子飼-秘密の共有-

五嶋樒榴

文字の大きさ
上 下
17 / 33
春の夜の夢

17

しおりを挟む
社会人2年目になり、真騎士もだいぶ仕事に慣れてきた。
春夜も小学5年生になり、塾にも通うようになっていた。
平日は家政婦が作った夕飯を先に食べて早めにお風呂にも入り、21時頃真騎士が帰ってくると22時には自分の部屋で寝る生活になっていた。
真騎士の生活もそのスタイルで落ち着いてきていた。
春夜が急に病気になっても、相変わらず直ぐに母親が栃木から駆けつけてくれるので、仕事に支障が出ることもなくこの生活が今のベストだと思った。
「波山君、これも頼むよ」
相変わらず麻人の下で真騎士は仕事をしている。
「今度の人事異動も変わることがなくてよかったです」
仕事帰りに少し飲もうと誘われて、真騎士と麻人は居酒屋で肩を並べていた。
「そうだな。毎年ドキドキするね。地方に飛ばされたらって」
「端元さんは大丈夫です。本社に必要な人ですから。俺の方が怖いです。地方に飛ばされたら死活問題です」
ビールをグイッと飲みながら真騎士は言う。
「大きな失敗がなければ君も地方に行かされることはないさ。東京近郊の支店に飛ばされることはあるかもだけど」
ふふふと笑いながら麻人は言う。
「縁起でもない冗談はやめてくださいよー!俺はずっと端元さんの下で働きたいんだから」
あははとふたりは笑い合う。
「……………恋人とは相変わらず仲がいいの?」
麻人の言葉に真騎士は止まった。
「……………もう去年の今頃に別れました」
真騎士の言葉に今度は麻人の動きが止まった。
「あはは。そうだったんだ」
麻人はそう言うとビールを喉に流し込む。
「端元さんは?もうお子さん、大きくなりましたよね」
「……………ああ。今年の誕生日で2歳になる。とりあえず妻の希望通り僕に似てる」
麻人の子供は女の子だった。
麻人の妻は娘を溺愛しながら外に男も作っていた。
もちろん麻人もそれでいいと思っていた。そのうち離婚するだろうと思っている。
妻が望んだのは麻人の遺伝子だけだったのだから。
「僕の話は良いよ。それより、恋人がいないなら、僕にもチャンスある?」
妖しく美しい瞳で麻人は真騎士を見つめる。
「……………ありませんよ。俺は甥っ子がしっかりするまで、もう恋はしないと決めたので」
「どうして甥っ子が関係するの?」
麻人が興味を示した。
「姉の子で今10歳なんです。姉はもう亡くなっていますが。色々あって今は俺と暮らしています。今はその子を第一に考えたいんです」
「そうなんだ。じゃあ、仕方ないね。そっかぁ。もう君を口説くこともないな。僕ももう30だ。その子がしっかりする頃にはもう僕は君に見てもらえる魅力もなくなってるだろうからね」
寂しそうに麻人は言った。
「……………俺のどこが良いんですか?」
真騎士は俯きながら尋ねた。
「初めは顔かな。とても僕好みの顔だったし。後は性格。何にでも一生懸命で。そして、影がある部分?何か、僕のように抱えてるものがあると思った。同じ匂い、みたいな?」
影と聞いて、それは真騎士が春夜に抱く邪な気持ちの事を言われている気がした。
「……………俺をよく見てくれていて驚きました」
「インターンシップに来た時にもう言っていたでしょ?君を見ていたって」
真騎士が男しか愛せないのを見抜かれた時だった。
「ねぇ。チャンスがないなら、せめて思い出をくれないか?前に言ったでしょ?一度でも良いからって。それもダメ?」
真騎士は麻人を見つめる。
「一度でも関係を持てば、俺を離せなくなると言ったくせに」
真騎士はそう言うと、麻人を見つめ続けた。
綺麗な顔の麻人に今直ぐにでもキスしたい。
「僕は離せなくなるけど、君が突っぱねて。そうすれば諦められる」
「ずるい人だ。そんなの」
真騎士はそう言うと目をそらした。見つめ続けていたら、場所も忘れて唇を重ねてしまいそうだった。
「ずるいよ。僕は貪欲だから。君をこの1年、ずっと狙っていたんだから」
麻人は淡々と語る。
「恋人と早く別れてしまえば良いとずっと思い続けていた。まさか、とっくに別れてたなんてね」
ビールを飲みながら麻人は目を瞑る。
ジョッキをおろすと目を開いて真騎士を見る。
「どうする?また考える時間が必要?」
麻人が言うと真騎士は首を振る。
「土曜日の夜、部屋を用意してください。母に甥っ子を預けます。朝まで過ごせる場所をお願いします」
真騎士も覚悟を決めた。
酒が入っているからだけではなかった。
麻人を抱きたいと思った。
この美しい人の乱れる姿が見たいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...