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その罪を許せるか許せないか
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仕事を終えた裕介は、帰る前に区役所に寄って離婚届を入手した。
千秋と会ってから一週間以上経ち、美奈子との家庭内別居状態にも正直限界が来ていた。
重い足取りで美奈子が待つマンションに帰ると、玄関の鍵を開けて部屋に入った。
リビングへ行くと、美奈子は寝室に居るようでテレビは付いていなかった。
ダイニングテーブルの上には、ラップされたおかずと[お帰りなさい。1日お疲れ様です。お風呂も沸いてます。]とメモが置いてある。
裕介はそれを読むとため息をついて、ダイニングテーブルに離婚届を置くと、リビングの隣の部屋で着替えてから洗面所で手洗いとうがいをした。
「美奈子。良いかな?」
裕介は、寝室のドアの前で中にいる美奈子に声をかける。
「おかえりなさい」
美奈子の声だけが返ってきた。
「……ただいま。話があるんだけど」
「分かったわ」
裕介がドアの前で待っていると、美奈子が俯きながら出てきた。
2人はリビングに行くと、ダイニングテーブルに向かい合わせで座った。
ダイニングテーブルの上の離婚届を美奈子は見つめる。
いよいよ、離婚の話し合いが始まるんだと思った。
「あの日から、色々考えたんだ。美奈子のこと、本当に愛してた。だから、簡単に離婚して良いのか悩んだ」
美奈子は何も言えなかった。愛してた。と過去形だった事に、もう裕介は愛情がないのだと悟った。
この期間、毎日顔を合わすこともほぼ無かった。
食事の時間も別々で、美奈子は家事をする以外はほとんど一人で寝る寝室で過ごしていた。
「考えたけど、ごめん。僕はもう、美奈子が望むような夫にはなれない。美奈子とやり直す自信がない」
とうとうこの日が来たんだと美奈子は涙が出てきた。
どうすがっても無駄だと分かっている。
自分勝手な欲望で千秋と関係を持ったのだから。
それがバレた以上、裕介が触れてくれないのも分かっている。
「私、どうすれば良い?」
「荷物がまとまり次第実家まで送るから、先にご両親に離婚することを伝えて欲しい。今後の生活もあるだろうから貯金は半分渡すよ」
裕介の言葉に、美奈子は首を振った。
「実家に戻れば生活費は大丈夫よ。どうせ仕事も探さないといけないし。私が悪いのに、お金をもらうわけにはいかないわ」
裕介が美奈子に慰謝料を請求しないのに、財産分与は受け取れないと思った。
「……必要な時は言って。それしかもう僕は美奈子にしてやれない」
裕介はそう言ってから、離婚届にボールペンで記入していく。自分で決めたことだが流石に手が震える。
婚姻届を書いた時は希望に満ち溢れていたのに、今は悲しみで手が震えてしまう。
「判子を持ってくるから、その間に美奈子も書いて」
裕介が美奈子の前に離婚届を置いた。
美奈子はできることなら、それを破ってしまいたかった。
みっともなくても裕介に縋りたい。
離婚をしたくないと訴えたかった。
しかしそんな抵抗はできるはずもなく、裕介が認印を2本持ってくると美奈子は諦めて離婚届を書いた。
裕介は美奈子から受け取ると、認印をそれぞれ押してフッと息を吐いた。
「美奈子を実家に送った後に提出するから。明日にでも、実家に連絡してくれると助かる」
もう本当に終わりなんだと美奈子は思った。
バレないとどこかで思っていた、浅ましい自分に吐き気がする。
こんなはずでは無かった。
裕介と夫婦でいるために、千秋と関係を持ったはずだったのに。
関係を持った日に、千秋とは全てを断ち切れば良かったのに。
悪いことはできないんだと、改めて思い知らされた。
「裕介」
「うん?」
「本当にごめんなさい。ちゃんと明日、実家には連絡するから」
美奈子は立ち上がるとリビングを出て行った。
裕介は深くため息をつくと、本当にこれで良いのか再び心が揺れ動いた。
千秋と会ってから一週間以上経ち、美奈子との家庭内別居状態にも正直限界が来ていた。
重い足取りで美奈子が待つマンションに帰ると、玄関の鍵を開けて部屋に入った。
リビングへ行くと、美奈子は寝室に居るようでテレビは付いていなかった。
ダイニングテーブルの上には、ラップされたおかずと[お帰りなさい。1日お疲れ様です。お風呂も沸いてます。]とメモが置いてある。
裕介はそれを読むとため息をついて、ダイニングテーブルに離婚届を置くと、リビングの隣の部屋で着替えてから洗面所で手洗いとうがいをした。
「美奈子。良いかな?」
裕介は、寝室のドアの前で中にいる美奈子に声をかける。
「おかえりなさい」
美奈子の声だけが返ってきた。
「……ただいま。話があるんだけど」
「分かったわ」
裕介がドアの前で待っていると、美奈子が俯きながら出てきた。
2人はリビングに行くと、ダイニングテーブルに向かい合わせで座った。
ダイニングテーブルの上の離婚届を美奈子は見つめる。
いよいよ、離婚の話し合いが始まるんだと思った。
「あの日から、色々考えたんだ。美奈子のこと、本当に愛してた。だから、簡単に離婚して良いのか悩んだ」
美奈子は何も言えなかった。愛してた。と過去形だった事に、もう裕介は愛情がないのだと悟った。
この期間、毎日顔を合わすこともほぼ無かった。
食事の時間も別々で、美奈子は家事をする以外はほとんど一人で寝る寝室で過ごしていた。
「考えたけど、ごめん。僕はもう、美奈子が望むような夫にはなれない。美奈子とやり直す自信がない」
とうとうこの日が来たんだと美奈子は涙が出てきた。
どうすがっても無駄だと分かっている。
自分勝手な欲望で千秋と関係を持ったのだから。
それがバレた以上、裕介が触れてくれないのも分かっている。
「私、どうすれば良い?」
「荷物がまとまり次第実家まで送るから、先にご両親に離婚することを伝えて欲しい。今後の生活もあるだろうから貯金は半分渡すよ」
裕介の言葉に、美奈子は首を振った。
「実家に戻れば生活費は大丈夫よ。どうせ仕事も探さないといけないし。私が悪いのに、お金をもらうわけにはいかないわ」
裕介が美奈子に慰謝料を請求しないのに、財産分与は受け取れないと思った。
「……必要な時は言って。それしかもう僕は美奈子にしてやれない」
裕介はそう言ってから、離婚届にボールペンで記入していく。自分で決めたことだが流石に手が震える。
婚姻届を書いた時は希望に満ち溢れていたのに、今は悲しみで手が震えてしまう。
「判子を持ってくるから、その間に美奈子も書いて」
裕介が美奈子の前に離婚届を置いた。
美奈子はできることなら、それを破ってしまいたかった。
みっともなくても裕介に縋りたい。
離婚をしたくないと訴えたかった。
しかしそんな抵抗はできるはずもなく、裕介が認印を2本持ってくると美奈子は諦めて離婚届を書いた。
裕介は美奈子から受け取ると、認印をそれぞれ押してフッと息を吐いた。
「美奈子を実家に送った後に提出するから。明日にでも、実家に連絡してくれると助かる」
もう本当に終わりなんだと美奈子は思った。
バレないとどこかで思っていた、浅ましい自分に吐き気がする。
こんなはずでは無かった。
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関係を持った日に、千秋とは全てを断ち切れば良かったのに。
悪いことはできないんだと、改めて思い知らされた。
「裕介」
「うん?」
「本当にごめんなさい。ちゃんと明日、実家には連絡するから」
美奈子は立ち上がるとリビングを出て行った。
裕介は深くため息をつくと、本当にこれで良いのか再び心が揺れ動いた。
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