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千秋の嘘
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次の日千秋は出勤すると、社内の自動販売機で缶コーヒーを買って部署に入った。
「西川、ちょっと」
部長に声をかけられて、部長の部屋に呼ばれた。
「昨日休んでいた時に、東堂の法然部長から電話があってね、近いうちに打ち合わせをしたいと言われたんだが、来週の水曜日はどうだ?」
「はい、大丈夫です。すみません、休んだ日に限ってそんな大事な連絡があったとは」
恐縮して千秋は言う。
「たまたまだ。いつもちゃんとまとめておいてくれるから、休まれても大丈夫だよ。ただ、矢崎が抜けた穴も補ってもらわないとならなくなったので、忙しくなるのは覚悟して欲しい」
部長の言葉に千秋は、ああ、矢崎さんの件か。と思った。
つい先日、千秋の先輩でもある矢崎の社内不倫がバレ、矢崎は子会社に出向になったのだった。
おそらく本社に戻ることもないだろうと噂されている。
俺は大丈夫だ。
もう、美奈子とも会わない。
一度きりとお互いに納得している事だ。
「コンプライアンスが厳しくなっているこのご時世、取引会社でも不貞行為には容赦ないからな。お互い気をつけような」
愛妻家で有名な部長が、不倫などするはずがないと千秋も分かってはいる。
若い自分に、忠告という釘を刺したのだと思った。
「俺は大丈夫ですよ。部長と同じで愛妻家ですから」
千秋はそれしか言えず、部長はただ優しい目で笑ってくれた。
千秋は部長の部屋から出て自分のデスクの椅子に腰掛けると、ため息をつきながら缶コーヒーのプルトップを開けた。
部長と同じ愛妻家。
よくもぬけぬけとそんなセリフを吐けたな。
俺は、もう償えない嘘を美紅についているのに。
コーヒーを飲みながら、昨日の夜、最後まで美紅を抱けなかったことを千秋は考えた。
美紅を愛していると思いながらも、美奈子を抱いてしまった自分。
美紅が記念日だと、自分がプロポーズをした日を大事にしていたのに、そんな日に限って自分は美紅を裏切ったことの後ろめたさ。
全て自分が撒いた種で、自分に非があるのは分かっている。
美紅にバレれば許してもらえない事も。
それでも俺は美紅に嘘をつき続ける。
疑われようとも、愛しているのは美紅だ。
自分が汚い人間だと分かっている。
でも、美奈子を抱いた事は後悔してない。
これで、美奈子への想いも消える。
お互い、本当に愛し合っている相手を大切にしなければ……。
「西川さん、1番に御笠商事からお電話です」
事務の女性の声にハッとして千秋は電話に出る。
頭の中を仕事に切り替える。
もう、何も考えたくなかった。
仕事に没頭する事で、美紅への後ろめたさも忘れたかった。
「西川、ちょっと」
部長に声をかけられて、部長の部屋に呼ばれた。
「昨日休んでいた時に、東堂の法然部長から電話があってね、近いうちに打ち合わせをしたいと言われたんだが、来週の水曜日はどうだ?」
「はい、大丈夫です。すみません、休んだ日に限ってそんな大事な連絡があったとは」
恐縮して千秋は言う。
「たまたまだ。いつもちゃんとまとめておいてくれるから、休まれても大丈夫だよ。ただ、矢崎が抜けた穴も補ってもらわないとならなくなったので、忙しくなるのは覚悟して欲しい」
部長の言葉に千秋は、ああ、矢崎さんの件か。と思った。
つい先日、千秋の先輩でもある矢崎の社内不倫がバレ、矢崎は子会社に出向になったのだった。
おそらく本社に戻ることもないだろうと噂されている。
俺は大丈夫だ。
もう、美奈子とも会わない。
一度きりとお互いに納得している事だ。
「コンプライアンスが厳しくなっているこのご時世、取引会社でも不貞行為には容赦ないからな。お互い気をつけような」
愛妻家で有名な部長が、不倫などするはずがないと千秋も分かってはいる。
若い自分に、忠告という釘を刺したのだと思った。
「俺は大丈夫ですよ。部長と同じで愛妻家ですから」
千秋はそれしか言えず、部長はただ優しい目で笑ってくれた。
千秋は部長の部屋から出て自分のデスクの椅子に腰掛けると、ため息をつきながら缶コーヒーのプルトップを開けた。
部長と同じ愛妻家。
よくもぬけぬけとそんなセリフを吐けたな。
俺は、もう償えない嘘を美紅についているのに。
コーヒーを飲みながら、昨日の夜、最後まで美紅を抱けなかったことを千秋は考えた。
美紅を愛していると思いながらも、美奈子を抱いてしまった自分。
美紅が記念日だと、自分がプロポーズをした日を大事にしていたのに、そんな日に限って自分は美紅を裏切ったことの後ろめたさ。
全て自分が撒いた種で、自分に非があるのは分かっている。
美紅にバレれば許してもらえない事も。
それでも俺は美紅に嘘をつき続ける。
疑われようとも、愛しているのは美紅だ。
自分が汚い人間だと分かっている。
でも、美奈子を抱いた事は後悔してない。
これで、美奈子への想いも消える。
お互い、本当に愛し合っている相手を大切にしなければ……。
「西川さん、1番に御笠商事からお電話です」
事務の女性の声にハッとして千秋は電話に出る。
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もう、何も考えたくなかった。
仕事に没頭する事で、美紅への後ろめたさも忘れたかった。
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