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●アンビバレント●
プロローグ
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2017年。
朝から頭痛が激しくて、弁当を作っていた途中で飯豊桜は鎮痛剤を飲んでダイニングテーブルに突っ伏した。
時計はまだ朝の5時。
高校生の息子が弁当を持って家を出るのは7時。
「参ったわね。朝から偏頭痛に悩まさられるなんて。気圧のせいかしら」
カタンと音がして、誰かが起きてきたのかと桜は思ったが、頭痛が酷くて顔を上げて確認したくなかった。
「おはよう」
桜は顔を突っ伏したまま、足音の主に声を掛けた。
「……おはよう」
青い低い声に、息子の賢一郎だと分かった。
「ごめんね、お母さん頭が痛くて。あんたが出かける時間までにはお弁当作るから」
何故こんなにも今朝は頭痛に悩まされるんだと思った。
「……良いよ。別に購買で買っても良いし」
賢一郎はキッチンのシンクに向かっていた。
「……ソファに横になれば?」
賢一郎の優しさに桜はホッとした。
賢一郎の目線の先の、調理台のまな板の上に包丁が置いてある。
「大丈夫よ。二度寝したら、それこそ起きれなくなる」
桜は両手で頭を支えながら、指先で顳顬を押さえる。
「うッ!」
桜が低い声で呻いた。
次第に背中に激痛が走る。
自分の背中に、一体何が起きたのか理解できない。
「け、けん?」
賢一郎の名を震える声で呼ぶ。
再び、背中に何かが鋭く刺さった。
桜はもう頭痛どころでは無い。
目を見開き、振り向くこともできない。
「……大丈夫だよ。ゆっくり寝てよ。愛してるよ、お母さん」
返り血を浴びている賢一郎は、優しい声で最後の言葉を母にかけ、背後から優しく抱きしめた。
朝から頭痛が激しくて、弁当を作っていた途中で飯豊桜は鎮痛剤を飲んでダイニングテーブルに突っ伏した。
時計はまだ朝の5時。
高校生の息子が弁当を持って家を出るのは7時。
「参ったわね。朝から偏頭痛に悩まさられるなんて。気圧のせいかしら」
カタンと音がして、誰かが起きてきたのかと桜は思ったが、頭痛が酷くて顔を上げて確認したくなかった。
「おはよう」
桜は顔を突っ伏したまま、足音の主に声を掛けた。
「……おはよう」
青い低い声に、息子の賢一郎だと分かった。
「ごめんね、お母さん頭が痛くて。あんたが出かける時間までにはお弁当作るから」
何故こんなにも今朝は頭痛に悩まされるんだと思った。
「……良いよ。別に購買で買っても良いし」
賢一郎はキッチンのシンクに向かっていた。
「……ソファに横になれば?」
賢一郎の優しさに桜はホッとした。
賢一郎の目線の先の、調理台のまな板の上に包丁が置いてある。
「大丈夫よ。二度寝したら、それこそ起きれなくなる」
桜は両手で頭を支えながら、指先で顳顬を押さえる。
「うッ!」
桜が低い声で呻いた。
次第に背中に激痛が走る。
自分の背中に、一体何が起きたのか理解できない。
「け、けん?」
賢一郎の名を震える声で呼ぶ。
再び、背中に何かが鋭く刺さった。
桜はもう頭痛どころでは無い。
目を見開き、振り向くこともできない。
「……大丈夫だよ。ゆっくり寝てよ。愛してるよ、お母さん」
返り血を浴びている賢一郎は、優しい声で最後の言葉を母にかけ、背後から優しく抱きしめた。
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