優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

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その罪を許せるか許せないか

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支店長から、また龍彦への届け物を頼まれ、美紅は千秋に会わなければ良いと思いながら本社へと向かった。
本社近くになって龍彦から電話が来て、美紅は耳にスマホを当てた。

『ごめん!俺が夕方取りに行くって言ったのに!こっちまで来なくていいよ。今、どこ?』

龍彦は気を利かせて、美紅と千秋が会わないようにしようとした。

「大丈夫だよ。仕事だし、千秋さんに会いに行くわけでもないし」

美紅はそう言いながらも緊張していた。

『……分かったよ。俺、下まで行くから。そこで受け取るね』

それでも龍彦は気を遣って部署を出ると、エレベーターに乗って1階まで降りて行った。
しばらくすると自動ドアが開いて、美紅が入り口に入って来た。
龍彦の姿を見つけると美紅は近づいた。

「わざわざごめん。支店長から連絡をもらった時、もう原田が出た後だったみたいで」

「本当に大丈夫だよ。じゃあ、ちゃんと渡したから」

美紅は笑顔で書類を龍彦に渡した。
その時、龍彦の背後に千秋の姿を見て美紅は固まる。
千秋も久しぶりに見る美紅に目が釘付けになった。

「美紅」

千秋の声に、美紅は顔が強張る。
その顔を見て、千秋は苦しそうな顔になる。
龍彦も振り返ると千秋を見た。

「お疲れ様です。外回りですか?」

龍彦が千秋に尋ねる。

「ああ。美紅、少し話せないか?」

やっと会えたと思って、この機会を千秋は逃したくないと思った。

「……直ぐに支店に戻らないと」

美紅は拒否するが千秋は美紅に近づく。

「途中までで良いから」

龍彦が止めようと口を挟もうとしたが、美紅は龍彦を見て首を振った。

「分かったわ。途中まで」

美紅はそう言って千秋と本社ビルを後にする。龍彦は気になったが、引き止めることはできなかった。
ビルを出て美紅と千秋は並んで歩いた。
久しぶりに会った千秋はすっかりやつれていて、美紅は千秋が心配になる。

「ちゃんとご飯食べてる?」

「うん。適当なものばかりだけどね。美紅がいた時よりは食生活はいい加減になったな」

千秋は寂しそうに笑う。

「シェアハウスに突然来て驚いた。まだ、私の気持ち、ハッキリしてないの」

「ごめん。どうしても美紅とやり直したい気持ちが強くてね。分かってる。俺が壊したって。でも本当に、もう二度と美紅を悲しませることはしない」

千秋の本心だと分かっている。
そして本当に一度だけだったのなら、全てを許して千秋の元に戻っても良いのかと思った。
まだ美紅の中で、千秋に対する愛情は消えていなかったせいか、このまま千秋を一人にしていいのか美紅の中で疑問が残っていた。

「簡単に許せるものじゃないと分かってる。逆の立場なら、俺だって許せるか分からない。でも少しでも俺に愛情が残ってるなら、戻る事も時間をかけてでも考えて欲しい」

千秋の瞳を見つめて、その瞳に自分が映っていると美紅は思った。
いつからこの瞳に自分以外が映るようになったんだと、美紅は思いながら胸が苦しくなる。
そしてやはりまだ、千秋を愛しているんだと悲しくなった。
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