六本木の鴉-カラス-（鳴かない杜鵑 episode2）

due

５

工は飯塚組長に、真春が伊丹の家で夕飯を食べて帰ると報告すると車の中で目を瞑っていた。
しばらくして家政婦から夕食が運ばれてきたので、それを食べているとスマホが鳴った。
真幸からだった。　

「はい。恵比寿です」

『わかってるよ。お前にかけてるんだから』

「何か？」

工はなんとなく分かっていたが聞く。

『ガキの子守は済んだのか？』

「今、伊丹会長宅で、夕飯食べてる最中ですね。まだしばらくかかるかと」

『なんでだよ！』

工の答えに真幸は苛立つ。

「真春さんの買い物に付き合っていた時にジュリと会って、自宅まで送ったら食事に誘われました」

『お前は？』

「車の中です。待ってるんですが、なかなか出て来ませんね」

伊織も来ていることは言わなかった。別にどうでも良いだろうと思った。

『良いから呼び出せ！さっさとガキを送ってお前は俺の所に来い！』

真幸はそう言うと通話を切った。工はやれやれと思いながら真春のスマホに電話をかける。

『何？』

「そろそろ帰りましょう」

真幸に呼び出されたとは言えない。

『まだ帰りたくない』

予想通りの答え。

「では帰る時、タクシーを呼んでもらってください」

こう言えば、帰ると言うと工は分かっている。

『……意地悪。今、行くよ』

真春が折れたので、工は食器を返すのに裏口のドアをノックした。
家政婦が出てきて工は食器を返す。

「ご馳走様でした。美味しかったです」

いつもの礼儀正しさで言うと、家政婦も笑って喜んだ。
玄関に回ると、真春が出てきた。

「気をつけてな」

伊丹が玄関まで出てきて言うと工は頭を下げた。
伊丹とジュリに見送られて、工は車をスタートさせた。

「もう少し居たかったのに」

真春は拗ねる。

「ですからタクシーで帰っても良かったのに」

涼しい顔で工は言う。

「やだ。お前と一緒にいる時間が減るじゃん」

真春の言葉に工は何も答えない。

「俺が嫌い？」

「いえ。好きとか嫌いとか、全くないです。ただ用心棒として側にいるだけです」

「真幸さんのことは？好きとか嫌いとかない？」

ため息をついて工は真春をチラリと見た。

「頭には忠誠心だけです」

その答えに真春はずるいと思った。

「真幸さんを抱きたいと思ってる？」

「ないです」

工が即答したので真春は黙った。しばらく沈黙は続いたが、真春が我慢できなくなった。

「一生、誰も抱かないの？」

「はい」

「いつか、気が変わったら、俺を好きになってよ」

「変わりません」

真春はシュンとなる。何を言っても無駄だと真春も諦めた。
飯塚組長の屋敷に到着すると、工はさっさと車から降りた。真春も仕方なく車から降りると最後の悪あがきで工に抱きついた。

「明日は大学送るのに10時には来て」

「分かりました。おやすみなさい」

工はそう言って真春の肩に触れ身体を離す。

「おやすみ」

真春はそう言うと走って屋敷に入って行った。