したたる愛欲 完全版

15

美加子は志貴が部屋に現れ身を固くした。
何をされるのかと恐ろしいのだ。
志貴によって身体と心に刻まれた傷は恐怖でしかない。
この男がいる以上自由になれないと美加子は本能的に思った。

「良いか！この女は、俺が飽きるまで抱く女だ！お前が自由にできる女じゃねぇんだ！この家の当主はもう俺だ！俺がこの家の家長なんだよ！」

麻里矢は兄が怖くて何も言い返せない。
だが、麻里矢もずっと美加子を遠くで見続けていた。
そしていつしか本気で愛していた。
父と兄に蹂躙され、母に虐げられながら生きていた美加子が愛おしくて仕方がない。
志貴が奪い返そうと美加子に手を伸ばすと、麻里矢は咄嗟に美加子を背に隠した。美加子も震えながら麻里矢の背にしがみつく。

「大丈夫だ。安心して」

麻里矢が美加子に振り向きそう言うと、美加子の唇が動いた。


“コロシテ”


美加子を見ると、美加子の口がそう言っているように麻里矢は思い目を見開いた。

「麻里矢！いい加減にしろ！その女を返せ！」

怒鳴る志貴を見ても麻里矢はもう怖くなかった。美加子の存在が麻里矢を奮い立たせた。
美加子の為に、美加子が望むならと、麻里矢は志貴を殺す決意ができた。
志貴を殺さなければ、美加子は飽きて捨てられるまで兄の性奴隷にされ続ける。
麻里矢はそう思うと、美加子を抱き上げ走った。もちろん志貴も追ってくる。
本宅の客間に逃げ込み、追って来た志貴は麻里矢を見て驚く。
麻里矢が床の間に飾られている真剣を手に持って、鞘から刀を引き抜き志貴を睨む。
普段大人しい麻里矢が目の色を変え、直ぐ様志貴に襲い掛かろうとしていた。

「何をする気だ！」

身の危険を感じ取った志貴は、尋常じゃない麻里矢を見て怯える。

「麻里矢！やめろ！お前、何を考えてるんだ！やめろ！」

麻里矢の目は冷静に志貴を見つめ刀を構える。

「待て！分かった！分かったから、落ち着け！」

真っ青になって怯え吠える志貴の首目掛けて、麻里矢は刃を一振りすると、志貴の首からは鮮血が飛び散った。
美加子がいれば何も怖くないと麻里矢は思った。
美加子のためなら、この手を汚したとしても厭わない。

「綾。君のことは僕が守る。愛している」

返り血を浴びた麻里矢はそう呟くと、血塗られた刀を捨て美加子を見つめる。
目の焦点の合っていない美加子を、麻里矢は腕を伸ばして優しく抱きしめた。