優しいあなたは罪な人

優しいあなたは……

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美紅はネットで賃貸マンションを調べ、休日には不動産屋にも足を運んだ。
今日も不動産屋に行こうと玄関で靴を履いていると、龍彦が美紅に声を掛けた。

「住むところ探しに行くんだろ？俺も一緒に行くよ」

「なんで？亘理君、反対してたのに」

美紅はドキッとしながら龍彦を見る。

「反対だけど、一人で探させる方がもっと気になる」

過保護だと思いながらも龍彦は美紅の隣に並んで歩く。

「本当は1人にするのが心配だ。西川さんのことでまだ傷ついてるだろ？でも、原田がどうしても西川さんを、ちゃんと吹っ切るために新しい生活を始めるなら応援しないとな」

「ありがとう」

本当は千秋のことでシェアハウスを出る訳ではない。
でも本当のことを言う勇気もない。この気持ちを美紅も説明などできなかった。

「今年に入ってまだ半年も経ってないのに、もう何年も経ってしまった感じ」

千秋の不倫が発覚し、別居を始め、それでも離婚は防ごうと思う気持ちもあった。
自分たちだけのことではなく、離婚はお互いの家族をも巻き込むことだとよく分かったから。
でも結果は、その夫婦生活を破綻させてしまうことになった。
千秋に愛されていたはずなのに、結婚半年で千秋が不倫をしてしまった理由が未だに美紅は理解できない。だからこそ千秋を信用することもできない。

「原田にとっては辛いことの連続だったな。よく頑張ってるよ」

龍彦に励まされる度に、もっと自分は頑張らなくてはいけなかったのではないかと、一度だけの過ちを、本当は我慢して許さなくてはいけなかったのではないかと美紅は思ってしまう時がある。
そうすれば今龍彦に対して、こんなに辛い淡い思いを募らせることもなかったのにと。

「あんなに愛していたのに、どんなことがあっても嫌いになるなんて思ってなかったのに。たった一度なのに許せない私は我慢が足りなかったかな」

美紅の言葉に龍彦は怒りが込み上げる。

「一度だって許しちゃダメなんだよ！許せないなら許しちゃダメなんだ！」

美紅が辛いのがわかって龍彦はムキになる。
龍彦の優しさが、今の美紅には締め付けられるほど痛い。
優しくされればされるほど、美紅はこれ以上、龍彦を好きになりたくなかった。もう誰かを愛するのも怖くなっている。

「そうだね。だから離婚したんだもんね」

美紅の悲しそうな笑顔に龍彦は何も言えなくなった。