112 / 195
優しいあなたは……
2
しおりを挟む
シェアハウスに戻るまで、龍彦はわざと明るい話題ばかりをふって、美紅がシェアハウスを出て行こうとする話は一切聞かない態度だった。
突然の話で、美紅が出て行く事に納得できない龍彦はイライラする。その原因が千秋かと思うと、余計に腹が立ってくる。
次の日会社で仕事をしている間も、いつ美紅が出て行くかと思うと、龍彦は気になって仕方なかった。
「おはよう」
千秋の声に、龍彦は千秋に目を向ける。
千秋が美紅と離婚してからは、二人は仕事以外の話は一切しなくなっていた。
「おはようございます」
挨拶はしたものの、龍彦はムッとしながらパソコンに直ぐに目を向けた。
「午後の会議の資料、企画商品部から来てるな。目を通したか?」
ファイルに目を通しながら千秋が龍彦に尋ねる。
「ええ。かなり厳しい数字ですね。下半期にどれぐらいシェアを拡大できるか。最低ライン28%アップ目標ってもはやイジメですよ」
「亘理ならいけるだろ?期待してる」
千秋は笑って部署を出ると、缶コーヒーを買いに廊下の自販機に向かった。龍彦も立ち上がると直ぐに千秋を追う。
「西川さん」
龍彦の声に千秋が振り返る。
「ん?どうした?」
追ってまで、声を掛けてくるとは珍しいと千秋は思った。
「ちょっと良いですか?」
千秋と龍彦は、それぞれ缶コーヒーを買うと外階段に出た。
「何?仕事の話ではないんだろう?」
美紅のことかと、千秋も素直に龍彦の話を聞く気になった。
「原田がシェアハウスを出ていくと言ってます」
「……美紅が?なんで急に?」
千秋も美紅がなぜ、居心地のいい場所を離れようとしているのか分からない。
「離婚したから、無理に自立しようってしているように感じるんです」
悔しそうに龍彦は千秋を睨む。
「俺が口出しすることじゃないですけど、西川さんがしっかり原田だけを見ていれば、原田は苦しむことなんてなかった!なんで、ちゃんと原田だけを見てあげなかったんですか!」
今更だと分かっていても、自分には関係ないと分かっていても、龍彦は美紅の幸せを奪った千秋が許せなかった。
「……亘理には関係ないだろ。美紅に責められるなら俺はいくらでも責めを受けるが、美紅が出て行くことに動揺しているお前に責められる筋合いはない。お前は美紅をどう思ってるんだよ。同期だとか大事な仲間とか、そう言いながら俺と美紅が離婚して本当は喜んでるんだろ?美紅を狙ってるんじゃないのか?」
千秋の言葉に龍彦はカッとなって、千秋のスーツの襟を掴んでしまった。
もう片方の手で缶コーヒーを握りしめていたので、辛うじて千秋を殴るまでは行かなかった。
険しい顔でお互いに睨み合う。
「……殴りませんよ。西川さんみたいな奴は殴る価値もない」
千秋のスーツの襟から手を離すと、龍彦は千秋から目をそらした。
「すみません。原田に対する苛つきを西川さんに向けてしまって。失礼します」
龍彦は頭を下げて先に社内に戻った。
残された千秋は自分の缶コーヒーを見つめながら、龍彦を挑発してしまったことを悔やむ。
身勝手だと分かっているが、美紅と龍彦の距離が縮むのだけはどうしても嫌だった。
突然の話で、美紅が出て行く事に納得できない龍彦はイライラする。その原因が千秋かと思うと、余計に腹が立ってくる。
次の日会社で仕事をしている間も、いつ美紅が出て行くかと思うと、龍彦は気になって仕方なかった。
「おはよう」
千秋の声に、龍彦は千秋に目を向ける。
千秋が美紅と離婚してからは、二人は仕事以外の話は一切しなくなっていた。
「おはようございます」
挨拶はしたものの、龍彦はムッとしながらパソコンに直ぐに目を向けた。
「午後の会議の資料、企画商品部から来てるな。目を通したか?」
ファイルに目を通しながら千秋が龍彦に尋ねる。
「ええ。かなり厳しい数字ですね。下半期にどれぐらいシェアを拡大できるか。最低ライン28%アップ目標ってもはやイジメですよ」
「亘理ならいけるだろ?期待してる」
千秋は笑って部署を出ると、缶コーヒーを買いに廊下の自販機に向かった。龍彦も立ち上がると直ぐに千秋を追う。
「西川さん」
龍彦の声に千秋が振り返る。
「ん?どうした?」
追ってまで、声を掛けてくるとは珍しいと千秋は思った。
「ちょっと良いですか?」
千秋と龍彦は、それぞれ缶コーヒーを買うと外階段に出た。
「何?仕事の話ではないんだろう?」
美紅のことかと、千秋も素直に龍彦の話を聞く気になった。
「原田がシェアハウスを出ていくと言ってます」
「……美紅が?なんで急に?」
千秋も美紅がなぜ、居心地のいい場所を離れようとしているのか分からない。
「離婚したから、無理に自立しようってしているように感じるんです」
悔しそうに龍彦は千秋を睨む。
「俺が口出しすることじゃないですけど、西川さんがしっかり原田だけを見ていれば、原田は苦しむことなんてなかった!なんで、ちゃんと原田だけを見てあげなかったんですか!」
今更だと分かっていても、自分には関係ないと分かっていても、龍彦は美紅の幸せを奪った千秋が許せなかった。
「……亘理には関係ないだろ。美紅に責められるなら俺はいくらでも責めを受けるが、美紅が出て行くことに動揺しているお前に責められる筋合いはない。お前は美紅をどう思ってるんだよ。同期だとか大事な仲間とか、そう言いながら俺と美紅が離婚して本当は喜んでるんだろ?美紅を狙ってるんじゃないのか?」
千秋の言葉に龍彦はカッとなって、千秋のスーツの襟を掴んでしまった。
もう片方の手で缶コーヒーを握りしめていたので、辛うじて千秋を殴るまでは行かなかった。
険しい顔でお互いに睨み合う。
「……殴りませんよ。西川さんみたいな奴は殴る価値もない」
千秋のスーツの襟から手を離すと、龍彦は千秋から目をそらした。
「すみません。原田に対する苛つきを西川さんに向けてしまって。失礼します」
龍彦は頭を下げて先に社内に戻った。
残された千秋は自分の缶コーヒーを見つめながら、龍彦を挑発してしまったことを悔やむ。
身勝手だと分かっているが、美紅と龍彦の距離が縮むのだけはどうしても嫌だった。
2
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる