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春の夜の夢
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社会人2年目になり、真騎士もだいぶ仕事に慣れてきた。
春夜も小学5年生になり、塾にも通うようになっていた。
平日は家政婦が作った夕飯を先に食べて早めにお風呂にも入り、21時頃真騎士が帰ってくると22時には自分の部屋で寝る生活になっていた。
真騎士の生活もそのスタイルで落ち着いてきていた。
春夜が急に病気になっても、相変わらず直ぐに母親が栃木から駆けつけてくれるので、仕事に支障が出ることもなくこの生活が今のベストだと思った。
「波山君、これも頼むよ」
相変わらず麻人の下で真騎士は仕事をしている。
「今度の人事異動も変わることがなくてよかったです」
仕事帰りに少し飲もうと誘われて、真騎士と麻人は居酒屋で肩を並べていた。
「そうだな。毎年ドキドキするね。地方に飛ばされたらって」
「端元さんは大丈夫です。本社に必要な人ですから。俺の方が怖いです。地方に飛ばされたら死活問題です」
ビールをグイッと飲みながら真騎士は言う。
「大きな失敗がなければ君も地方に行かされることはないさ。東京近郊の支店に飛ばされることはあるかもだけど」
ふふふと笑いながら麻人は言う。
「縁起でもない冗談はやめてくださいよー!俺はずっと端元さんの下で働きたいんだから」
あははとふたりは笑い合う。
「……………恋人とは相変わらず仲がいいの?」
麻人の言葉に真騎士は止まった。
「……………もう去年の今頃に別れました」
真騎士の言葉に今度は麻人の動きが止まった。
「あはは。そうだったんだ」
麻人はそう言うとビールを喉に流し込む。
「端元さんは?もうお子さん、大きくなりましたよね」
「……………ああ。今年の誕生日で2歳になる。とりあえず妻の希望通り僕に似てる」
麻人の子供は女の子だった。
麻人の妻は娘を溺愛しながら外に男も作っていた。
もちろん麻人もそれでいいと思っていた。そのうち離婚するだろうと思っている。
妻が望んだのは麻人の遺伝子だけだったのだから。
「僕の話は良いよ。それより、恋人がいないなら、僕にもチャンスある?」
妖しく美しい瞳で麻人は真騎士を見つめる。
「……………ありませんよ。俺は甥っ子がしっかりするまで、もう恋はしないと決めたので」
「どうして甥っ子が関係するの?」
麻人が興味を示した。
「姉の子で今10歳なんです。姉はもう亡くなっていますが。色々あって今は俺と暮らしています。今はその子を第一に考えたいんです」
「そうなんだ。じゃあ、仕方ないね。そっかぁ。もう君を口説くこともないな。僕ももう30だ。その子がしっかりする頃にはもう僕は君に見てもらえる魅力もなくなってるだろうからね」
寂しそうに麻人は言った。
「……………俺のどこが良いんですか?」
真騎士は俯きながら尋ねた。
「初めは顔かな。とても僕好みの顔だったし。後は性格。何にでも一生懸命で。そして、影がある部分?何か、僕のように抱えてるものがあると思った。同じ匂い、みたいな?」
影と聞いて、それは真騎士が春夜に抱く邪な気持ちの事を言われている気がした。
「……………俺をよく見てくれていて驚きました」
「インターンシップに来た時にもう言っていたでしょ?君を見ていたって」
真騎士が男しか愛せないのを見抜かれた時だった。
「ねぇ。チャンスがないなら、せめて思い出をくれないか?前に言ったでしょ?一度でも良いからって。それもダメ?」
真騎士は麻人を見つめる。
「一度でも関係を持てば、俺を離せなくなると言ったくせに」
真騎士はそう言うと、麻人を見つめ続けた。
綺麗な顔の麻人に今直ぐにでもキスしたい。
「僕は離せなくなるけど、君が突っぱねて。そうすれば諦められる」
「ずるい人だ。そんなの」
真騎士はそう言うと目をそらした。見つめ続けていたら、場所も忘れて唇を重ねてしまいそうだった。
「ずるいよ。僕は貪欲だから。君をこの1年、ずっと狙っていたんだから」
麻人は淡々と語る。
「恋人と早く別れてしまえば良いとずっと思い続けていた。まさか、とっくに別れてたなんてね」
ビールを飲みながら麻人は目を瞑る。
ジョッキをおろすと目を開いて真騎士を見る。
「どうする?また考える時間が必要?」
麻人が言うと真騎士は首を振る。
「土曜日の夜、部屋を用意してください。母に甥っ子を預けます。朝まで過ごせる場所をお願いします」
真騎士も覚悟を決めた。
酒が入っているからだけではなかった。
麻人を抱きたいと思った。
この美しい人の乱れる姿が見たいと思った。
春夜も小学5年生になり、塾にも通うようになっていた。
平日は家政婦が作った夕飯を先に食べて早めにお風呂にも入り、21時頃真騎士が帰ってくると22時には自分の部屋で寝る生活になっていた。
真騎士の生活もそのスタイルで落ち着いてきていた。
春夜が急に病気になっても、相変わらず直ぐに母親が栃木から駆けつけてくれるので、仕事に支障が出ることもなくこの生活が今のベストだと思った。
「波山君、これも頼むよ」
相変わらず麻人の下で真騎士は仕事をしている。
「今度の人事異動も変わることがなくてよかったです」
仕事帰りに少し飲もうと誘われて、真騎士と麻人は居酒屋で肩を並べていた。
「そうだな。毎年ドキドキするね。地方に飛ばされたらって」
「端元さんは大丈夫です。本社に必要な人ですから。俺の方が怖いです。地方に飛ばされたら死活問題です」
ビールをグイッと飲みながら真騎士は言う。
「大きな失敗がなければ君も地方に行かされることはないさ。東京近郊の支店に飛ばされることはあるかもだけど」
ふふふと笑いながら麻人は言う。
「縁起でもない冗談はやめてくださいよー!俺はずっと端元さんの下で働きたいんだから」
あははとふたりは笑い合う。
「……………恋人とは相変わらず仲がいいの?」
麻人の言葉に真騎士は止まった。
「……………もう去年の今頃に別れました」
真騎士の言葉に今度は麻人の動きが止まった。
「あはは。そうだったんだ」
麻人はそう言うとビールを喉に流し込む。
「端元さんは?もうお子さん、大きくなりましたよね」
「……………ああ。今年の誕生日で2歳になる。とりあえず妻の希望通り僕に似てる」
麻人の子供は女の子だった。
麻人の妻は娘を溺愛しながら外に男も作っていた。
もちろん麻人もそれでいいと思っていた。そのうち離婚するだろうと思っている。
妻が望んだのは麻人の遺伝子だけだったのだから。
「僕の話は良いよ。それより、恋人がいないなら、僕にもチャンスある?」
妖しく美しい瞳で麻人は真騎士を見つめる。
「……………ありませんよ。俺は甥っ子がしっかりするまで、もう恋はしないと決めたので」
「どうして甥っ子が関係するの?」
麻人が興味を示した。
「姉の子で今10歳なんです。姉はもう亡くなっていますが。色々あって今は俺と暮らしています。今はその子を第一に考えたいんです」
「そうなんだ。じゃあ、仕方ないね。そっかぁ。もう君を口説くこともないな。僕ももう30だ。その子がしっかりする頃にはもう僕は君に見てもらえる魅力もなくなってるだろうからね」
寂しそうに麻人は言った。
「……………俺のどこが良いんですか?」
真騎士は俯きながら尋ねた。
「初めは顔かな。とても僕好みの顔だったし。後は性格。何にでも一生懸命で。そして、影がある部分?何か、僕のように抱えてるものがあると思った。同じ匂い、みたいな?」
影と聞いて、それは真騎士が春夜に抱く邪な気持ちの事を言われている気がした。
「……………俺をよく見てくれていて驚きました」
「インターンシップに来た時にもう言っていたでしょ?君を見ていたって」
真騎士が男しか愛せないのを見抜かれた時だった。
「ねぇ。チャンスがないなら、せめて思い出をくれないか?前に言ったでしょ?一度でも良いからって。それもダメ?」
真騎士は麻人を見つめる。
「一度でも関係を持てば、俺を離せなくなると言ったくせに」
真騎士はそう言うと、麻人を見つめ続けた。
綺麗な顔の麻人に今直ぐにでもキスしたい。
「僕は離せなくなるけど、君が突っぱねて。そうすれば諦められる」
「ずるい人だ。そんなの」
真騎士はそう言うと目をそらした。見つめ続けていたら、場所も忘れて唇を重ねてしまいそうだった。
「ずるいよ。僕は貪欲だから。君をこの1年、ずっと狙っていたんだから」
麻人は淡々と語る。
「恋人と早く別れてしまえば良いとずっと思い続けていた。まさか、とっくに別れてたなんてね」
ビールを飲みながら麻人は目を瞑る。
ジョッキをおろすと目を開いて真騎士を見る。
「どうする?また考える時間が必要?」
麻人が言うと真騎士は首を振る。
「土曜日の夜、部屋を用意してください。母に甥っ子を預けます。朝まで過ごせる場所をお願いします」
真騎士も覚悟を決めた。
酒が入っているからだけではなかった。
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