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その罪を許せるか許せないか
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日曜日の午後、千秋は落ち着かない気持ちで、裕介から指定された喫茶店の前の歩道柵に腰掛けていた。
美奈子の夫の裕介から突然電話が来たのは驚いたが、もう覚悟を決めるしかないと会う約束をしたのだった。
裕介の印象は、とても冷静な声の人だと、きっと怒りを通り越しているんだと思った。
詰られるのは分かっている。殴られても仕方ないと思っている。
どんな醜態を晒そうと、裕介に詫びなければいけないと思いながら千秋は裕介を待った。
「西川さんですか?」
千秋は声をかけられて、ハッとして顔を上げた。
「あ、はい」
千秋はびっくりして腰を上げ、裕介と千秋はしばらく顔を見合わせた。
「はじめまして。志田です。突然電話でお呼びだてしてすみません」
裕介が落ち着いていて、千秋は逆にそれが怖く感じる。
千秋から見た裕介は、想像通りの優しい感じの甘いフェイスのイケメンで、きっと誰にでも好かれるだろうと千秋は思った。
「いえ。こちらこそ、すみません」
千秋が頭を下げると、裕介は無表情のまま千秋を見つめた。
卒業アルバムで見たのとは違って、千秋は男としての魅力が十分に有り、きっと自分でも自信の有る人だろうなと裕介は思った。
美奈子が堕ちても仕方なかったのかと嫉妬心が湧く。
「立ち話で済むことではないので中に入りましょう」
裕介がそう言って先に喫茶店に入った。千秋もすぐ後に続く。
2人はテーブルに案内をされるとコーヒーを注文した。
「本当に、この度はすみませんでした。謝って済む話ではないのは分かってます。志田さんが納得いく要求は全て飲むつもりです」
一方的な千秋の言葉に、裕介は呆れ気味に笑った。
「僕の納得の行く要求って、もしかして慰謝料とかって考えていたんですか?ま、そうですよね。そう思われても仕方ないですよね」
裕介の穏やかな口調に千秋はドキドキする。
「そんな話がしたかったわけじゃないんです。西川さんはもう美奈子と二度と会わないと約束してくれてますし。だから、僕もそれは信じてます」
「……会えません。いえ、初めから2人で会うべきじゃなかったと、今更ですが思ってます」
「後悔先に立たず、ですね。きっと不倫をしているほとんどの人たちが、バレた時に思うことでしょうね。僕はその経験がないので気持ちは分かりませんが」
裕介の言葉に千秋は一切反論しない。
何を言われても、素直に聞くしかできない。
「……つい感情的にキツいことを言ってすみません。でも僕の気持ちもわかって欲しいので」
「いえ。全て俺が悪いので」
「確かに西川さんも悪いですよね。でも先に誘ったのは妻の方だと聞きました。だから、僕もあなたと会う気になったんです」
「え?」
どう言うことなのか千秋は分からない。
「美奈子があなたを誘ったことで関係が始まったのなら、それがあなたの奥さんにバレて奥さんを傷つけたのなら、僕にも責任はあります」
「いえ、俺たち夫婦の話に志田さんは関係ないです!」
「ない訳ないじゃないですか。美奈子とあなたがそんな関係になったのは、僕が美奈子に寂しい思いをさせていたんですから」
裕介は千秋を睨みながら言う。
千秋はその視線を外せない。
「あなたを憎むのと同じぐらい、僕は自分が許せない。僕がもっと美奈子に、愛情を示さなければいけなかったのかと自分を責めています。隙を作ったから、あなたが美奈子の誘惑に負けたんですから」
千秋はどんな非難も全て受ける覚悟だった。
罪のない人達を千秋と美奈子は、己の欲望と身勝手さで傷つけたのだから。
「……もし奥さんが、西川さんと寄りを戻したいと思っているなら、何があっても奥さんに許してもらってください。僕がこんな事を言う立場じゃないのはわかってます。あなたや僕の妻がした事は、決して許される事じゃない。でも、奥さんがまだ西川さんを愛しているなら、何があってもその手を離さないでください」
裕介は穏やかな顔で微笑んだ。
千秋はびっくりしたまま目を見開く。
「なぜ、そんな事を?俺が許せないはずですよね?」
「許せません。僕の幸せをあなたは奪った。でも、美奈子が奪った奥さんの幸せは修復させたいって僕のエゴです。西川さんは許せませんが、奥さんに罪はない。奥さんが望む形で幸せにしてあげてください」
裕介は話は終わったと伝票を手に取った。
「ここは、俺が払うので」
千秋が裕介を見て慌てて手を差し出した。
本当は、裕介も美奈子とやり直せるのか聞きたかった。
出来ることならやり直して欲しいと思った。
「西川さんがもっとひどい男だったら良かったのに。ご馳走になりますね。では、お先に失礼します」
裕介はそのまま千秋に背を向けた。千秋は裕介の本意が分からずただその後ろ姿を見つめる。
裕介が最後に千秋に投げかけた言葉。
千秋が今日来なければ、逃げるような男だったら、一度だけの過ちならまだ美奈子を許せるかもと思った。
でも千秋を見た事で、裕介は美奈子と別れる決意ができた。
美奈子の夫の裕介から突然電話が来たのは驚いたが、もう覚悟を決めるしかないと会う約束をしたのだった。
裕介の印象は、とても冷静な声の人だと、きっと怒りを通り越しているんだと思った。
詰られるのは分かっている。殴られても仕方ないと思っている。
どんな醜態を晒そうと、裕介に詫びなければいけないと思いながら千秋は裕介を待った。
「西川さんですか?」
千秋は声をかけられて、ハッとして顔を上げた。
「あ、はい」
千秋はびっくりして腰を上げ、裕介と千秋はしばらく顔を見合わせた。
「はじめまして。志田です。突然電話でお呼びだてしてすみません」
裕介が落ち着いていて、千秋は逆にそれが怖く感じる。
千秋から見た裕介は、想像通りの優しい感じの甘いフェイスのイケメンで、きっと誰にでも好かれるだろうと千秋は思った。
「いえ。こちらこそ、すみません」
千秋が頭を下げると、裕介は無表情のまま千秋を見つめた。
卒業アルバムで見たのとは違って、千秋は男としての魅力が十分に有り、きっと自分でも自信の有る人だろうなと裕介は思った。
美奈子が堕ちても仕方なかったのかと嫉妬心が湧く。
「立ち話で済むことではないので中に入りましょう」
裕介がそう言って先に喫茶店に入った。千秋もすぐ後に続く。
2人はテーブルに案内をされるとコーヒーを注文した。
「本当に、この度はすみませんでした。謝って済む話ではないのは分かってます。志田さんが納得いく要求は全て飲むつもりです」
一方的な千秋の言葉に、裕介は呆れ気味に笑った。
「僕の納得の行く要求って、もしかして慰謝料とかって考えていたんですか?ま、そうですよね。そう思われても仕方ないですよね」
裕介の穏やかな口調に千秋はドキドキする。
「そんな話がしたかったわけじゃないんです。西川さんはもう美奈子と二度と会わないと約束してくれてますし。だから、僕もそれは信じてます」
「……会えません。いえ、初めから2人で会うべきじゃなかったと、今更ですが思ってます」
「後悔先に立たず、ですね。きっと不倫をしているほとんどの人たちが、バレた時に思うことでしょうね。僕はその経験がないので気持ちは分かりませんが」
裕介の言葉に千秋は一切反論しない。
何を言われても、素直に聞くしかできない。
「……つい感情的にキツいことを言ってすみません。でも僕の気持ちもわかって欲しいので」
「いえ。全て俺が悪いので」
「確かに西川さんも悪いですよね。でも先に誘ったのは妻の方だと聞きました。だから、僕もあなたと会う気になったんです」
「え?」
どう言うことなのか千秋は分からない。
「美奈子があなたを誘ったことで関係が始まったのなら、それがあなたの奥さんにバレて奥さんを傷つけたのなら、僕にも責任はあります」
「いえ、俺たち夫婦の話に志田さんは関係ないです!」
「ない訳ないじゃないですか。美奈子とあなたがそんな関係になったのは、僕が美奈子に寂しい思いをさせていたんですから」
裕介は千秋を睨みながら言う。
千秋はその視線を外せない。
「あなたを憎むのと同じぐらい、僕は自分が許せない。僕がもっと美奈子に、愛情を示さなければいけなかったのかと自分を責めています。隙を作ったから、あなたが美奈子の誘惑に負けたんですから」
千秋はどんな非難も全て受ける覚悟だった。
罪のない人達を千秋と美奈子は、己の欲望と身勝手さで傷つけたのだから。
「……もし奥さんが、西川さんと寄りを戻したいと思っているなら、何があっても奥さんに許してもらってください。僕がこんな事を言う立場じゃないのはわかってます。あなたや僕の妻がした事は、決して許される事じゃない。でも、奥さんがまだ西川さんを愛しているなら、何があってもその手を離さないでください」
裕介は穏やかな顔で微笑んだ。
千秋はびっくりしたまま目を見開く。
「なぜ、そんな事を?俺が許せないはずですよね?」
「許せません。僕の幸せをあなたは奪った。でも、美奈子が奪った奥さんの幸せは修復させたいって僕のエゴです。西川さんは許せませんが、奥さんに罪はない。奥さんが望む形で幸せにしてあげてください」
裕介は話は終わったと伝票を手に取った。
「ここは、俺が払うので」
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本当は、裕介も美奈子とやり直せるのか聞きたかった。
出来ることならやり直して欲しいと思った。
「西川さんがもっとひどい男だったら良かったのに。ご馳走になりますね。では、お先に失礼します」
裕介はそのまま千秋に背を向けた。千秋は裕介の本意が分からずただその後ろ姿を見つめる。
裕介が最後に千秋に投げかけた言葉。
千秋が今日来なければ、逃げるような男だったら、一度だけの過ちならまだ美奈子を許せるかもと思った。
でも千秋を見た事で、裕介は美奈子と別れる決意ができた。
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