優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

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新しい時が流れる

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なんとか19時には仕事を終え、龍彦は伊藤との待ち合わせ場所の店に急いだ。
店に入り店内を見渡すと、気がついた伊藤が龍彦に手を上げた。

「遅くなってごめん」

伊藤の隣に龍彦は腰掛ける。

「俺たちもちょっと前だから」

「こんばんは」

美奈子が龍彦に笑顔を向けた。

「こんばんは。えーと、なんか変な感じですね」

分かっていたが、居心地が悪いと思いながら龍彦はメニューを手に取った。

「すみませーん」

龍彦が店員に声をかけてビールとつまみを注文する。
直ぐにビールとお通しが運ばれて来て、三人はお疲れ様と乾杯した。
料理が少しずつテーブルの上を埋めていくと、三人はそれなりに楽しく会話を弾ませる。それでも龍彦は伊藤に気を利かせて、なるべく美奈子には話を振らなかった。
美奈子は、伊藤と会話をする龍彦をさり気なく見つめた。自分よりも年下だが、落ち着いていて笑顔が素敵な龍彦に、久しぶりにときめいてしまった。

「でさ、うちのセクハラ部長がさ、亘理さんが帰った後に彼女出来たってうるさくてさー。そりゃ亘理さんだもん、いるに決まってんじゃんね」

先日の話かと、龍彦は聞きながら微笑んだ。

「そうですよねー。その話をしたら部署の女子が、悔しがったり悲しがってましたよ。やっぱり亘理さんモテモテだったんですね」

美奈子も話に乗って来た。

「いえいえ、俺なんてモテませんよ」

「謙遜、謙遜」

ほろ酔いの伊藤が龍彦を弄る。

「マジだって。それに彼女以外にモテたいとも思ってないし」

「わ!惚気。初めて聞くかも」

余計に伊藤が弄ると龍彦は余裕の顔で笑う。

「あー、いくらでも惚気られるよー。もっと聞きたい?」

反撃とばかりに龍彦が伊藤を弄り始める。

「良いなぁ。亘理さんの恋人。私もそんな風にまた愛されてみたいです」

寂しそうに美奈子が笑うと、龍彦と伊藤は美奈子を見る。

「……あ、別れたばかりなので」

美奈子は離婚していることを、今の職場には話していなかった。
なので、龍彦と伊藤は恋人と別れたばかりなのかと思った。

「川瀬さんなら、直ぐに見つかりそうだよね。ねー伊藤さん」

ニヤニヤして龍彦が伊藤を見るので、伊藤は龍彦の顔に恥ずかしくなる。

「川瀬さんにも好みとかタイプがあるでしょ。そう簡単に次って難しいよねー」

誤魔化すように伊藤が言うと美奈子はにっこり笑う。

「そうですね。でも、恋愛したいって思ってますよ」

美奈子の笑顔に伊藤は完璧に蕩けている。
龍彦は、心の中で伊藤に頑張れとエールを送りながらビールを飲み干した。
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