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水帆と貴一と別れた疾風と速水は、地下鉄のホームで電車を待った。

「美波さんが良い人そうで良かった」

疾風が言うと速水はにっこり笑う。

「つーか、面白かったな、美波さん。遠崎さんを意識しっぱなしでずっと真っ赤になって萎縮しちゃって。確かに遠崎さんは気が強そうだが、それよりもあの美貌だな。男にしておくのが本当に勿体ない」

クククと速水は笑う。

「遠崎さんは男だけど綺麗すぎるんだよな。電車でも痴漢に遭うらしい」

「あ、分かる。俺も初めて会った時、男だって脳内で変換するのが大変だった」

速水が同調すると疾風も笑うしかなかった。
疾風も速水も、お互いの恋愛対象が男だと言うことはもちろん知らない。お互いが普通に女性が恋愛対象だと思っている。それでも水帆の美しさを肯定しても、ふたりは違和感もなく素直に受け入れられた。
それだけ水帆の美しさは、万人受けをすると言う証拠だった。
プァーンと音がして、電車がホームに入ってきた。
もう遅い時間のせいか地下鉄の乗客もまばらで、電車に乗り疾風と速水が並んで立っても周りに余裕があった。

「でも、強力な味方がいて良かったな。お前は前に白竜に狙われて命の危険もあったんだ。今回は絶対身勝手な行動はするなよ」

小声で速水は言う。
前回の覚醒剤の件で、疾風が白竜組の構成員から拳銃で撃たれた件を速水は言っている。
あの時は既の所で真幸に助けられて、肩を負傷するだけで済んだ。

「分かってるさ。でも、俺は例えこの件で警察に居られなくなったとしても逃げたくないんだ。もう、失うのは嫌なんでね」

六本木の鴉が真幸からのメッセージだと思っている疾風は、自分の人生全てを賭けてでもこの件に決着をつけたいと思っている。
六本木の鴉と愚嵐怒の関係が明るみになることが、自分と真幸を再び繋ぐものだと信じている。

「おいおい、警察に居られなくなるとか、それヤバい発言だから」

苦笑しながら速水は言う。

「最悪の場合だよ。点と点が線で繋がらない限りこの件は解決しない。遠崎さんの言う通りに俺は動く。あの人、元警察庁のエリート警視正だったからね。きっとあの人の言う通りに動けば間違いない」

水帆の経歴を聞けば聞くほど速水は驚くばかりだった。 

「凄いよね。帝應の幼稚舎から東大出て、医師免許どころか法医解剖医でもあり、FBIにも出向していたんだろ?それであの美貌。きっと家も金持ちだろ?最強だな。まさに勝ち組」

努力で頑張ってきた速水にしてみれば、水帆は憧れる存在だった。

「恋愛も苦労してなかったんだろうなぁ」

そこも想像するだけで速水的には羨ましい。速水は29年間童貞だったのだ。 

「恋愛ね。そう言えば速水は恋人いたんだっけ?」

疾風のフリに速水はドキッとする。

「え?あ、まぁね」

速水には、去年疾風が関わった、白竜組の覚醒剤の事件がらみで出会った遥希と言う恋人がいた。
ゲイバーで働いていた遥希は、性同一性障害で女の心を持つ男だったが、つい最近、やっと念願だった性適合手術をタイで終えてきたばかりだった。今は体調管理をしながらOLとして働こうと就活している。

「結婚とか考えてる?」

疾風が興味津々で突っ込んでくるので、速水は冷や汗が出てきた。

「ああ、まぁね。当分先だと思うけどさ」

誤魔化しながら速水は言うが、疾風はそれを聞いて微笑んだ。

「そっか。お前も仕事が仕事だから、早くに身を固めた方が良いんじゃねーの?なんてな」

疾風がそう言って笑うと速水も笑う。

「人のことよりお前はどうなのよ。恋人いるって言ってたじゃん」

突っ込まれるのは覚悟の上で疾風は速水を見る。

「現状は別れてることになってるけど絶対ヨリを戻す。きっとアイツも、それを望んでいると思うから」

疾風はいい笑顔でそう語る。

「じゃあ、どっちが先に結婚するか賭けるか?先に結婚した方に御祝儀10万」

速水が楽しそうに言うと疾風は呆れ顔になる。

「それずるくね?そもそも相手がいるお前とじゃ同じ土俵じゃねーじゃん。絶対速水の方が早いに決まってるし」

「あははは。バレた?」

それでも幸せそうな速水を見ていると、羨ましい気持ちもあった。
結婚なんて望んではいない。ただ早くこの腕に真幸を抱き締めたかった。
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