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水帆が副所長を勤めるIOCOFSラボに、40代の夫婦がやって来た。
娘を劇症肝炎で亡くし、娘の死に納得のいかない両親は、入院先の担当医師から病理解剖を提案されたのだった。
「昨夜、娘が亡くなりました。病院から直ぐに葬儀社の手配をお願いしたのですが、どうしても娘の死に納得がいかなくて。娘はまだ17歳の高校生だったんです。それが突然劇症肝炎なんて、信じられない」
娘を亡くした父親は涙を堪えて水帆に訴える。
「何か、思い当たる事はありませんか?ダイエット目的でサプリメントを飲み始めたとか」
水帆は言いながら、ダイエット目的のサプリメントが当てはまるだろうと思った。
「…………もしかして隠れて飲んでいたのかしら?ずっとダイエットは言っていたから気に留めてなかったけど」
考え込みながら母親は言う。
「分かりました。亡くなる90日以内にまだそれを服用していたなら、髪の毛から何か検出できるかも知れません。亡くなられた原因が分かっているので、なるべくご遺体に傷を付けないように、肝臓も取り出して調べさせていただきます」
水帆がそう説明すると、両親は頭を下げ娘の解剖を依頼した。
病理解剖に必要な書類は、全て入院していた病院から受け取っているので、水帆は早速解剖医に指示を出した。
まずは髪の毛から原因となった薬物を、スクリーニング検査によって特定できるか試すことになった。
そして臨床検査技師からその検査結果を聞いた水帆は、17歳の少女から微量の合成麻薬の検出がされたと聞き、検体と肝臓を摘出して、劇症肝炎と薬物との因果関係を調べるように指示を出したのだった。
水帆は解剖の結果が全て出ると疾風に電話をかけた。
「久しぶり。突然悪いね」
『お久しぶりです。何かありましたか?』
以前ふたりで会ってから、ずっと連絡を取り合っていなかった。
別にお互い意識して距離を取っていたわけではないが、久しぶりに聞く声にお互いが緊張してしまった。
「ああ、ちょっとね。今日解剖した遺体から、合成麻薬の成分が検出された。死因は劇症肝炎だ。ただ、その原因が合成麻薬だった事で、一応君に聞いてみようと思って」
『MDMAとか?』
「まだ詳しい成分は分からないが、おそらくその辺りの向精神薬だと思われる」
『警察へ報告は?』
「これからだ。そのうち所轄にも連絡が行くと思ったが、その前に君に話した」
水帆は疾風に説明しながら、合成麻薬の副作用でそう言った案件を聞いたことがないかも尋ねた。
『いえ、何も聞いたことがないです。薬は、使用者を捕まえない事には明るみに出にくいので。最近では手押しも減ってますからね』
確かに、現行犯逮捕でない限り立件は難しい。
今回のように亡くなってしまっては、ただの病死で処理される。
何も根拠がなく違法薬物を使用していたと仮定で表に出す事は、個人情報保護の観点から不可能である。そして17歳の女子高生の遺体はもう家族の元に戻っている。
「こうやって闇に葬られる薬物が横行してるんだろうね。もし何かあれば連絡をしてくれ。こちらも今回のデータは資料として保管してるから」
もし被害者が増えれば、疾風の耳に入ることもあると思って水帆は連絡をしたのだった。
しかし、どう見ても普通の高校生の17歳の少女が、簡単に薬物に手を出せる時代に水帆は憤りを感じた。
『了解です。…………また時間ができたら、会ってもらえますか?』
疾風の言葉に水帆はホッとする。
「もちろんだ。俺達は友人だろ?」
水帆がそう答えると疾風もホッとした。
『じゃあ、近いうちにまた連絡します』
疾風がそう言ってスマホを切り、水帆もスマホの通話を切った。
娘を劇症肝炎で亡くし、娘の死に納得のいかない両親は、入院先の担当医師から病理解剖を提案されたのだった。
「昨夜、娘が亡くなりました。病院から直ぐに葬儀社の手配をお願いしたのですが、どうしても娘の死に納得がいかなくて。娘はまだ17歳の高校生だったんです。それが突然劇症肝炎なんて、信じられない」
娘を亡くした父親は涙を堪えて水帆に訴える。
「何か、思い当たる事はありませんか?ダイエット目的でサプリメントを飲み始めたとか」
水帆は言いながら、ダイエット目的のサプリメントが当てはまるだろうと思った。
「…………もしかして隠れて飲んでいたのかしら?ずっとダイエットは言っていたから気に留めてなかったけど」
考え込みながら母親は言う。
「分かりました。亡くなる90日以内にまだそれを服用していたなら、髪の毛から何か検出できるかも知れません。亡くなられた原因が分かっているので、なるべくご遺体に傷を付けないように、肝臓も取り出して調べさせていただきます」
水帆がそう説明すると、両親は頭を下げ娘の解剖を依頼した。
病理解剖に必要な書類は、全て入院していた病院から受け取っているので、水帆は早速解剖医に指示を出した。
まずは髪の毛から原因となった薬物を、スクリーニング検査によって特定できるか試すことになった。
そして臨床検査技師からその検査結果を聞いた水帆は、17歳の少女から微量の合成麻薬の検出がされたと聞き、検体と肝臓を摘出して、劇症肝炎と薬物との因果関係を調べるように指示を出したのだった。
水帆は解剖の結果が全て出ると疾風に電話をかけた。
「久しぶり。突然悪いね」
『お久しぶりです。何かありましたか?』
以前ふたりで会ってから、ずっと連絡を取り合っていなかった。
別にお互い意識して距離を取っていたわけではないが、久しぶりに聞く声にお互いが緊張してしまった。
「ああ、ちょっとね。今日解剖した遺体から、合成麻薬の成分が検出された。死因は劇症肝炎だ。ただ、その原因が合成麻薬だった事で、一応君に聞いてみようと思って」
『MDMAとか?』
「まだ詳しい成分は分からないが、おそらくその辺りの向精神薬だと思われる」
『警察へ報告は?』
「これからだ。そのうち所轄にも連絡が行くと思ったが、その前に君に話した」
水帆は疾風に説明しながら、合成麻薬の副作用でそう言った案件を聞いたことがないかも尋ねた。
『いえ、何も聞いたことがないです。薬は、使用者を捕まえない事には明るみに出にくいので。最近では手押しも減ってますからね』
確かに、現行犯逮捕でない限り立件は難しい。
今回のように亡くなってしまっては、ただの病死で処理される。
何も根拠がなく違法薬物を使用していたと仮定で表に出す事は、個人情報保護の観点から不可能である。そして17歳の女子高生の遺体はもう家族の元に戻っている。
「こうやって闇に葬られる薬物が横行してるんだろうね。もし何かあれば連絡をしてくれ。こちらも今回のデータは資料として保管してるから」
もし被害者が増えれば、疾風の耳に入ることもあると思って水帆は連絡をしたのだった。
しかし、どう見ても普通の高校生の17歳の少女が、簡単に薬物に手を出せる時代に水帆は憤りを感じた。
『了解です。…………また時間ができたら、会ってもらえますか?』
疾風の言葉に水帆はホッとする。
「もちろんだ。俺達は友人だろ?」
水帆がそう答えると疾風もホッとした。
『じゃあ、近いうちにまた連絡します』
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