恋するシャボン玉(鳴かない杜鵑 side episode2)

五嶋樒榴

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No.1 恋するシャボン玉

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「社長、もうさ、期限はとっくに過ぎちゃってんのよ。どうするよ?」

俺の兄貴分は、もう見た目からしてヤクザそのもので、取り立てが本当によく似合う。俺はまるで映画のワンシーンのようにその光景を見ていた。

「明日までには!明日まで待ってください!」

事務所で土下座する社長。
小さな町工場。従業員は他に3人。
自転車操業でサラ金にしか手が出せなかった。
そんな相手に高利で金を貸していて、支払いを待てるはずがない。
自己破産でもされたら厄介だ。

「保険金、いくら入ってる?」

「700万です」

兄貴の質問に俺は答える。

「ふーん」

兄貴はそう言うと社長を見る。

「外にいる息子、まだ小学校上がる前だろ?フィリピン人の嫁は、うちで仕事世話してやっから息子はなんとかなるじゃん。社長があとは、どうすれば良いのかな?」

俺が百均で買ってきてやったシャボン玉で無邪気に遊んでる息子と、その母親のフィリピン人の嫁が工場の外で待っている。
社長は50近いが、フィリピンパブで知り合ったこの若いフィリピン人を妻にして子供まで作ったのに、幸せな生活は結局は長く続かなかったわけである。

息子が飛ばしたシャボン玉が、風に乗って屋根まで飛んでいく。
俺はそのシャボン玉を見ながら、自分がガキの頃を思い出した。
俺もよく1人でシャボン玉やってたな。

「とりあえず、一晩自分で考えてみよーか?嫁とガキはこっちで預かるわ」

兄貴はそう言うと、俺たちが乗ってきた車に嫁と子供を乗せた。
父親と離される事に子供は抵抗して泣いて暴れた。
嫁は諦めているのか、泣く子供をただ抱きしめている。
俺は運転席に座る。

「出せ。明日の朝、他の奴らが出勤する時間に確認しに来いよ。嫁は風呂に沈めろ」

「はい」

俺は返事をした。
子供への手土産も、突然の自身の家族の会話も、この家族を離散させることへの後ろめたさだったのかと思った。
本当に、気が弱い。

そして、もうこうなったら社長は逃げられない。
選択肢は何もない。
保険金だけでは足りず、嫁もこの先、ズブズブに沈められていくだけだ。
高利にだけは金借りたくねー。と、思う瞬間だ。

「坊主、車の中から吹くんじゃねーよ!バカかッ!」

兄貴が叫んだ。諦めて泣くのをやめた子供が、開けた窓からシャボン玉を吹いているが車の中に入ってくる。それが兄貴にかかったようだ。
子供はビビったのかシャボン玉を吹くのをやめた。

この2人に同情はしない。
全ては甲斐性なしの旦那が、父親が、蒔いた種だ。
でも、この異様で殺伐とした空気が、俺は好きなのかもしれない。
その辺が兄貴と違う。
だから俺はヤクザをやめられないのだと思う。

人の不幸に同情も何も感じない。
俺が自分を不幸だとも思ってないし、同情されたいとも思ってない。
全て自分の人生だと言う諦め。

今夜、社長は地獄の時間を過ごすのだろうとフと考えた。
この世を恨むんだろう。
俺たちを恨むんだろう。
自分を恨むんだろう。
そして、結局は、家族を守る為なのか、弱い自分から逃げる為なのか、自ら命を落とすのだろうか。
それとも、1人夜逃げをするか……。

今までだって、こんな債務者を追い込むことなど何度もしている。
それなのに、兄貴は今回、妙に同情的だ。
ただの人がいい兄貴とかなり違う。
どうしても自分の息子と重ねてしまってるんだろうと思った。
俺は運転しながら兄貴をチラチラ見てしまう。

「チラチラ見てんじゃねぇよ。運転に集中しろよ」

「すんません」

重い雰囲気のまま出口のない世界に、この親子を送り出すことになった。
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