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No.2 お茶漬けの味

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店の扉が空いて、俺は入り口を見た。

「いらっしゃい」

俺が声を掛けると、見る人が見れば分かる高そうなスーツに身を包んだ奴、浮気ばかりしていた元恋人の田嶋伊織が入ってきた。

「よう。繁盛してんな」

もう閉店間際で誰も客なんていない。

「嫌味はいらねぇし。それよりまた厄介ごとか?」

正直俺はこいつの訪問が嫌だった。
どうせ、面倒なことだけ。

「俺がまるで厄介ごとがないと来ねぇみたいじゃーん」

戯けて言う伊織。

違うの?
フツーには来ねぇじゃん。
本気になったオンナが出来て、浮気も一切しなくなったんだろ?
俺の時は散々してたよな。
俺にオトコの味覚えさせておきながら、俺を好きだと良いながら、あちこちつまみ食いしては俺の所に戻ってきてたよな。

「カノジョはお前がここに来てるの知ってんのか?」

俺がグラスに入れた日本酒を出しながら挑発的に言うと伊織は笑う。

「さすがだねー。至には何も隠し事できねーわ」

クスクス笑って言う伊織。グイッと一気に日本酒を飲み干した。
隠す気もねーくせに、よく言うわ。

「で?なんの用?」

俺はそのグラスを下げて、調理場を布巾で磨きながら尋ねる。

「………………八神の情報、何かないか?」

八神空也。

元は白竜組の下っ端構成員。
気が弱いくせに、威勢だけは良くて。空回りしては良く兄貴達にボコられていた。

その空也は、正体不明の男が成り済ますために殺された。
その偽八神は、今どこにいるか分からない。
八神が裏で捌いていた六本木の鴉は警察に押さえられ、八神の収入源がひとつ減った。
だが、誰も八神を知らない。
写真が出回ったが、今となってはその写真も本人かどうかは謎だと言う。

「八神を見つけてどうする?政龍組の飯塚組長の息子を葬ろうとしたのは梶田だろ?その梶田も死んだ。もう八神を追う必要はないんじゃないか?」

確かに正体が分からない以上何をするかは未知数だ。
しかも飯塚組長の息子が、六本木の鴉を嗅ぎ回っていたのを八神も知っている。

「念には念だ。飯塚組長の息子を絶対守らないとならないんでね」

伊織が飯塚組長に恩があり、頭が上がらないことは俺も知っている。

「分かったよ。何か情報を得たら連絡する」

仕方なく俺はそう言った。

「助かるぜ。報酬ははずむよ」

分かってる。十分な額を伊織はいつも払ってくれている。
今の俺たちは、金だけの繋がりだ。

何度か冗談めかしてヨリを戻したいと言ったが、一切取り合ってはくれなかった。
それだけ今のオンナにマジなんだろう。
正直、嫉妬する。
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