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依存からの共存
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その後、春夜は信行に謝罪したものの、信行との友情は壊れた。
もう元には戻れないが、信行は春夜への想いを消すことしかできなかった。
「二度と顔も見たくない。お前を一生許さない」
信行の言葉は当たり前だと春夜も分かっている。
もちろん覚悟の上だった。
自分の罪を認めて、信行の気持ちを受け止めた。
これが原因で残りの高校生活がどんなに辛くても、決して逃げないと春夜は決めていた。
真騎士は春夜との事を麻人に全て告白した。
麻人は、妻との間に肉体関係はなくとも、結婚生活を持続させたまま真騎士と関係を持っていたのだから、春夜の事で真騎士を責める気はなかった。
自分も春夜を傷つけたひとりなのだと自覚はしている。
「真騎士があの子に特別な感情を持っていると知りながら、俺は関係を続けていたんだもの、お前があの子と関係を持ったことで俺はお前を責めない。でも最後に悪あがきしてもいい?俺はちゃんと離婚する。お前の甥っ子にもちゃんと認められる様に努力する。だから、一度彼に会わせてもらえないか?彼が嫌がるなら諦める。お前とも別れる」
麻人の言葉に真騎士はびっくりして、なんて言っていいか瞬時に言葉が出てこなかった。
「麻人。俺がしたこと許せるの?俺はお前を裏切ったのに」
そう。
前に麻人に口説かれたときは、恋人がいると突っぱねたのに、麻人と言う恋人がいながら、春夜を抱いてしまったことに、真騎士は罪悪感でいっぱいだった。
「……………正直複雑。だけど、お前と彼の関係を正常に戻す儀式だったと思えば、俺は一度の過ちだとは思わない。必要悪だったんだと思う」
必要悪。
真騎士は狡いと思いながらも、その言葉がとてもしっくりきた。
そして、許してくれた麻人に甘える最低な自分に、真騎士は再び後ろめたさでいっぱいだった。
「やっぱり別れよう。春夜に酷いことをしておきながら、俺がお前の愛を受け止める資格はない」
「……………俺と会ってくれるのか彼に聞いて。彼がどう返事をするか分からないけど、俺はお前の罪を一緒に償いたいんだ」
真騎士は、どうして自分はこんなにも周りを傷つけてばかりなんだろうと、自分の存在を否定したくなる。
「分かった。春夜に聞いてみる。もう今日で別れることになっても、俺は麻人を愛してる。二度と会えなくても、麻人の幸せをずっと願ってる」
真騎士の言葉に、麻人は嬉しそうに微笑んだ。
二度と会えなくても、真騎士を愛した事は後悔していない。
真騎士はその夜、麻人との事を春夜に話した。
春夜は黙って話を聞いていたが、真騎士が話し終えるとフッと息を吐いた。
「……………僕との事があっても、麻人さんは真騎士さんと別れられないんだね。分かった。麻人さんが離婚したら麻人さん会うよ。それまでは、真騎士さんも麻人さんとプライベートでは会わないで」
春夜がまさか、そんな風に言うと思ってなかったので真騎士は正直驚いた。
「……………無理しなくて良いんだよ。俺は、罰を受けなければならないんだから」
真騎士がいうと春夜はフッと笑った。
「無理なんてしていない」
春夜はそう言うと遠い目をする。
「麻人さんを初めて見た時からもう5年以上経つのかぁ。綺麗な人だなって思った。負けたくないって思った。何を競ってたのかな。今思うと恥ずかしい。僕は何にムキになって焦っていたんだろうね」
そう穏やかに話す春夜は、真騎士をただ優しく見つめる。
「……………でも、僕は麻人さんに言いたい事は言わせてもらう。僕みたいな小姑がいても耐えられるのかな」
意地悪な顔でそう言って笑う春夜。
真騎士もフッと表情を和らげた。
「いいよ。俺がふたりの板挟みになる。もう逃げない」
真騎士が言うと、春夜はクスッと笑ってキッチンに入った。
必要悪。
その言葉が真騎士の脳裏に浮かんだ。
俺が若い頃に求めた物は、形を変えて醜いものと変わり、目の前の大事な存在を傷つけた。
無理に正常に戻ろうと、逆に深みにハマって行った。
人の性は時として、相手を傷つけ、相手を追い詰め、相手を悲しませる。
俺が春夜にした事は、正しい事だったとは言えない。
一度歪んだものを、同じ様に正常に戻す事は不可能。
この先、突然春夜の何かがまた弾けてしまうかもしれない。
それでももう俺は逃げない。
ちゃんと春夜の心に寄り添う。
叔父として。
「ねえ、真騎士さん。コーヒーと紅茶、どっち飲む?」
春夜の声に真騎士はハッとする。
「コーヒーが良いな」
真騎士が答えると、春夜は笑顔で頷きコーヒーを淹れ始める。
コーヒーの良い香りが立ち込める中で、真騎士はこの穏やかな幸せがずっと続く事を願った。
完
もう元には戻れないが、信行は春夜への想いを消すことしかできなかった。
「二度と顔も見たくない。お前を一生許さない」
信行の言葉は当たり前だと春夜も分かっている。
もちろん覚悟の上だった。
自分の罪を認めて、信行の気持ちを受け止めた。
これが原因で残りの高校生活がどんなに辛くても、決して逃げないと春夜は決めていた。
真騎士は春夜との事を麻人に全て告白した。
麻人は、妻との間に肉体関係はなくとも、結婚生活を持続させたまま真騎士と関係を持っていたのだから、春夜の事で真騎士を責める気はなかった。
自分も春夜を傷つけたひとりなのだと自覚はしている。
「真騎士があの子に特別な感情を持っていると知りながら、俺は関係を続けていたんだもの、お前があの子と関係を持ったことで俺はお前を責めない。でも最後に悪あがきしてもいい?俺はちゃんと離婚する。お前の甥っ子にもちゃんと認められる様に努力する。だから、一度彼に会わせてもらえないか?彼が嫌がるなら諦める。お前とも別れる」
麻人の言葉に真騎士はびっくりして、なんて言っていいか瞬時に言葉が出てこなかった。
「麻人。俺がしたこと許せるの?俺はお前を裏切ったのに」
そう。
前に麻人に口説かれたときは、恋人がいると突っぱねたのに、麻人と言う恋人がいながら、春夜を抱いてしまったことに、真騎士は罪悪感でいっぱいだった。
「……………正直複雑。だけど、お前と彼の関係を正常に戻す儀式だったと思えば、俺は一度の過ちだとは思わない。必要悪だったんだと思う」
必要悪。
真騎士は狡いと思いながらも、その言葉がとてもしっくりきた。
そして、許してくれた麻人に甘える最低な自分に、真騎士は再び後ろめたさでいっぱいだった。
「やっぱり別れよう。春夜に酷いことをしておきながら、俺がお前の愛を受け止める資格はない」
「……………俺と会ってくれるのか彼に聞いて。彼がどう返事をするか分からないけど、俺はお前の罪を一緒に償いたいんだ」
真騎士は、どうして自分はこんなにも周りを傷つけてばかりなんだろうと、自分の存在を否定したくなる。
「分かった。春夜に聞いてみる。もう今日で別れることになっても、俺は麻人を愛してる。二度と会えなくても、麻人の幸せをずっと願ってる」
真騎士の言葉に、麻人は嬉しそうに微笑んだ。
二度と会えなくても、真騎士を愛した事は後悔していない。
真騎士はその夜、麻人との事を春夜に話した。
春夜は黙って話を聞いていたが、真騎士が話し終えるとフッと息を吐いた。
「……………僕との事があっても、麻人さんは真騎士さんと別れられないんだね。分かった。麻人さんが離婚したら麻人さん会うよ。それまでは、真騎士さんも麻人さんとプライベートでは会わないで」
春夜がまさか、そんな風に言うと思ってなかったので真騎士は正直驚いた。
「……………無理しなくて良いんだよ。俺は、罰を受けなければならないんだから」
真騎士がいうと春夜はフッと笑った。
「無理なんてしていない」
春夜はそう言うと遠い目をする。
「麻人さんを初めて見た時からもう5年以上経つのかぁ。綺麗な人だなって思った。負けたくないって思った。何を競ってたのかな。今思うと恥ずかしい。僕は何にムキになって焦っていたんだろうね」
そう穏やかに話す春夜は、真騎士をただ優しく見つめる。
「……………でも、僕は麻人さんに言いたい事は言わせてもらう。僕みたいな小姑がいても耐えられるのかな」
意地悪な顔でそう言って笑う春夜。
真騎士もフッと表情を和らげた。
「いいよ。俺がふたりの板挟みになる。もう逃げない」
真騎士が言うと、春夜はクスッと笑ってキッチンに入った。
必要悪。
その言葉が真騎士の脳裏に浮かんだ。
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無理に正常に戻ろうと、逆に深みにハマって行った。
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俺が春夜にした事は、正しい事だったとは言えない。
一度歪んだものを、同じ様に正常に戻す事は不可能。
この先、突然春夜の何かがまた弾けてしまうかもしれない。
それでももう俺は逃げない。
ちゃんと春夜の心に寄り添う。
叔父として。
「ねえ、真騎士さん。コーヒーと紅茶、どっち飲む?」
春夜の声に真騎士はハッとする。
「コーヒーが良いな」
真騎士が答えると、春夜は笑顔で頷きコーヒーを淹れ始める。
コーヒーの良い香りが立ち込める中で、真騎士はこの穏やかな幸せがずっと続く事を願った。
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