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……罪な人
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午後から同行するアポの前に、龍彦と千秋は定食屋で一緒に昼食を食べていた。
お互い無言で食事を進めていたが、一息つくと龍彦は口を開いた。
「先日美紅が、川瀬さんと会いました」
龍彦が千秋に先日の報告を始める。
「……え?」
どうしてそんな事になったのか分からず千秋は固まった。
美奈子の存在を、美紅に隠しておきたかったはずなのに、何故?と龍彦を見る。
「そうなった経緯を話すと長くなるんですけど、実は俺たち、川瀬さんの元ご主人だった志田さんと夏に出会っていたんです」
「ええ?」
あまりの事に千秋は耳を疑う。
「そんな偶然あるのか?でもそれで川瀬と会う事になるってどう言う事だ?」
龍彦は頷いたが、千秋は信じられないと言う顔で龍彦を見る。
「共通の知り合いが縁で俺たちと友人になった志田さんが、川瀬さんの元ご主人だと最近知って、美紅は川瀬さんと対峙する事を決めました」
偶然が必然になったのだ。
「美紅は大丈夫だったのか?」
「ええ。西川さんの時のようにもう逃げたくないと、俺のためにもちゃんと決着を付けると頑張ってくれました」
龍彦のために美紅が頑張ったと知り、千秋はキリキリと胸が痛む。
認めたくないが、もう千秋は完敗なのだ。
「……志田さんは元気か?」
裕介が美紅を気遣ってくれたように、千秋も裕介がずっと気になっていた。
許してもらうつもりはないが、裕介に幸せになってもらいたい。
「はい。まだお付き合いはしてませんが良い出会いがあって、今は幸せに向かっていると思いますよ」
その相手が自分の姉だとは、流石に言う必要はないと思った。
「そうか。良かった」
千秋は本心でホッとした。
「今思えば志田さんとの出会いは、美紅が決着を付けるきっかけの為に、出会うべくして出会ったと思います。それで全てが終えることができました」
「美紅は全て、終わらせられたんだな」
ふー、と千秋は深いため息をつく。
もしあの時、きちんと美紅と裕介に向き合えていたら、今とは別の結果になったのかと千秋は後悔する。
でも、それをせずに逃げたのは自分だと千秋は認めた。
「……分かった。美紅が幸せになるなら、もう俺は何も心配することはない」
もう龍彦に敵わない。
どうあがいても、美紅を取り戻すことはできない。
一度の過ちが、こんなに許されないものだと千秋は初めて知った。
「美紅は西川さんのついた嘘に傷つきました。もちろん俺も時には嘘を付きます。ただ今回俺は、自分の保身ではなく美紅のためでした。それでもやっぱり嘘は綻びが出る。そのせいで美紅を少しだけ悲しませました。西川さんのおかげで、嘘はやはりダメだと確信しました」
「嫌味ったらしいな」
千秋はクスリと笑う。
龍彦もふふふと笑った。
「さて、午後は神城商事との打ち合わせだな。浮かれてないでしっかり頼むよ」
千秋も、もう吹っ切らなくてはと思い、気持ちを仕事モードに切り替えた。
お互い無言で食事を進めていたが、一息つくと龍彦は口を開いた。
「先日美紅が、川瀬さんと会いました」
龍彦が千秋に先日の報告を始める。
「……え?」
どうしてそんな事になったのか分からず千秋は固まった。
美奈子の存在を、美紅に隠しておきたかったはずなのに、何故?と龍彦を見る。
「そうなった経緯を話すと長くなるんですけど、実は俺たち、川瀬さんの元ご主人だった志田さんと夏に出会っていたんです」
「ええ?」
あまりの事に千秋は耳を疑う。
「そんな偶然あるのか?でもそれで川瀬と会う事になるってどう言う事だ?」
龍彦は頷いたが、千秋は信じられないと言う顔で龍彦を見る。
「共通の知り合いが縁で俺たちと友人になった志田さんが、川瀬さんの元ご主人だと最近知って、美紅は川瀬さんと対峙する事を決めました」
偶然が必然になったのだ。
「美紅は大丈夫だったのか?」
「ええ。西川さんの時のようにもう逃げたくないと、俺のためにもちゃんと決着を付けると頑張ってくれました」
龍彦のために美紅が頑張ったと知り、千秋はキリキリと胸が痛む。
認めたくないが、もう千秋は完敗なのだ。
「……志田さんは元気か?」
裕介が美紅を気遣ってくれたように、千秋も裕介がずっと気になっていた。
許してもらうつもりはないが、裕介に幸せになってもらいたい。
「はい。まだお付き合いはしてませんが良い出会いがあって、今は幸せに向かっていると思いますよ」
その相手が自分の姉だとは、流石に言う必要はないと思った。
「そうか。良かった」
千秋は本心でホッとした。
「今思えば志田さんとの出会いは、美紅が決着を付けるきっかけの為に、出会うべくして出会ったと思います。それで全てが終えることができました」
「美紅は全て、終わらせられたんだな」
ふー、と千秋は深いため息をつく。
もしあの時、きちんと美紅と裕介に向き合えていたら、今とは別の結果になったのかと千秋は後悔する。
でも、それをせずに逃げたのは自分だと千秋は認めた。
「……分かった。美紅が幸せになるなら、もう俺は何も心配することはない」
もう龍彦に敵わない。
どうあがいても、美紅を取り戻すことはできない。
一度の過ちが、こんなに許されないものだと千秋は初めて知った。
「美紅は西川さんのついた嘘に傷つきました。もちろん俺も時には嘘を付きます。ただ今回俺は、自分の保身ではなく美紅のためでした。それでもやっぱり嘘は綻びが出る。そのせいで美紅を少しだけ悲しませました。西川さんのおかげで、嘘はやはりダメだと確信しました」
「嫌味ったらしいな」
千秋はクスリと笑う。
龍彦もふふふと笑った。
「さて、午後は神城商事との打ち合わせだな。浮かれてないでしっかり頼むよ」
千秋も、もう吹っ切らなくてはと思い、気持ちを仕事モードに切り替えた。
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