上 下
46 / 106
cinque

しおりを挟む
センター試験から半月経った、ジュリの第一志望大学合格発表の日に、まるではかったように伊織が伊丹の家に訪れた。

「何しにまた来たの?暇だね」

ジュリは意識しないように伊織に言う。

「暇じゃねーよ。伊丹さんから仕事の事で話があるって言われてね。受験は全て終わったか?」

伊織がニヤニヤしていて、ジュリはムッとしながらも顔が赤くなってしまった。

「分かっててどうせ今日来たんだろ!わざとくせー!」

ジュリはリビングのソファに突っ伏す。

「なーにが?何が分かってるって?」

楽しんでいたぶるような伊織に、ジュリは自分が言ったことが恥ずかしくなって顔を上げられない。

「おいおい、会えば必ずと言っていいほど喧嘩だな。部屋の外までジュリの金切り声が聞こえてたぞ」

着替えを済ませた伊丹がリビングにやって来た。

「全く、手のかかるお嬢さんで」

クスクス笑いながら伊織が言うと伊丹はフッと笑う。

「ジュリが手がかからなくなったら逆に心配だ」

伊丹と伊織におもちゃにされてると思いジュリは不機嫌になる。
伊丹が用意した、合格祝いの為のケーキやご馳走がテーブルに並んでいて、三人はワインでまずは乾杯した。

「合格おめでとう」

伊丹から祝いの言葉にジュリは赤面する。

「ありがとう」

こんな風に祝ってもらうのが、誕生日とも違ってなんとなく恥ずかしい。

「ほらよ。入学祝い」

やっぱり知ってて今日来たんだと、ジュリは伊織を真っ赤になって睨みつける。

「今日は素直に受けとれよ」

余裕の笑顔で言われてジュリは返す言葉がない。
余計なことを言って、伊丹に伊織からクリスマスプレゼントを貰ったこともバレたくなかった。
伊織からのプレゼントは箱の大きさで、通学に使えるバッグだと思った。
オレンジ色の箱から、女子大生が使うには高級すぎるだろうと呆れながら笑う。

「ありがとう」

不本意だが、物に罪も無いので素直にジュリはお礼を言った。
伊織は満足そうにニヤニヤしている。

「なんだよ、なんだかんだ言って仲良いな」

冷やかす伊丹にジュリは真っ赤なまま無言になる。

「あまり揶揄うとご機嫌損ねるんで程々にしとくか」

伊丹はワハハと笑い、ジュリは居心地が悪くて仕方なかった。

「最近は、愚嵐怒グランドって半グレ集団にちょっかい出されてるみたいっすね」

食事が終わり、ソファで伊丹と伊織は寛いでいると伊織が話を始めた。

「ああ、なにかと鬱陶しいんで、尾上んトコに大方任せてる。まぁ、最終的には、きっちり落とし前は付けてるけどな」

ハハハと伊丹は笑う。
尾上とは、伊丹の組の下位団体の組長だった。

「あいつら、警察にも一応目はつけられてるらしいけど、その網の目を見事にすり抜けるもんだから手に負えないらしいですね」

「それがあいつらの最大の武器だろ。まぁ、そのうちギャフンと言わせるけどね」

手中に収めるのは簡単とでも言うように伊丹は余裕だった。
さすが六代目政龍組の、武闘派で名が知れている大幹部だなと伊織は思った。

「あいつらはネット社会で暗躍してますからね。何か情報が欲しい時はいつでもどーぞ」

伊織の言葉に伊丹は笑う。

「お前に頼んだら高くつきそうだな」

伊丹はそう言って笑うが、ジュリはハッとした。
ネットの裏社会に、精通している人間が目の前にいたことに気がついた。

「なぁ、僕が頼んでも調べてくれる?」

ジュリが言うと伊織と伊丹はジュリを見る。

「交渉内容によるな」

楽しそうに伊織は笑う。

「パパの前でそう言うこと言う?」

ふふふとジュリも笑う。自分が不利にならないようにわざと伊丹の前で話をした。

「ずる賢いお嬢ちゃんだ」

伊織は笑いながら肩を竦めた。

「とりあえず僕の部屋に来て」

ジュリが誘うと伊丹は伊織を睨む。

「分かってまーす。指一本触れませんからー」

伊織はおどけて言うと、ジュリの後についてジュリの部屋に入った。

「ヤレヤレ、相変わらずの親バカで。で?何を調べて欲しいんだ?」

ジュリの部屋に入るなり伊織は尋ねる。
ジュリは伊織に健志の話を全て話した。

「……なーるほどね。ちょっとパソコン貸せ」

伊織はカタカタとパソコンの操作を始め、スマホを出すと電話を掛ける。

「あー、俺。悪いけど、今送ったアドレスに送って。…………そう、了解」

しばらくすると、メールが届いた。

「何をするの?」

ジュリは興味津々でパソコン画面を見つめる。

「企業秘密」

伊織はそう言うと、届いたメールのURLを開き、インストールした画面をクリックしていく。

「その高校生が使っていたSNSは分かるか?」

ジュリは慌てて、健志の女友達から聞いたサイトを伊織に伝える。

「僕もそれは調べたよ!でも何もなかった!」

「バーカ。そこが素人とプロの違いなんですー」

伊織は次々とサイトを開いていくと、1つのサイトに侵入した。
画面が真っ暗になって、突然次は天使の画像が出てきた。

「ヒット」

伊織がそう言ってクリックしていくと、チャットが出てきた。

「なにこれ」

「裏サイトのチャットだな」

その内容は、殆どが六本木の鴉と言う話題だった。
読んでいくうちに、健志が使っていた薬の名前が六本木の鴉だと言うことが判明した。

「これだ!絶対これだ!おい!この薬を使うなって警告出してよ!」

ジュリが伊織に叫ぶ。

「アカウントを登録しないと書き込めない。これ以上はこのサイトには入れない」

伊織の言葉にジュリは焦ったい。

「お前が手出しできる相手じゃない。この先は俺に任せろ」

伊織はジュリに危険が及ばないように、サイトの履歴をパソコンから削除した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

路傍の石

亜衣藍
BL
底辺を生きる男は、同じく底辺を生きる男と巡り合う。二人の行く末は破滅に向かうのか?

シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜

長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。 朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。 禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。 ――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。 不思議な言葉を残して立ち去った男。 その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。 ※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

処理中です...