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神下の家に囲われて数年が過ぎた。
美加子の髪は、精神的苦痛から真っ白になっていた。
それでもなお、美しさに翳りは訪れず、美加子の美貌が色褪せることはなかった。
この家に来てから、笑ったことなど一度もない。
ただ無表情にぼんやりと目を開いているだけだった。
生気などない。自分の意思などなく、ただ生かされているだけ。
もう魂の抜けた人形のようであった。
「親父の葬儀が終わったよ」
そう告げたのは、神下の次男、麻里矢だった。
美加子を苦しめ続けた第二の男は、脳卒中で呆気なくこの世を去った。
告別式が終わると直ぐに、麻里矢は喪服姿のままで美加子の元に訪れた。
美加子はジッと、ただ麻里矢を見つめるだけだった。
ほとんど美加子に会ったこともない麻里矢に対しては、警戒心だけが芽生えていた。
麻里矢は美加子をじっくりと見つめ、美加子の美しさに改めて心を奪われた。手を美加子に伸ばすが美加子は震えて怯える。麻里矢はため息をつき手を引っ込めた。
父と兄に肉体的、精神的苦痛を受け、母からは虐待を受け続けた美加子が愛おしくて仕方ない。だが、この家で1番弱い立場の自分が美加子を救えることができないのも分かっていた。
ただ、権力者の父が亡くなり、年老いた母も父を失ったことにより美加子に対して興味を無くしていた。そして兄も結婚してからは、妻の手前、あまりこの離れには訪れてはいなかった。
そんな状況から、美加子を助けるなら今しかないと麻里矢は思った。
「知り合いの弁護士に頼んで、あんたがこの家に来てからと言うもの、あんたの素性を全て調べてもらっていた。あんた、本当は美加子と言う名前じゃなかったんだな」
美加子は、麻里矢が何を言っているか分からない。
ただ、ボーッと麻里矢を見つめるだけだった。
「あんたの本当の名は綾。あんたは25歳の時、ある男に車で轢かれ瀕死の重体に陥った。ある男とは河合。あんたの自称夫だった男だ」
美加子は、麻里矢の言うことが一切理解できなかった。
何を淡々と語っているのかと麻里矢を見つめる。
「あんたを轢いた河合はあんたを病院に運び、あんたが記憶を無くしたことをいい事に、自分の妻だと刷り込みあんたを家に軟禁した」
河合の名前と話を聞き続け、美加子は次第に身体が震える。
もう河合の顔すら覚えてはいないが、自分が受けた凌辱は美加子の意思とは違う場所で頭の中にこびりついていた。
麻里矢は優しく美加子に微笑んだ。美加子が怯える姿をもう見たくなかった。
そんな麻里矢に、美加子は安心したのか、警戒心を無くしニコニコと微笑む。
自分に危害を加えないと安心しきっている顔だった。
麻里矢は美加子が、自分に対して警戒心を解いたことで話を続ける。
「そしてその河合を殺したのは、あんたの弟、小鳩克夫だった」
美加子の髪は、精神的苦痛から真っ白になっていた。
それでもなお、美しさに翳りは訪れず、美加子の美貌が色褪せることはなかった。
この家に来てから、笑ったことなど一度もない。
ただ無表情にぼんやりと目を開いているだけだった。
生気などない。自分の意思などなく、ただ生かされているだけ。
もう魂の抜けた人形のようであった。
「親父の葬儀が終わったよ」
そう告げたのは、神下の次男、麻里矢だった。
美加子を苦しめ続けた第二の男は、脳卒中で呆気なくこの世を去った。
告別式が終わると直ぐに、麻里矢は喪服姿のままで美加子の元に訪れた。
美加子はジッと、ただ麻里矢を見つめるだけだった。
ほとんど美加子に会ったこともない麻里矢に対しては、警戒心だけが芽生えていた。
麻里矢は美加子をじっくりと見つめ、美加子の美しさに改めて心を奪われた。手を美加子に伸ばすが美加子は震えて怯える。麻里矢はため息をつき手を引っ込めた。
父と兄に肉体的、精神的苦痛を受け、母からは虐待を受け続けた美加子が愛おしくて仕方ない。だが、この家で1番弱い立場の自分が美加子を救えることができないのも分かっていた。
ただ、権力者の父が亡くなり、年老いた母も父を失ったことにより美加子に対して興味を無くしていた。そして兄も結婚してからは、妻の手前、あまりこの離れには訪れてはいなかった。
そんな状況から、美加子を助けるなら今しかないと麻里矢は思った。
「知り合いの弁護士に頼んで、あんたがこの家に来てからと言うもの、あんたの素性を全て調べてもらっていた。あんた、本当は美加子と言う名前じゃなかったんだな」
美加子は、麻里矢が何を言っているか分からない。
ただ、ボーッと麻里矢を見つめるだけだった。
「あんたの本当の名は綾。あんたは25歳の時、ある男に車で轢かれ瀕死の重体に陥った。ある男とは河合。あんたの自称夫だった男だ」
美加子は、麻里矢の言うことが一切理解できなかった。
何を淡々と語っているのかと麻里矢を見つめる。
「あんたを轢いた河合はあんたを病院に運び、あんたが記憶を無くしたことをいい事に、自分の妻だと刷り込みあんたを家に軟禁した」
河合の名前と話を聞き続け、美加子は次第に身体が震える。
もう河合の顔すら覚えてはいないが、自分が受けた凌辱は美加子の意思とは違う場所で頭の中にこびりついていた。
麻里矢は優しく美加子に微笑んだ。美加子が怯える姿をもう見たくなかった。
そんな麻里矢に、美加子は安心したのか、警戒心を無くしニコニコと微笑む。
自分に危害を加えないと安心しきっている顔だった。
麻里矢は美加子が、自分に対して警戒心を解いたことで話を続ける。
「そしてその河合を殺したのは、あんたの弟、小鳩克夫だった」
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