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舌鮃のパイ包・シャンパーニュソース

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結局押し切られ、広重は残業を終えると亮のマンションに向かった。
途中のコンビニでビールも買って手土産にする。
インターホンを押すと、亮の声が聞こえた。

「鍵開いてるよ」

広重はため息をついてドアを開けた。
前にこの部屋で亮としてしまった事を思い出すと恥ずかしくて身体が熱くなる。
奥に進んでいくと部屋の中はもう良い香りがしていた。

「お疲れい。もうすぐに食えるよ」

村瀬が鍋奉行をしている。

「奥さんは大丈夫ですか?」

「うん。直ぐに連絡したし。俺、家で飯食わないの多いし」

あっけらかんと村瀬は言う。

「それって奥さんにしたらちょっとマズくないですか?うちの親父もそれ多くて、しょっちゅう喧嘩してましたよ」

広重が言うと村瀬は笑う。

「大丈夫だって。娘の方に今は気が向いてるから、俺の世話しなくて楽なんじゃね?」

村瀬はそう言うが、広重はなんとなく気になった。
村瀬の性格に奥さんは我慢しているのでは?と心配になる。
子育てだってほぼ奥さんが一人でやっているイメージだからだ。

「だから息抜きさせるために、日曜日の夜は実家に帰してるさ。昼間もお義母さんがしょっちゅう来てるしね。旦那なんて、手がかからない方が嫁も楽なんだよ」

広重は村瀬の夫婦生活が想像できない。
日曜日の夜に妻を実家に帰して、自分は貴彦の家で過ごすのかと思うと、それは村瀬だけが得している気がした。
亮は話に一切入ってこないでビールを運んできた。

「んじゃ、そろそろ良いかなぁ」

村瀬が蓋を開けると、グツグツと鍋が美味しそうに出来上がっている。

「良いねぇ。寒い日は鍋に限るぜ」

一人テンションの高い村瀬。
とりあえずビールで乾杯すると鍋を突き始めた。
良い出汁が出ていて、鍋は最高に旨い。
一人暮らしではなかなか味わえないので、広重も感動しながら食べる。

「あー、これで明日仕事休みなら最高だったのにな」

村瀬がボヤくと広重と亮は笑う。

「明日休みなら、亮の家に泊まってくのにな」

村瀬が亮を呼び捨てにして、広重はドキンとした。
亮は何も反応しない。

「しっかし、亮の部屋、初めてきたけど綺麗にしてんな。良い嫁になるよ」

「何、バカ言ってるんですか。嫁になるつもりありませんよ」

なんとなく自然に楽しそうに会話するふたりに広重は疎外感を感じた。

「広重、ポン酢取って」

亮に言われて、目の前のポン酢を亮に渡す。
亮の指が広重の指に触れて、広重はドキッとした。

「部屋は綺麗で料理も旨い。抱き心地も良さそうだしな」

村瀬が色っぽい目で亮を見る。
広重は村瀬の口調にドキドキが止まらない。
煽られてる気がした。

「村瀬さん、酔ってます?」

ふふふと余裕の笑みで亮は切り返す。

「まだ酔ってないよー。素直な感想」

村瀬の口調に、広重が妙にドキドキしっぱなしだった。


抱き心地。
考えた事ないや。
犬神さんを抱いてみたいと思ったことあるけど、そんな事まで考えた事ない。


真っ赤になって広重は貴彦を思い浮かべたが、まだ触れたこともない貴彦の身体を想像することは出来なかった。
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