BLACK & PINK(鳴かない杜鵑 spin off2)

五嶋樒榴

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Act.1《危険な香りの男性が、初めての男-ヒト-でした。》

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マンションのエントランスのロビーにエレベーターで到着すると、ロビーのソファに紗季がいた。
雅楽は紗季の顔を見てチッと舌打ちをする。

「何してんだよ。クラブは?」

着物姿の紗季は今から出勤のようだった。
紗季は雅楽のクラブのママをしている。

「増尾から連絡をもらって心配になったのよ。無事で良かったわ」

紗季が成城に捕まっている少女を見る。

「この子は?」

「成城が拾ったガキだよ」

雅楽はそう言って成城を見る。

「…………お前のヤサに連れて帰れ。勝手に自由にするなよ」

面白くなさそうに雅楽は言うと、紗季と一緒にマンションの中に入った。

「あのッ!」

少女は成城を見つめる。

「ったく、めんどくせぇ。お前なんか拾うんじゃなかった」

成城は吐き捨てるとタクシーを拾い、少女と一緒に自分のマンションに向かった。

「私をどうするんですか?」

少女が成城を見つめて尋ねるが、成城は睨むだけで答えない。
少女は怖くてもう何も聞けなかった。
マンションに到着すると、成城はスーツの上着を脱ぎネクタイを外した。
少女は怯えたまま立っていた。

「安心しろよ。あの人と違って俺はガキに興味ない。お前を犯す気もねぇよ」

腰から拳銃を抜き取るとチェストの引き出しの奥にしまった。
少女はその様子を見ながら震える。

「名前は?どこに住んでる?」

成城はソファに座って少女に尋ねる。

「ゆあ。光の園の隣の家に住んでます」

ゆあと名乗る少女を見て成城は、面倒臭いものを拾ったとさらに思った。

「とりあえず、一度あの人のおもちゃになれば解放してもらえるだろう。悪いが俺は面倒が嫌いでね。お前を逃す気もねぇんだわ」

成城はソファに横になり目を瞑った。
ゆあも逃げ切れないと思っているのかその場に座り込んだ。

「……連絡しても良いですか?母が心配するから」

「GPS付いてんだろ?切っとけよ」

ゆあはスマホを操作すると電話をかけた。

「もしもし、ママ?ちょっと遅くなる」

ゆあの母は、光の園で発砲事件があって、警察がたくさん押し寄せている話をゆあにした。
ただ声が震えていて、ゆあは不安になった。

『落ち着いたら電話するから、こっちに帰ってきたらダメよ』

「ママ?どうしたの?どうして帰ったらダメなの?」

『良いから!連絡するまで帰ってきたらダメよ!』

ゆあが尋ねても、母親は一方的に電話を切った。
ゆあは不安そうに成城を見た。

「光の園の周りが大変なことになってるって母が言ってました」

成城は何も答えない。
19時過ぎに雅楽から電話が入った。
紗季がクラブに出勤したのでゆあを連れて来いと言う命令だった。

「おい。さっきのマンションに行くぞ。それさえ済めば家に帰れる」

成城は起き上がりネクタイを結んだ。

「…………どうしても、ですか?」

「ああ?」

怪訝そうな顔で成城は言う。

「仕方ねぇだろ。お前があんなところをうろちょろしてたのが悪かったんだ。じじいどもの心配してっから余計なことに巻き込まれんだろ。ガキ相手にあの人だってそんな無茶はしねぇだろ」

成城はそう言ってスーツの上着も羽織ると、レザーコートを腕にかけ、チェストにしまった拳銃を腰に隠した。

「いつも持ち歩くんですね」

ゆあが成城の仕草をずっと見つめたまま言う。

「良いからお前も立て。どうせお前と俺は、もう会うこともねぇ。犬に噛まれたと思って、これからヤられることも忘れろ」

成城はスマホでタクシーを呼んだ。
タクシーに乗ってしばらくすると、雅楽の舎弟の増尾から連絡が入った。

『今、どこだ?』

「これから組長のマンションに。今、向かっている途中です」

『今入った情報だ。今日行った、光の園の老夫婦が射殺された。恐らく、さっき組長を狙った奴らだろう』

あの後、また襲撃を受けたんだと成城は思った。
ゆあの母親が、落ち着くまでゆあを帰ってこさせないのもそのせいかと理解した。

「くそッ!」

光の園の土地の妨害を仕掛けたんだと成城は思った。
警察が押し寄せているのは、そのせいだと分かった。
成城の怒りに満ちた様子を、ゆあはハラハラしながら見ている。

『あの土地はしばらく手が出せねぇ。俺はこれからあの土地に行って様子を窺う。とりあえずお前は組長の指示で動け。会長と話をつけてるだろうから』

「分かりました」

成城は電話を切るとため息をついた。雅楽の怒りを考えると面倒でならなかった。
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