啓示~Luna e sole~

五嶋樒榴

文字の大きさ
上 下
31 / 33
成熟

2

しおりを挟む
別荘での生活は、いつもと違って新鮮だった。
不便の中の快適さに、2人はこの別荘ライフを満喫していた。
誰の目も気にすることなく、詩音は長谷川に抱きつき、長谷川も詩音の可愛い唇を堪能した。
素直に詩音を感じ長谷川の中で詩音は、今まで以上に大切な存在になっていた。今だけは、この幸せな夢から醒めたくなかった。
だがこの異世界のような2人だけの幸せな生活が終わったら、元の生活に戻ったら、もう、お互いが変わらなくてはいけないと長谷川は分かっている。
この生活を過ごし終わって東京に戻ったら、詩音と新しい形の家族になりたいと思っていた。
お互いを必要としながらも、依存し合わない関係。
だからこそ、今夜断ち切らなければいけないと思った。
長谷川の、詩音に対する本当の気持ちを素直に認め理解してもらいたかった。
「ねぇ詩音。明日はもう東京だ。ひとつお願いがあるのだけど」
ベッドの中で、詩音に腕枕をしながら長谷川は言った。
「何?」
詩音はもう眠くなっていて、長谷川にぴったりとくっついていた。
際限なく甘えている。
「私の呼び名なんだが、また、先生に戻してくれないかい?詩音だってもう何も怖くないだろう?私の元をいつかは巣立つ大人になるんだ」
「う、ん。でも、名前で呼びたいなぁ。先生だと、もう落ち着かない。修司さんの方がいい」
長谷川は無言で詩音の髪を撫でる。
愛おしくて、大切で。
「……私は詩音を愛してる。詩音も私を愛してる。でも、どこかで私達は、一線をずっと引かなくてはいけないんだよ。詩音に名前を呼ばれると、私はそれを我慢できなくなる。私の独占欲は暴走して、いつか詩音を穢す日が来てしまうかもしれない」
長谷川の瞳に映る詩音は、幸福そうに微笑む。
「修司さん。僕は、そんな日が来てもいいぐらい修司さんを愛してる。ずっと僕は修司さんを求めている。もちろん、今までの僕とは違うよ。愛してるから修司さんに抱いて欲しいって思ってる」
詩音の言葉に長谷川は首を振る。
「それはいけない事だ。今までの生活に戻ろう」
長谷川はそう言うと、詩音の唇を塞いだ。
「んんッ、んふッ」
詩音が甘い吐息を漏らした。
詩音の滑らかな舌が長谷川の激しい舌遣いに翻弄される。
「詩音、愛してる」
長谷川が詩音を見つめながら言うと、詩音は嬉しそうに頬を赤らめる。
「修司さんに、愛してるって言われるのが嬉しいの。もうずっと東京に戻りたくないな。ずっとこのまま、ここで2人だけで暮らしたい」
詩音の甘い囁き。
長谷川もこの世界に、詩音しかいらないと錯覚を起こしそうだった。
でも、その甘い蜜を知ってはいけない。
自分の愛は、詩音を慈しみ、詩音に捧げるためでなければならないと思った。
「詩音、本当に君を愛してる。君が初恋の人に似ていると思った時から。そして一緒に暮らすうちに、本当は私が君に依存していたんだ。でも私は自分を誤魔化していた。何度も君を拒否しながら、私は自分を保っていた。お願いだ詩音。私の名前を呼ばないでくれ。もうこれ以上、君との生活を壊したくないんだ」
お互いの孤独を埋めながら、そばに置いて守るというのは簡単だ。
だが、詩音の未来には、それではダメだと分かっている。
「お願いだ。私を元の私に戻してくれ。先生と呼んでくれ」
長谷川の悲痛な叫び。どんなに愛しても、越えてはいけない関係。
長谷川の葛藤が痛いほど詩音にも分かった。
長谷川が涙を流している。詩音は長谷川の頬に手をそっと当てた。詩音のその掌にも長谷川の涙が流れ落ちてきた。
この別荘での生活は、長谷川が与えてくれたひと時の夢。
どんなに愛し合っていても、肉体が結ばれることはこの先も永遠にない。
ただ、心はいつもお互いを愛し固く繋がっている。
詩音も、もう成長しなければいけないと覚悟した。
「……先生、ごめんなさい。分かっているんです。僕も先生を失いたくないって。先生、愛してます。あの日、僕を見つけてくれてありがとう」
長谷川は、両手の掌で涙を拭って詩音を抱きしめた。詩音も泣きながら長谷川に抱きついた。
2人は抱きしめあったまま眠った。
もうこのまま、眠りから覚めたくないと思いながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜

ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。 高校生×中学生。 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

処理中です...