルの人生がある、そういう関係だから。
「おうシエラちゃん。俺はダゴマだ。呼び捨てで、敬語じゃなくていいんだぞ」
「そうか? 俺は口が悪いから気をつけろよダゴマ」
「おう!! 子供はそれでいいんだ!!」
つまるところテルは、一切のテルを棚に上げてシエラを満喫しなければならないのだ。
他の誰でもない、シエラのために。
そして、他の誰でもない、テルのために──。
「転生っぽいのキタァァァァア!!! って、待て待て。嬉しいけどそもそも、何で?」
もっと別にやらなきゃいけないことがあるのではないかと、厨二男子の思考を打ち払って冷静に返す。奇妙に慎重な生き物であった。
『お金ないの。少しでも魔法が使えるなら登録くらいはできるからさっさとしちゃおう』
お金が無い。なるほど、最悪だ!!
今日の宿代すらないと。なるほど、終わりだ!!
うんしよう、是非しよう冒険者登録ッ!!
「……今までなんでしてなかったのか、一応聞いても?」
『無能だから。魔法使えるようになったらしたいことランキング堂々の三位だよ』
「お、おう……そりゃよかったな……」
理にはかなっているし、それが最善ではあるものの。
割とシエラの私情的にも最優先事項のようだった。
■ ■ ■
「もっとこう……ないのか、ステータスとか、こう……なんて凄い資質なんだ! 君は最初っからS級! みたいな……」
『訳分からんぽっと出の馬の骨にそう易々と権利渡すわけないじゃん……てか、すてーたす? って何?』
どうやら、テルが想像しているゲームチックな異世界とはかなり異なるらしい。
あくまで現実は現実。そう突きつけられた気がしてしょぼくれる。
『ともあれこれで冒険者登録完了だね。清級だから月給は十一万ジスト……私にとっちゃ夢のような大金だよ』
「でも確か、ノルマこなさないと下の階級に落とされるんだっけか」
『そ。キャリアがない場合最初は清級で、下から順番に辱級、劣級、廉級、清級、勇級、英級、帝級。下がるのは簡単だけど上がるのは難しいよ』
「明らかに侮辱的な名前が使われてんのがいやらしいな……」
『一番下なんてむしろ冒険者解約に多額の借金を背負わされてその後は奴隷扱い……絶対になりたくないし、魔法の使えない私じゃそこに行くのがオチだからやめといたんだよ』
「なるほどな。まぁ今ならそんな心配はないわけだ」
『そうとも限らなーい、君がさっさと魔法制御できるようにならなきゃ意味がなーい』
「……あぁ、頑張るよ」
魔力制御というのをシエラから教わってはいるものの、どうにもこれが難しい。
今までなかった感覚だけに、おそるおそる一歩ずつ進んでいくしかないのだ。
「お嬢ちゃん、さっき見てたんだが……冒険者登録したのか? その年齢で」
ふとテルは辺りを見回す。
お嬢ちゃん、と呼ばれたのが自分であることに気づかなかったのだ。
「お嬢ちゃんってお嬢ちゃんしかいないだろう」
苦笑しながらそう言うのはやたらめったらデカい巨漢だ。前の輝の体だったとしても見上げる形になるだろう。
「……ん、あぁ俺? まぁ金がなくてさ」
「そりゃ、大変だな……親御さんは?」
「いない。身寄りなんてどこにもない……(よな?)」
『うん。うちは没落貴族だからね、戸籍を抹消してもらって逃げおおせた私以外は皆もう……』
「そうか、そうか……大変だなぁお嬢ちゃん……大変だなぁ……」
目頭を抑える巨漢に、テルは罪悪感を募らせた。
確かに周りから見ればテルは背伸びする少女にしか見えないが、テル自身はもう働くべきいい大人なのだから当然だ。
そのチグハグで、自分がズルをしているような気になってしまう。良心が痛む。
「そんな、大袈裟な……俺より辛い思いしてる人なんて、きっともっと、たくさんいますよ」
「んなこた関係ねェぞお嬢ちゃん。自分より辛い奴がいるからって、お前さんが辛くないわけじゃなかろうに。……! そうだ、うちのパーティに来ないか。勇級の集まりだからよ、きっと楽させてやれる」
「いや、そんな、さすがに足引っ張るし悪いですって……」
「いいや、子供には子供のやるべきことってのがあるんだよお嬢ちゃん。君はきっとそれを出来てねぇから、今ここで俺らとやるんだ」
「出来て……ないこと?」
「パーッと遊んでパーッと大声出して笑うんだよ。楽しいぜ? せっかく可愛い顔してんだからよ、眉間に皺寄せてちゃ台無しだ」
『…………』
テルとしては罪悪感しかなかった。
だが、黙りこくるシエラを見てふと気づいた。
───これは、シエラの人生だ。
巨漢の言うことは的を得ていて、シエラは実際そうするべきだった。
周りの環境が、今までそれを許さなかったのだ。
「……シエラ」
「ん?」
「お嬢ちゃん、じゃなくてシエラです。……よろしくお願いします」
そう、これはシエラの人生だった。
シエラの人生を手伝った先に、テルの人生がある、そういう関係だから。
「おうシエラちゃん。俺はダゴマだ。呼び捨てで、敬語じゃなくていいんだぞ」
「そうか? 俺は口が悪いから気をつけろよダゴマ」
「おう!! 子供はそれでいいんだ!!」
つまるところテルは、一切のテルを棚に上げてシエラを満喫しなければならないのだ。
他の誰でもない、シエラのために。
そして、他の誰でもない、テルのために──。
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