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●愛したのが始まり●
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健が、自身が水島弥之の息子ではないと知ったのは、メンデルの法則を授業で知った時だった。
弥之はB型。母の雛絵はA型。健はO型。静真はAB型。A型とB型の両親から、O型の自分とAB型の静真が産まれても不思議はない。
だが小学校に入学した健の児童調査票に、雛絵が血液型を記入していた時に弥之が言った何気ない言葉を、健はその時に一気に思い出した。
「家族全員血液型がバラバラになったなー。なんか面白いよね。俺の両親は2人ともAB型だったんだよね。雛絵のご両親はA型とO型だったけ」
父方の祖父母はAB型だった。つまり、Bb型の弥之とO型の健を産んだA型の雛絵の間に、健は産まれるはずがないのだ。
「……まだ6歳の俺が、そんな父親の言葉を覚えていられた賢さ」
わざと自虐的に健は笑うが大知は笑えなかった。
「俺が出生を知る前に、両親はもう死んでいた。真実は闇に葬られた。それから俺にとっては、メンデルの法則は忌諱になった」
2杯目のバーボンの丸氷を指で撫でながら健は静かに語る。
「今の時代、DNAで親子鑑定をする時代だぜ。それが、そんな原始的な理論で知ることになるとはな」
もっと複雑だったならと黙っている大知は思った。
そうすれば、親友の苦悩を知ることはなかったのだ。
ただ、もう弥之が亡くなっているのでDNA鑑定すら出来ない。
「見方を変えれば、これも運命なんだろう。俺は21年前に亡くなった母の記憶も少ない。母親を知る機会を、母自らが与えてくれたのかもしれない」
大知は黙って聞くしかなかった。
健の考えに、否定も肯定もできない。
「1番知りたいことは、母が父の子供だと思って俺を産んだのか、それとも父は自分の子供ではないと分かっていて母に俺を産ませてくれたのか……」
優しかった父、弥之。
もちろん、雛絵同様、弥之との記憶も少ない。
しかし、受けた愛情を疑ったことは1度もない。
「……希望的観測だが、水島さんは、自分の子供じゃないと分かっていて受け入れたんだと俺は思いたい」
やっと口を開いた大知はジッと健を見つめる。
「はは。同意。俺も本当はそうだと願ってる」
1番知りたいことと口述した以外の選択肢、母が父を騙して、自分を産んだと思いたくなかった。
「27年前の個人情報を探るのは流石に大変だな。とりあえず、お前から預かってる戸籍からしらみ潰しに当たるよ」
頼もしい親友のグラスに、健がグラスを傾け重ねると小気味いい音が響く。
「愛してるぜ、相棒」
「バーカ。きしょいわ」
大知は鼻で笑った。
弥之はB型。母の雛絵はA型。健はO型。静真はAB型。A型とB型の両親から、O型の自分とAB型の静真が産まれても不思議はない。
だが小学校に入学した健の児童調査票に、雛絵が血液型を記入していた時に弥之が言った何気ない言葉を、健はその時に一気に思い出した。
「家族全員血液型がバラバラになったなー。なんか面白いよね。俺の両親は2人ともAB型だったんだよね。雛絵のご両親はA型とO型だったけ」
父方の祖父母はAB型だった。つまり、Bb型の弥之とO型の健を産んだA型の雛絵の間に、健は産まれるはずがないのだ。
「……まだ6歳の俺が、そんな父親の言葉を覚えていられた賢さ」
わざと自虐的に健は笑うが大知は笑えなかった。
「俺が出生を知る前に、両親はもう死んでいた。真実は闇に葬られた。それから俺にとっては、メンデルの法則は忌諱になった」
2杯目のバーボンの丸氷を指で撫でながら健は静かに語る。
「今の時代、DNAで親子鑑定をする時代だぜ。それが、そんな原始的な理論で知ることになるとはな」
もっと複雑だったならと黙っている大知は思った。
そうすれば、親友の苦悩を知ることはなかったのだ。
ただ、もう弥之が亡くなっているのでDNA鑑定すら出来ない。
「見方を変えれば、これも運命なんだろう。俺は21年前に亡くなった母の記憶も少ない。母親を知る機会を、母自らが与えてくれたのかもしれない」
大知は黙って聞くしかなかった。
健の考えに、否定も肯定もできない。
「1番知りたいことは、母が父の子供だと思って俺を産んだのか、それとも父は自分の子供ではないと分かっていて母に俺を産ませてくれたのか……」
優しかった父、弥之。
もちろん、雛絵同様、弥之との記憶も少ない。
しかし、受けた愛情を疑ったことは1度もない。
「……希望的観測だが、水島さんは、自分の子供じゃないと分かっていて受け入れたんだと俺は思いたい」
やっと口を開いた大知はジッと健を見つめる。
「はは。同意。俺も本当はそうだと願ってる」
1番知りたいことと口述した以外の選択肢、母が父を騙して、自分を産んだと思いたくなかった。
「27年前の個人情報を探るのは流石に大変だな。とりあえず、お前から預かってる戸籍からしらみ潰しに当たるよ」
頼もしい親友のグラスに、健がグラスを傾け重ねると小気味いい音が響く。
「愛してるぜ、相棒」
「バーカ。きしょいわ」
大知は鼻で笑った。
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