優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

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優しいあなたは……

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裕介は久しぶりに、兄、公介の家に来ていた。
甥の友樹にお土産のケーキを渡すと、公介の妻の紗織がコーヒーの準備を始める。

「生活は落ち着いたか?母さんが気にしてる。一人暮らしは慣れてはいるだろうけど寂しいんじゃないかって」

裕介が美奈子を忘れて、また他にいい縁があれば良いと両親は思ってる。
それを裕介に直接言うことができないので、公介に話しているんだと裕介も察した。

「離婚してだいぶ経つし、生活の方はどうにかなってる。仕事も楽しいしね」

当たり障りのない答えに、公介は複雑な気持ちだった。どうしても裕介が、無理をしているように思えてしまう。

「友樹、学校は楽しいか?」

「うん!幼稚園の時の友達もいっぱいいるし、たし算も楽しいよ」

おもちゃで遊ぶ友樹に裕介が話を振ってしまったので、子供の前であまりズケズケ聞くこともできないと公介はため息をつく。

「心配しないでよ。今は恋愛するつもりもないし相手もいないけど、可能性はゼロじゃないから。僕も友樹みたいな可愛い子供欲しいしさ」

本心かどうか分からなかったが、兄としては優しい弟が、もう二度と傷付いてはほしくなかった。
紗織はケーキとコーヒー、オレンジジュースを運んでくると友樹を呼ぶ。友樹もダイニングテーブルに着いた。

「裕介君はカッコいいから、本当はすっごくモテてるんじゃないのー?」

わざと紗織が冷やかすと裕介は笑う。

「おかげさまで生徒達には大人気だよ」

「僕もゆー君好きー」

友樹がケーキを頬張りながら言う。その顔に裕介も癒された。
その後裕介は友樹と遊んだり、早目の夕飯もご馳走になると、公介が裕介を飲みに誘った。

「駅まで送りがてら、少し外で飲んでくるよ」

公介は紗織にそう言って裕介を外に連れ出す。

「お姉さん、ごちそうさま。友樹、またな」

友樹と紗織が二人を見送った。

「呼んでも全然来ないけどさ、遠慮しないでたまにはこうして顔見せに来いよ。友樹も喜ぶ」

駅に近い小料理屋に入ると公介は言う。

「気を遣わせるのは申し訳ないしさ。でも、ちょっと兄さん達に会いたかったから」

「何かあったのか?」

心配する公介に裕介は寂しそうに笑う。

「美奈子を、許しても良いのかなって気持ちになってる。離婚して今更なにを言ってるんだと思われそうだけど」

「何かあった?」

裕介の言葉が信じられないと公介は裕介を見る。

「電話があったんだ。仕事を見つけて近いうちに家も出るみたいだ。離婚してから父親ともうまくいってないから」

「そんなの、自業自得だろ」

苦々しい顔で公介は言う。

「体調も悪くしてたみたい。子供が出来たかもと思ったらしい。結局はできてなかったけどね」

子供が出来ていない点だけは、裕介も聞いた時はホッとした。子供が出来ていたら、離婚したことを後悔しただろうから。そして本当に自分の子供なのか、モヤモヤしたまま復縁していたかもしれない。

「どうして許そうと思えるんだ?復縁するつもりか?」

「愛していたから裏切りが許せなかった。でも離れてみて、やっぱり美奈子には僕しかいないのかと思うと美奈子が可哀想に思えて。復縁まではまだ考えてないけど、そばにいた方が良いのかと思っちゃってね」

裕介は、美奈子が千秋と電話をやり取りしたことを知らない。自分にだけ頼っていると思っている。

「お前には悪いが反対だな。俺はもう美奈子ちゃんに近付いてほしくない。彼女は依存性だ。お前と上手くいかなければまた同じ過ちを犯しそうな気がする。それにお前の思いはただの同情だ」

公介の意見を聞いて裕介はフッと息を吐いた。確かに同情なのかもしれないと思った。

「兄さんに話して良かった。依存性か。確かにそうかも。美奈子の声を久しぶりに聞いて気持ちが揺らいだけど、もう美奈子のことは忘れるようにするよ」

相談してくれて良かったと公介もホッとした。
裕介の優しさにつけ込む美奈子が許せなかったが、もうそれは裕介に言うことではないと黙った。

「結婚って難しいね。でもいつか、僕も兄さん達みたいな家族を作れるように頑張るよ」

「お前には少しぐらい強引な、ハキハキした女の人の方が良いかもな」

強引な女の人と言われて綾奈が思い浮かび、それはないなと裕介は苦笑した。
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