上 下
10 / 50
No.1 恋するシャボン玉

10

しおりを挟む
工は五島組から真幸さんの用心棒になったが、真幸さん自身、6年ぐらい前までは五島組にいた。
と言っても、五島組長の秘書としてだけど。

なんでも大学を出て五島組長の秘書になっていたらしい。
ただ、その時はまだ俺はいなかったので、その当時を俺は知らない。

五島組を離れてからは、五島組長の舎弟の伊丹会長の誠竜会に移って、正式に構成員になったと聞いた。
そして3年前、伊丹会長の腹心だった若頭が、田島会系の組長の指示で、その組の鉄砲玉の凶弾に倒れ、その後、真幸さんが誠竜会の若頭に大抜擢された。
上納金もダントツだった真幸さんが若頭になることに、誰も異論はなかったと聞く。

でも、わざわざ良い大学を出て、なぜヤクザの秘書?なぜ構成員?なんて、俺じゃなくてもみんな思ってたけど、五島組長が襲われた時に、真幸さんが実は本家の政龍組の飯塚組長の孫だとわかり、みんなのなぜ?が解消された。

俺が5年前にこの組に入って、しばらくして初めて真幸さんに会った時は、なんて綺麗でカッコよくて、まるでモデルみたいだと見惚れてしまった。

「お前、初めて見る顔だな。新入りか?名前は?」

ニヤニヤして真幸さんは俺を見た。
まるで楽しいおもちゃを見つけた子供のような瞳で俺を見た。

「はい。最近、入りました。秋です」

緊張しながら俺は答えた。
真幸さんは、まだ舐め回すように俺を見る。

「年は?」

「23です」

「ふーん。子供ガキみてぇなツラしてるな。中学生でも十分通るな」

ふふふと真幸さんは笑った。

「お前、もう女知ってんのか?童貞か?」

真幸さんの言葉に俺は笑った。
そうだ、俺は童貞だ。
あいつにケツ掘られてたけど、女の経験ゼロだもんな。

「はい。童貞です」

俺の答えに、真幸さんはもっと楽しそうな顔になった。

「それって素人童貞?それとも風俗も経験なしか?」

「どちらもなしの童貞です」

「そうなのか?よし、今夜筆下ろしさせてやるよ。一緒に行こうぜ」

真幸さんが俺の肩を抱いてグイッと引き寄せた。

「あ、あのッ!無理、です!」

俺がそう答えると、兄貴達が我慢できずに笑う。

「真幸さん、そいつは無理ですよ。秋はインポなんですわ」

みんながドッと笑う。
みんなに笑われるのは仕方ない。真幸さんはどんな反応かと思った。

「マジか!もったいねぇなぁ!よし、俺が荒療治で治してやる」

真幸さんが言いながら笑う。
俺は何も答えられなかった。
俺がインポと知り、真幸さんは俺を弄る事が楽しくなったようだった。

俺に会う度にからかう。
やたらとしつこく風俗に誘う。
正直、俺は真幸さんが苦手になっていった。
会いたくなくなっていた。

ある日、俺は五島組長の運転手として、五島組長と真幸さんが会う五島組のシマのキャバクラまで向かった。

「お前も来い」

五島組長に言われて俺もキャバクラの中へ。
真幸さんはもう来ていた。
また弄られると俺はおとなしく離れて座っていた。

俺にもキャバ嬢がついた。
こういう場所は正直苦手だった。
クラブとはまた違って、女も派手で弾けている。
俺の隣に座ったキャバ嬢は、やたらとボディタッチをしてくる。
俺は相手をしていなかったが、なんだか俺は気に入られたのか、そのキャバ嬢がしつこく俺に絡んでくる。

「おい、そいつは俺のお気に入りだからな。手、出すなよ」

真幸さんが鋭い目で一喝した。
俺はびっくりした。
真幸さんが、お気に入りだと真剣に言ってくれたのが嬉しかった。
その一言で、俺は真幸さんに対して見方が変わった。
会う度にからかって俺を弄っていた人が、俺が嫌がっている姿を見て助けてくれた。
店を出た時真幸さんは俺に言った。

「秋。この世界に染まっても、心だけは汚すな。今のお前だから、俺もお前が気に入ってる。お前を弄っていいのは俺だけだからな」

煙草を吸いながら真幸さんは俺を見つめる。

「俺、真幸さんに嫌われてると思ってました。いつも意地悪だし」

素直に俺は言った。いや、抗議だった。

「ばぁか。可愛いヤツを苛めるのが俺の趣味だ。またな」

真幸さんはそう言って笑って車に乗って帰って行った。
俺はその車を見送り、真幸さんとの会話に心が満たされた。
五島組長が乗って待つ車の運転席に俺は座った。

「真幸は素直じゃねぇから、お前みたいに素直な奴が好きなんだよ。愛情表現が歪んでるがな。今夜も、どうしてもお前と飲みたいってうるさかったからよ。まあ、お前もヤツに絡まれるのは諦めろ」

五島組長のナイスアシストによって真幸さんへの誤解が解け、単純な俺は真幸さんに惚れた。
いざとなると本心を見せてくれる真幸さんが、人間的に好きになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...