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Act.1《危険な香りの男性が、初めての男-ヒト-でした。》
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夜中になっても成城は戻らなかった。
お互い自由になれたことで、成城がドンドン遠くの存在になったんだと思うと、もう直ぐこの家を出て母親の元に帰れる実感も湧いてきた。
母の元に帰れるのは嬉しいことなのに、ゆあはなぜか寂しくて涙が止まらない。
ベッドルームのドアがガチャリと音がして、成城が帰ってきたんだとゆあは思った。
うつ伏せで寝たフリをしてベッドで丸くなっていると、しばらくして成城が隣に来た。いつもと違うボディソープの香りに何故か胸が苦しくなる。
「…………起きてるのか?」
隣にいる成城がゆあに声をかけた。
ゆあは答えないが、肩が震えていた。
「どうしたんだ?寒いのか?」
成城が掛け布団をゆあの肩が隠れるまで被せると、ゆあは静かに成城に顔を見せた。
その目に涙が溢れていて成城はゆあを見つめる。
「何で泣いてんだ?」
成城は訳がわからずゆあを見る。
「………………とりで………………ひとりで……怖かったからッ!お兄ちゃんが……帰って………………来ないからッ………………もう………………帰って……来なかったらって」
ゆあが泣きじゃくり始めた。
成城はその顔を見てため息をつく。
「帰って来ねぇ訳ないだろ。ここは俺の」
ゆあが成城に抱きつく。成城は言葉を失った。
「色々あって………………いきなり、お兄ちゃんが離れて行ったから!」
意味不明なことをゆあが言うので成城はため息しか出ない。
「いきなりも何も、俺のする事はお前に関係ないだろ」
あくまでも成城はゆあを寄せ付けない。
「やなんだもん!夜、出掛けるの!」
いつも敬語で話かけていたのに、喋り方まで変わっていて、ゆあがなぜこんなにも甘えるのか成城には理解できない。
それでも小さな体を震わせて、成城にしがみつくゆあに冷たく出来なかった。
成城もゆあを優しく抱きしめた。
「もう寝ろ。朝までまだ時間がある」
ゆあは成城に抱きしめられ、成城の心臓の音を聞いていると安心した。
「このまま、寝ても良い?お兄ちゃんに抱っこしてもらいたい」
何故こんなにゆあが無防備に甘えてくるか理解はできなかったが、ゆあがそれで安心するならと成城も拒否しなかった。
しばらくしてゆあの寝息が聞こえてきた。
成城はゆあの髪を撫でる。
この2週間の出来事が現実だと思えないほど、成城も腕の中にいるゆあに正直癒されていた。
朝目覚めると、腕の中にゆあはいなかった。
成城はまだ眠い目を擦ってベッドから起き上がる。
ゆあはいつもと同じで朝食の支度をしながら成城に微笑んだ。
「お兄ちゃん、おはよう」
「はよ」
成城は調子が狂うなと思いながらソファに座った。
「飯食ったら、着替えと教科書なんかを取りに行く。組から車は借りるから一度俺だけ組に行ってくる」
「分かった。待ってる」
ゆあは笑顔で言う。成城はその笑顔を見てなぜか調子が狂いっぱなしだった。
成城が車を借りてきて、ゆあと一緒にゆあの家に向かった。
ゆあは家に入る前に保育園の敷地に入ると手を合わせ、成城はその姿を見つめた。
雅楽から受け取った家の鍵を使い中に入る。
ゆあはもう何ヶ月も時が過ぎてしまった感覚に陥った。
「早くしろよ。俺はこの後仕事がある」
成城は持ってきた段ボールを作っていくと、ゆあは着替えと教科書、学校で使うものを段ボールに詰めていく。
「なるべく荷物は少なくしろよ。どうせちゃんと引越し先が見つかれば、そっちに荷物は運ぶんだから、余計な服は置いて行け」
ゆあは頷くと、両親と3人で写った写真立てはバックに入れて持ち出した。
「運ぶぞ」
成城がテキパキと荷物を車に運ぶ。
「ゆあちゃん!今回は大変だったね!」
近所に住む老婆がゆあに声をかけた。
老婆は成城を見る。
背が高く目付きの鋭い成城に、びくついているのが成城にも分かった。
「あの人誰だい?」
ヒソヒソとゆあに尋ねる。ゆあは笑顔で答える。
「私の親戚のお兄ちゃん。雰囲気は怖いけど優しいから大丈夫だよ」
ゆあの言葉に成城は恥ずかしくなった。
早くこの場から立ち去りたい。
「ゆあ、行くぞ」
成城はもう運転席に座っている。
「はーい。じゃあおばあちゃん!またね!」
ゆあは笑顔で老婆に手を振る。
ゆあの元気そうな姿に老婆も安心した顔で見送った。
「夜には帰る。お前は家にいろ。明日から見張りがつくから学校にも通える。お前のお袋が学校に連絡してるはずだ」
ゆあは頷く。
「…………今夜も出掛けるの?」
ゆあが不安そうに尋ねる。
成城はゆあの髪をクシャッとした。
「どうせお前が俺の家にいるのも後少しだ。それまでは出掛けるのはやめる」
成城が意外なことを言うのでゆあは驚く。
「本当に?」
ゆあの問いに成城はため息をつく。
「毎晩泣かれたら、こっちの身がもたねぇんだよ」
真顔で成城はそう言うとゆあの髪から手を離した。
ゆあは満足そうに成城を見て笑う。
「人のツラ見て笑ってんじゃねぇよ」
成城がムッとすると、ゆあは嬉しそうにずっと成城を見つめて微笑んだ。
お互い自由になれたことで、成城がドンドン遠くの存在になったんだと思うと、もう直ぐこの家を出て母親の元に帰れる実感も湧いてきた。
母の元に帰れるのは嬉しいことなのに、ゆあはなぜか寂しくて涙が止まらない。
ベッドルームのドアがガチャリと音がして、成城が帰ってきたんだとゆあは思った。
うつ伏せで寝たフリをしてベッドで丸くなっていると、しばらくして成城が隣に来た。いつもと違うボディソープの香りに何故か胸が苦しくなる。
「…………起きてるのか?」
隣にいる成城がゆあに声をかけた。
ゆあは答えないが、肩が震えていた。
「どうしたんだ?寒いのか?」
成城が掛け布団をゆあの肩が隠れるまで被せると、ゆあは静かに成城に顔を見せた。
その目に涙が溢れていて成城はゆあを見つめる。
「何で泣いてんだ?」
成城は訳がわからずゆあを見る。
「………………とりで………………ひとりで……怖かったからッ!お兄ちゃんが……帰って………………来ないからッ………………もう………………帰って……来なかったらって」
ゆあが泣きじゃくり始めた。
成城はその顔を見てため息をつく。
「帰って来ねぇ訳ないだろ。ここは俺の」
ゆあが成城に抱きつく。成城は言葉を失った。
「色々あって………………いきなり、お兄ちゃんが離れて行ったから!」
意味不明なことをゆあが言うので成城はため息しか出ない。
「いきなりも何も、俺のする事はお前に関係ないだろ」
あくまでも成城はゆあを寄せ付けない。
「やなんだもん!夜、出掛けるの!」
いつも敬語で話かけていたのに、喋り方まで変わっていて、ゆあがなぜこんなにも甘えるのか成城には理解できない。
それでも小さな体を震わせて、成城にしがみつくゆあに冷たく出来なかった。
成城もゆあを優しく抱きしめた。
「もう寝ろ。朝までまだ時間がある」
ゆあは成城に抱きしめられ、成城の心臓の音を聞いていると安心した。
「このまま、寝ても良い?お兄ちゃんに抱っこしてもらいたい」
何故こんなにゆあが無防備に甘えてくるか理解はできなかったが、ゆあがそれで安心するならと成城も拒否しなかった。
しばらくしてゆあの寝息が聞こえてきた。
成城はゆあの髪を撫でる。
この2週間の出来事が現実だと思えないほど、成城も腕の中にいるゆあに正直癒されていた。
朝目覚めると、腕の中にゆあはいなかった。
成城はまだ眠い目を擦ってベッドから起き上がる。
ゆあはいつもと同じで朝食の支度をしながら成城に微笑んだ。
「お兄ちゃん、おはよう」
「はよ」
成城は調子が狂うなと思いながらソファに座った。
「飯食ったら、着替えと教科書なんかを取りに行く。組から車は借りるから一度俺だけ組に行ってくる」
「分かった。待ってる」
ゆあは笑顔で言う。成城はその笑顔を見てなぜか調子が狂いっぱなしだった。
成城が車を借りてきて、ゆあと一緒にゆあの家に向かった。
ゆあは家に入る前に保育園の敷地に入ると手を合わせ、成城はその姿を見つめた。
雅楽から受け取った家の鍵を使い中に入る。
ゆあはもう何ヶ月も時が過ぎてしまった感覚に陥った。
「早くしろよ。俺はこの後仕事がある」
成城は持ってきた段ボールを作っていくと、ゆあは着替えと教科書、学校で使うものを段ボールに詰めていく。
「なるべく荷物は少なくしろよ。どうせちゃんと引越し先が見つかれば、そっちに荷物は運ぶんだから、余計な服は置いて行け」
ゆあは頷くと、両親と3人で写った写真立てはバックに入れて持ち出した。
「運ぶぞ」
成城がテキパキと荷物を車に運ぶ。
「ゆあちゃん!今回は大変だったね!」
近所に住む老婆がゆあに声をかけた。
老婆は成城を見る。
背が高く目付きの鋭い成城に、びくついているのが成城にも分かった。
「あの人誰だい?」
ヒソヒソとゆあに尋ねる。ゆあは笑顔で答える。
「私の親戚のお兄ちゃん。雰囲気は怖いけど優しいから大丈夫だよ」
ゆあの言葉に成城は恥ずかしくなった。
早くこの場から立ち去りたい。
「ゆあ、行くぞ」
成城はもう運転席に座っている。
「はーい。じゃあおばあちゃん!またね!」
ゆあは笑顔で老婆に手を振る。
ゆあの元気そうな姿に老婆も安心した顔で見送った。
「夜には帰る。お前は家にいろ。明日から見張りがつくから学校にも通える。お前のお袋が学校に連絡してるはずだ」
ゆあは頷く。
「…………今夜も出掛けるの?」
ゆあが不安そうに尋ねる。
成城はゆあの髪をクシャッとした。
「どうせお前が俺の家にいるのも後少しだ。それまでは出掛けるのはやめる」
成城が意外なことを言うのでゆあは驚く。
「本当に?」
ゆあの問いに成城はため息をつく。
「毎晩泣かれたら、こっちの身がもたねぇんだよ」
真顔で成城はそう言うとゆあの髪から手を離した。
ゆあは満足そうに成城を見て笑う。
「人のツラ見て笑ってんじゃねぇよ」
成城がムッとすると、ゆあは嬉しそうにずっと成城を見つめて微笑んだ。
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