8 / 50
No.1 恋するシャボン玉
8
しおりを挟む
五島組長が渋谷で襲われた時、俺は動けなかった。
突然のことで、何が起きてるか分からなかった。
舎弟の信二さんが五島組長を庇って重傷を負ったが、五島組長も軽傷を負っていた。
「秋!組長守れ!」
重傷を負った信二さんに言われて、俺はやっと動けた。
襲った賊は逃げていったが、俺は五島組長にぴったりくっついて、再び襲われることがないようにあたりを警戒した。
「大丈夫か!信二!」
組長が信二さんの名を叫んだ。
救急車で運ばれ、信二さんは一命を取り留めた。信二さんがいなかったら、五島組長は死んでいたかもしれない。
その後、工が五島組長を襲った賊を始末したと聞いたときは、工が普通のヤクザとは違うと思った。その腕を買われ、今は真幸さんの用心棒になっている。
優秀な工と俺の違う所は、工はまだ盃を交わしていないので、ホンモノのヤクザでもなかった。
同い年だが、俺の方がこの世界の先輩だが、工の方が俺の上を行っている。
俺より立派なヤクザだ。
この世界、いつ死んだって、ワッパかけられたっておかしくない世界だ。
俺は工と違って、鉄砲玉になるか、盾になるか、身代わりになって刑期を送るかの、そのどれかしか道はないと分かっている。
好きでこの世界に入ったわけではないが、そんな未来に絶望もしていなかった。
この仕事が好きかと尋ねられたら、好きとは答えられないが、俺には合っている気がする。
この世に楽しみなんてないからだ。
中学、高校と、俺は奥手な方だった。
女みたいな顔してて、体も小さくて、オカマ呼ばわりされたこともあった。
中学の時も彼女がいたことはなかったし、高校も共学といってもほぼ男子校のようなものだったので、女と関わることがほぼなかった。
そんな空間で男に襲われることがなかったのは、俺の周りの野郎どもは女の身体の良さを知っていたからだ。
社会に出てからも、金もないインポの俺に見向きする女なんていない。
未経験のまま、時間だけが過ぎた。
工がまだこの組にいた頃、俺は工が羨ましかった。
男らしくて、賢くて、背も高くて、おまけにイケメン。
俺にないものを全て持っていた。
俺が工みたいだったら、きっと俺は今のような人生歩んでなかった。
いや、違うか。
工みたいだったら、あいつは俺にあんな事はしなかっただろう。
俺が女みたいな顔して、身体も華奢で、出来損ないだったから、あんな事が出来たんだ。
そう、俺は欠陥人間だったから。
「何、ボーとしてるんだよ」
事務所のソファに足を組んで座り、工は雑誌を読んでいた。
不意に声を掛けられて俺はハッとした。
「ちょっと、考え事だよ」
俺はそう言ってごまかした。工は興味なさそうに雑誌を読み続ける。
真幸さんは五島組長と、組長の部屋で何やら話が盛り上がっているのかまだ出てきそうにない。
「真幸さんの下は慣れた?」
何か話題を作らないとと俺は思ってしまった。
何、気を使ってんだか。
「別に慣れるとか考えた事ねぇよ」
工らしい返事。
こいつは何を考えてるか分からない。
最初の頃は、俺に敬語だった。俺の方が先輩だし、れっきとした組員だったから。だが、かたっ苦しいのが嫌で、同い年だし敬語はやめようと言った。
「ずっと真幸さんの下にいるのか?」
「分からねぇよ。俺が決める事じゃない」
ムカつくほど落ち着いていて、それでいてカッコいい。
ズルいと、世の中不公平だと思った。
結局俺は、工に憧れてるんだろうな。
突然のことで、何が起きてるか分からなかった。
舎弟の信二さんが五島組長を庇って重傷を負ったが、五島組長も軽傷を負っていた。
「秋!組長守れ!」
重傷を負った信二さんに言われて、俺はやっと動けた。
襲った賊は逃げていったが、俺は五島組長にぴったりくっついて、再び襲われることがないようにあたりを警戒した。
「大丈夫か!信二!」
組長が信二さんの名を叫んだ。
救急車で運ばれ、信二さんは一命を取り留めた。信二さんがいなかったら、五島組長は死んでいたかもしれない。
その後、工が五島組長を襲った賊を始末したと聞いたときは、工が普通のヤクザとは違うと思った。その腕を買われ、今は真幸さんの用心棒になっている。
優秀な工と俺の違う所は、工はまだ盃を交わしていないので、ホンモノのヤクザでもなかった。
同い年だが、俺の方がこの世界の先輩だが、工の方が俺の上を行っている。
俺より立派なヤクザだ。
この世界、いつ死んだって、ワッパかけられたっておかしくない世界だ。
俺は工と違って、鉄砲玉になるか、盾になるか、身代わりになって刑期を送るかの、そのどれかしか道はないと分かっている。
好きでこの世界に入ったわけではないが、そんな未来に絶望もしていなかった。
この仕事が好きかと尋ねられたら、好きとは答えられないが、俺には合っている気がする。
この世に楽しみなんてないからだ。
中学、高校と、俺は奥手な方だった。
女みたいな顔してて、体も小さくて、オカマ呼ばわりされたこともあった。
中学の時も彼女がいたことはなかったし、高校も共学といってもほぼ男子校のようなものだったので、女と関わることがほぼなかった。
そんな空間で男に襲われることがなかったのは、俺の周りの野郎どもは女の身体の良さを知っていたからだ。
社会に出てからも、金もないインポの俺に見向きする女なんていない。
未経験のまま、時間だけが過ぎた。
工がまだこの組にいた頃、俺は工が羨ましかった。
男らしくて、賢くて、背も高くて、おまけにイケメン。
俺にないものを全て持っていた。
俺が工みたいだったら、きっと俺は今のような人生歩んでなかった。
いや、違うか。
工みたいだったら、あいつは俺にあんな事はしなかっただろう。
俺が女みたいな顔して、身体も華奢で、出来損ないだったから、あんな事が出来たんだ。
そう、俺は欠陥人間だったから。
「何、ボーとしてるんだよ」
事務所のソファに足を組んで座り、工は雑誌を読んでいた。
不意に声を掛けられて俺はハッとした。
「ちょっと、考え事だよ」
俺はそう言ってごまかした。工は興味なさそうに雑誌を読み続ける。
真幸さんは五島組長と、組長の部屋で何やら話が盛り上がっているのかまだ出てきそうにない。
「真幸さんの下は慣れた?」
何か話題を作らないとと俺は思ってしまった。
何、気を使ってんだか。
「別に慣れるとか考えた事ねぇよ」
工らしい返事。
こいつは何を考えてるか分からない。
最初の頃は、俺に敬語だった。俺の方が先輩だし、れっきとした組員だったから。だが、かたっ苦しいのが嫌で、同い年だし敬語はやめようと言った。
「ずっと真幸さんの下にいるのか?」
「分からねぇよ。俺が決める事じゃない」
ムカつくほど落ち着いていて、それでいてカッコいい。
ズルいと、世の中不公平だと思った。
結局俺は、工に憧れてるんだろうな。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
おだやかDomは一途なSubの腕の中
phyr
BL
リユネルヴェニア王国北の砦で働く魔術師レーネは、ぽやぽやした性格で魔術以外は今ひとつ頼りない。世話をするよりもされるほうが得意なのだが、ある日所属する小隊に新人が配属され、そのうち一人を受け持つことになった。
担当することになった新人騎士ティノールトは、書類上のダイナミクスはNormalだがどうやらSubらしい。Domに頼れず倒れかけたティノールトのためのPlay をきっかけに、レーネも徐々にDomとしての性質を目覚めさせ、二人は惹かれ合っていく。
しかしティノールトの異動によって離れ離れになってしまい、またぼんやりと日々を過ごしていたレーネのもとに、一通の書類が届く。
『貴殿を、西方将軍補佐官に任命する』
------------------------
※10/5-10/27, 11/1-11/23の間、毎日更新です。
※この作品はDom/Subユニバースの設定に基づいて創作しています。一部独自の解釈、設定があります。
表紙は祭崎飯代様に描いていただきました。ありがとうございました。
第11回BL小説大賞にエントリーしております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる