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No.1 恋するシャボン玉

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俺はまともな恋愛をしたことがない。
したことがないんじゃなく、できなかったが正解かな。

19歳の時、知ってはいけない物を知ってから、それが俺のなにかを壊した。
現在28にもなって女をまだ抱けないのは、それが身体に刻まれているから。

今こうして、俺の勃たないモノを必死に咥え込んで、俺を興奮させようとしてる女が不憫でならない。

しゅうちゃん、そんなにあたし下手?」

レースのキャミソール姿の女、京子は言った。

「いや、俺が不能なだけ。アゴ疲れただろ?もういいよ」

俺はベッドから起き上がって、テーブルの上の煙草を咥えるとライターで火を点けた。

「あたし、それでも秋ちゃんが好きだからね!秋ちゃんは、あたしをどう思ってる?」

「勃たない男に告白とか、お前はどんだけ慈悲深いの?言っただろ?だから俺は28にもなって童貞だって」

俺はフッと笑って裸のままソファに腰掛けた。

「だいたい、俺みたいなのどこがいい?他の奴らに比べたら身体も華奢で、この先何かあっても、鉄砲玉として役に立つかどうかってモンだぜ」

俺は自分の役割を知っている。
ヤクザとしても半人前で、女だってまともに抱けない。
全てにおいて中途半端なんだ。

「顔が好き。綺麗な顔してる」

綺麗な顔ね、と俺は心の中で笑った。
俺はこの顔が大嫌いだ。

「いつか、あたしが秋ちゃんの初めて奪ってあげる」

京子の言葉に俺は笑った。

「そのセリフ、フツー男が言うんじゃね?」

「そっか」

京子は笑うとシャワーを浴びに行った。
俺はただ煙草を吸って、ラブホの薄暗い部屋の中で動けなかった。

俺のモテ期が来たのは、クラブの下働きを始めた頃だった。
店の女になぜかモテた。
可愛いだのなんだのと、まるで手の届くアイドルのごとくモテた。
ただ俺がインポだと言うと、試してみたいと挑んでくるが、それが本当だとわかると大抵はスーとフェードアウトしていく。
それもあって、店の先輩達も別に俺に嫉妬したりはしない。逆に同情される。

「もったいねーなー、宝の持ち腐れってもんじゃん。ってその宝がフニャチンじゃな」

あははとみんな笑う。
俺は笑われても別に腹も立たない。
事実なんだから仕方ない。

別に性欲もないから、女を抱きたいとも思っていない。
女の味も知らないまま、気がつけば28になっていた。

下働きからそのうち俺は、なぜかヤクザになっちまった。

ヤクザとなった俺のいる五島組のサラ金屋で、京子は結構な額の借金をしていた。
京子は24だったが、親の病気の治療費のための借金だった。AVの稼ぎだけじゃ、間に合わない時があったようだ。

顔見知りになった俺がインポの童貞だと話したら、面白がって何度か俺を誘ってきた。
京子は元々風俗嬢の経験もあってか、俺を勃たせないと自分のプライドが許せないんだろう。

「今日もダメか。結構ガンコね」

京子はそう言って俺のモノを指先でツンツンと突く。

「そう言えば、キスもしてなかったね。キスぐらいしても良くない?」

俺はイマサラ?と思った。

「悪いけど、付き合うつもりないから。もう、お前も俺を勃たせるのは諦めろよ」

どう出る?俺を引っ叩くか?

別に焦らしたわけじゃないけど、京子を俺から求めたことがないので、キスどころか京子の身体にも触れたこともない。
だが、俺に酷いことを言われても京子は顔色ひとつ変えない。

「だね。諦めるわ。秋ちゃん、好きな人いるんでしょう?」

ん?京子は何を言っている?

俺はジッと京子を見た。

「だって、そう思わないと、あたし惨めじゃん」

京子はそう言って俺から離れた。
今日は服を着たままだったから、すぐに気持ちも切り替えられたようだ。

「バイバイ」

俺が京子の姿を見たのはそれが最後だった。
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