溺れる魚は切ない恋に身を窶（やつ）す

お好みの魚介とトリュフオイルのアヒージョ

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村瀬と貴彦が恋人同士だと言うことを、広重は亮に知られたくなかった。
上司の恋人を好きになってしまったことを亮に知られ、余計に貴彦に自分の気持ちなど知られたくない。


あー、ぐちゃぐちゃだー。
ダメだって分かってる。
犬神さんは村瀬さんの恋人なんだから、好きになんかなったらダメだって。
そのふたりの関係を吉国にまで知られて、吉国は俺をバカだと思ってるよね。
絶対無理な人を好きになっちゃったんだから。


落ち込んでいる広重は、早く家に帰りたかった。
この後４人で飲むことが本当に嫌だった。
目の前で村瀬と貴彦が仲良くする姿を見て、嫉妬して、それを亮に見られるのが恥ずかしかった。
だが、村瀬は広重の腕を離さない。
オーシャンが終わった後に、朝までやっている居酒屋へ４人は流れた。

「俺、生中」

村瀬が言うと亮も同じ物、貴彦は生グレープフルーツサワー。

「じゃあ、俺はウーロンハイで」

広重がそう言うと、目の前に座っている貴彦がフッと笑った。

「チョイス、渋ッ」

貴彦の何気ない笑顔に、広重は真っ赤になって内心メロメロになる。


可愛い。
年上なのに、可愛く思える。
もっと笑って欲しい。
この笑顔を独り占めしたい。


目の前を掌が上下に動き、広重はハッとした。
隣に座る亮が、貴彦に見惚れる広重を現実に戻した。

「また、直ぐボーッとして。犬神さんのこと見つめ過ぎ」

亮がムッとしながらそう言うと、広重は耳まで赤くして亮を睨んだ。

「べ、別に、見つめてなんか！」

村瀬は気にも留めないのか何も言わない。

「うん、俺もすげーガン見されたと思った」

面白がって貴彦が言うと、広重は恐縮して穴があったら入りたくなった。

「お待ちどうさまです」

店員が飲み物を運んでくれて、４人は乾杯した。
広重は真っ赤になって喉も渇き、ウーロンハイを一気に半分以上飲んだ。
完全に貴彦に気持ちを持っていかれてしまった。