インシデント～楜沢健の非日常〜

●愛したのが始まり●

5-1

静真は祥子を連れて山梨の実家に戻った。
年末年始は帰るとは聞いていたがそれよりも早く、しかも結婚したい相手を連れて帰ると突然電話で言われ、祥子を紹介された弘と裕子は嬉しいものの複雑な心境だった。
静真が結婚すると言う事は、静真がもし今住む東京で新たに戸籍を作るのならば、現在の戸籍謄本を取得する事で自分達の実の子供ではないと分かってしまう。
いつかは真実を話さなければと覚悟はしていたが、とうとう、本当のことを告白しなくてはならない日が来てしまったのだった。

「まさか、こんなに早くお前が結婚する人を連れてくるとは思わなかったよ」

寂しそうな弘の笑顔に、静真はどうしたのかと不安になる。

「……祥子さんを連れてくる前に話したかったんだけどね」

思い詰めている裕子の顔に、静真は更に不安になって来た。
反対される雰囲気ではないが、何をそんなに2人は思い詰めているのかと静真は考える。

「でも、結婚を考えている程の相手の祥子さんにも、ちゃんと知ってもらった方がお互いのためだろう」

裕子に言い聞かせるように弘は言うと、静真の目を真正面から見た。

「静真に伝えないといけない事があるんだ。お前は、俺達の本当の子供じゃない」

弘は決心が鈍らないうちに一気に告白した。

「……え？」

弘の衝撃的な告白に静真は目を見開く。
裕子は辛い気持ちで俯いた。
静真の隣で聞いていた祥子も驚いた。

「……お前に、見てもらいたいものがある」

弘は静かに立ち上がると奥の和室に向かい、本棚の引き出しから二通の戸籍謄本を持って静真の前に戻った。
それは、静真が石浜夫妻の子供になった時の戸籍謄本と、本当の両親である、水島弥之と雛絵の子供だった時の戸籍謄本だった。
石浜の戸籍の静真の名前の所には、民法817条の2（特別養子縁組の成立）と記されていた。

「お前は俺達の養子なんだ」

弘は膝に乗せている握り拳を更に強く握る。
静真は目を見開いたまま、この状況を受け入れられない。

「う、うそ……だろ？」

「……嘘じゃないんだ。お前の本当の両親が死んで、お前は2歳で施設に預けられた。その後俺達の息子になったんだよ」

信じられないと、静真は2つの戸籍を交互に見る。
水島家の戸籍を見た静真はあることに気がついた。