インシデント～楜沢健の非日常〜

●シェア●

3-10

朱鷺子に対しては日常的に行われていた肉体的虐待が、麗花に対しては性的虐待だとしたら。
そして、その時別の人格が生み出されていたら。
禄郎から逃げた朱鷺子の行動や、麗花が解離性同一性障害ならば、禄郎が麗花に性的虐待を行っていた可能性はゼロではない。

「もし別人格を生み出していたとして、本人が性的虐待を受けていた記憶は残ってはいないのですか？」

麗花を見る限り、とても性的虐待で苦しんでいるように見えなかった。

「辛い記憶は交代人格に引き継がれている可能性もあります」

それならば麗花が、過去のトラウマに縛られている様に見えなくても不思議はないと思った。

「記憶がないと言う事は、その後に別人格が性的虐待を受けた記憶も本人は覚えていないと言う事ですか？」

高槻は頷く。

「本人と交代人格が、どの様に脳内で交わりを持っているかが分かりませんが、もし交代人格が行なっている事を本人に伝達していないのであれば、本人はその時の記憶も全くないでしょう」

やっと健は腑に落ちた。
麗花の症状の可能性があるとすれば、解離性同一性障害で間違いないと確信した。
ただ、絶対的確証がある訳ではない、デリケートな話を悪戯に直ぐに清太に伝える事はできない。
11月には引っ越しだと聞いているので、落ち着いたら話をする機会を作るかと思った。

「これから東京に移られるとおっしゃいましたよね。よろしければ私のところでも良いので、1度きちんと診察を受ける事をお勧めします」

「はい。知人にも進言してみます」