優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

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新しい時が流れる

19

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裕介は久しぶりに銀座に出てきた。
落ち着いた感じのワインバーに入ると、店員が裕介を席に案内する。

「早かったですね、詠悟さん」

裕介の待ち合わせの相手は詠悟だった。

「待てずに先に飲んでる」

詠悟はニヤリと笑ってワイングラスを持っていた。
裕介も席に着くと、店員が裕介のグラスにワインを注いだ。

「乾杯」

二人は軽くグラスを重ねた。
裕介と詠悟が知り合ったきっかけは、詠悟の父が経営する予備校で、裕介が学生時代に講師のバイトをしていたのが始まりだった。
教育学部に入学し小学校の教員を目指していたため、そのバイトは裕介にとってとても役に立った。
詠悟はその当時、裕介がバイトをする予備校の経営に携わっていたので、評判の良かった裕介を特に可愛がっていた。
裕介の結婚式にも予備校の講師仲間とともに出席もしたし、離婚した直後も話を聞いている。
裕介も詠悟を、年の離れた兄のような存在で慕っていた。

「最近どうなの?前に言ってたコクって来た同僚の子とはどうなった?」

綾奈の事を尋ねられて、そんな話も前にしたなと裕介は笑う。

「何もないです。同僚以上に見れませんから」

「そっか。あ、じゃあ、俺が紹介してやるぞ。そろそろ彼女も欲しくなっただろ?」

「えー。詠悟さんの紹介って不安だな」

「なんでだよ」

詠悟はムッとして笑う。

「みなちゃんと別れた直後はどうなるかと心配したけど、だいぶ元気にもなったな」

「そうですね。いつまでも引きずってても仕方ないし。ただ、先方の家庭がどうなったかは気になりますが」

「そんな事お前が気にする事じゃないだろ?前も聞いたけど、わざわざ相手の男にも会ったんだし、あっちの家庭のことはあっちの責任だ」

それは裕介も分かっている。
裕介が千秋に会って言ったことは、ただの自己満足なようなものだということも。
その後千秋がどうなったかまでは、裕介が気にすることではない。

「お盆は実家に帰るのか?」

「いえ。帰っても嫌な話を聞かされるかもしれないし、行くとしても兄の家ぐらいですかね」

実家に帰っても、美奈子の話を根掘り葉掘り聞かれるだけだと裕介は分かっている。
両親に心配させてしまってはいるが、まだしばらく放っておいてほしかった。

「そっか。あ、お盆にうちでバーベキューやるんだけど気分転換にお前も来る?」

「バーベキュー?」

初めて誘われて、詠悟とバーベキューのイメージがわかない。

「毎年シェアハウスのメンバーとやってんだよ。オーナーとしてこれでも少しは気を遣ってんのよ」

そう言うことかと裕介は笑う。詠悟がマンション経営やシェアハウスを経営していることは、もちろん裕介は知っている。

「でもお邪魔じゃないですか?シェアハウスの人も気を使うだろうし」

「そう言う奴らじゃないから大丈夫。そのうち二人は俺の姪と甥だし。どうせ一人で飯食ってんだからたまにはワイワイやろうぜ」

詠悟がとても裕介を気遣ってくれているのが分かり、裕介もありがたく誘いを受けることにした。
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